ニッチ市場を創る ~ 老舗の革新 vol.13~

執筆者:神田 良

更新日:2017年05月16日

ニッチ市場を創る

(vol.12の続き)

【おかもとポンプ②】

 深井戸水中ポンプ業界は大小企業が入り乱れ、激しい競争を繰り広げる業界である。おかもとポンプと同じ大正時代に創業された荏原製作所、川本製作所、そしてテラルが大企業の代表格である。加えて多くの中小企業が地域に根を張ってビジネスを展開している。しかも、世界的に見ると寡占化が進み、最大手のデンマーク企業グルンドフォスも日本市場に進出している。そのため、おかもとポンプも幾多の試練に見舞われている。

 直司社長が会社に戻ってきた頃も、大きな試練が訪れた。グルンドフォスがステンレス製のポンプを開発して、次々に海外の市場を制覇し、日本でも大きな脅威となった。グローバルな競争に晒されたのである。
 そこで、社長直々にイタリアに出向き、ロアラ社(現在米国ITTインダストリーズ)と契約してプレスポンプを輸入し、対抗策を打った。他方で、鋳物製ポンプでもコスト削減に向けて、中国で委託生産を開始した。もっとも中国での生産は簡単ではなく、製造現場から会社運営に至るまで地道に直接指導し続けて、品質を確保した。

 とは言え、受け身で競合に対応するだけでは企業の存続は難しい。自社の強みを生かして大企業が入り込めない、入り込まない差別化されたニッチ市場を開拓しなければならない。競合分析などの業界分析を行い、温泉ポンプの市場に可能性を見出した。

 大手企業は量産化能力に長けていて、規格化された画一的な商品を多く販売することでビジネスを成り立たせている。一度納品すれば10年以上メンテナンスが必要とされない清水用ポンプは、この意味で手離れがよく、うってつけの商品である。
 ところが、温泉用ポンプは温泉の性質が異なったり使用状況も違ったりするため、温度、ガス、圧力、スケール、腐食など多様な条件に合わせて一つずつ対応しなければならない。しかも厳しい使用条件から2年ももてば長いほうである。手離れが悪く、手間のかかる商売なのである。しかし、これは自社が培ってきた商売スタイルでもあるし、一度対応すれば買い替え需要が見込める顧客にもなりうる。
 ところが、温泉ポンプは据え付ければ終わりではない。絶え間なく温泉が出ていることが求められ、ポンプの調子が悪ければすぐに対応しなければならず、クレームの山が待ち受けている。クレーム対応力といったアフターサービスも不可欠となる。

 おかもとポンプの強みはこのクレーム対応力を養い、ノウハウを積み上げてきたところにある。同社営業マンはすぐにクレームに対応して、その場で保全・修理もこなすエンジニアとしても育成されている。
 過酷な条件で使用されるポンプに関して、どのような製品をどう据え付けるかから始まり、どのような使用条件で起こった製品不具合・使用不具合はどのようなもので、どう対応すべきなのか、また、どうなったら製品を取り替えるべきなのかといったことに至るまでの一連のノウハウが、差別的な競争優位性の源泉となっている。

 しかも「中小企業の研究開発はクレームに対応することです」との社長の言葉に表されているように、この市場で培ってきたノウハウは製品開発にも生かされている。
 おかもとポンプは自社の差別的な強みを認識し、それを生かせるニッチ市場を創造して市場とともに成長している。

(vol.14に続く)

この記事の専門家

明治学院大学経済学部 教授

神田 良

一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了

1982年明治学院大学経済学部専任講師、86年同助教授を経て1993年から現職

著書に『実務入門 経営をしっかり理解する』(日本能率協会マネジメントセクター、共著)など
「老舗に学ぶ企業永続のマネジメント」(『信用金庫』2012年10月号)など学術論文多数。戦略研究学会理事

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