理念を通して自社の強みを再確認する ~ 老舗の革新 vol.12~

執筆者:神田 良

更新日:2017年05月15日

理念を通して自社の強みを再確認する

(vol.11の続き)

【おかもとポンプ①】

 老舗というと家族経営といったイメージが重なる。家業から出発した事業を創業家が代々にわたって受け継ぐことが普通だからである。とは言え、家業を家業のままで受け継いでいくのは稀で、ある時点で家業から企業へと脱皮することで、事業を継承、成長させることが多い。この意味で、家業から企業への転換は老舗企業の一大変革であるとも言える。
 井戸用水中ポンプを本業とする「おかもとポンプ」の歴史でも、企業成長の礎は家業から企業への転換によってつくられた。

 1918(大正7)年、岡本延吉が井戸水の揚水用動力ポンプなどの製造を目的として、合資会社岡本ポンプ製作所を創業したのが、同社の始まりである。まだポンプがない時代、コンプレッサーをつくって、井戸から水をくみあげるビジネスを立ち上げたのである。その後、タービンポンプなどのポンプを自社開発し、同社の中核事業は確立されていくことになる。

 父と母である二代目セイの志を受け継いだ長男の三代目光弘は、技術者として技術力の向上に邁進する。とりわけ、国外の最新技術動向に注目して、海外で開催される展示会にも頻繁に出向いて人脈を構築するとともに、そこで新製品を購入してきては分解して自社製品の改善・改良に心血を注いだ。実際、ドイツ製ポンプを購入して、それを参考にして立型タービンポンプ(ボアホールポンプ)を自社開発している。

 続く四代目泰吉も同様に、技術力、製品開発力の強化に全力を尽くし、揚水用ポンプを自社で開発して、製造、販売、取り付けに至るまでの一連のビジネスシステムを構築していった。その結果、戦後、アメリカ進駐軍の本部整備工場の指定を受けるまでにその実力を認められただけでなく、現在の水中ポンプの源となるビルトインポンプを自社で開発している。

 兄たちが事業を継承しなかったことから、大学の文学部を卒業して貿易会社に勤めていた直司現社長が叔父(三代目)、父(四代目)の後を継ぐこととなった。五代目はそれまでの技術者とは異なる視点で、会社経営を見直し始めた。自身の貿易会社での経験を生かして海外展開を推進するだけでなく、家業としての限界にも挑戦することになる。

 入社してみると、経験や勘に基づく仕事の進め方が多いことに気付く。もちろん、経験知や暗黙知は強みの源泉であるし、それが会社の強みをつくり上げてきたことも理解できた。
 しかし他方で、そうした職人的な個人知が組織知にまで昇華されていないことが、企業成長の足かせになっていることも確認できた。

 まずは自社の歴史的な資産や強みを再確認しつつ明示化することを通して、どのような会社になりたいのかを共有することで、バラバラな個人知を組織知へとベクトル合わせすることから第一歩を踏み出した。
 経営理念「私達は地球の水・温泉・海水を有効利用し社会に貢献する企業です」、経営方針「お客様が、困った時におかもとポンプに相談してみようと思う『考える集団』を目指します」を明確にして、企業としての個性を確認、共有した。おかもとポンプらしさを基盤に、新たな事業展開に挑戦し始めたのである。

(vol.13に続く)

この記事の専門家

明治学院大学経済学部 教授

神田 良

一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了

1982年明治学院大学経済学部専任講師、86年同助教授を経て1993年から現職

著書に『実務入門 経営をしっかり理解する』(日本能率協会マネジメントセクター、共著)など
「老舗に学ぶ企業永続のマネジメント」(『信用金庫』2012年10月号)など学術論文多数。戦略研究学会理事

ミラサポおすすめコンテンツ

サービスを利用する
補助金など支援情報
無料派遣専門家
地域プラットフォーム
専門家派遣・電子申請のご利用は、こちらより企業IDをご登録下さい
ビジネスを創造する
ビジネス創造コミュニティ
業務「アプリ」マーケット
ミラサポビジネスプロジェクト/アワード
補助金・助成金ヘッドライン
ビジネス創造ヘッドライン
マイナンバー制度ヘッドライン
バーチャルシリコンバレー
ページトップに戻る