既存資源を活用し、異業種分野に挑戦 ~ 老舗の革新 vol.10~

執筆者:髙井 透

更新日:2017年05月08日

既存資源を活用し、異業種分野に挑戦

(vol.9の続き)

【グンゼ】②

 医療事業分野は、グンゼにとって既存技術を応用することが可能な分野ではあった。しかし、事業が異なれば競争・市場環境がまったく異なってくる。その意味で、グンゼにとって医療ビジネスは、新規事業の中にあってもっとも競争・市場環境の違う分野であったと言っても過言ではない。
 
 今でこそ、医療などへの異業種参入も珍しくないが、30年以上前の異業種参入というのは、きわめて希有な事例と言えるものであった。事実、厚生省の審議官から「なぜ下着を作っているメーカーが医療に来るのか」と言われ、社内からも反対の声が出ていた。しかし、当時のトップの「リスクをとってもなにかしなければならない」という熱い思いに押されて、グンゼの医療ビジネスがスタートすることになる。

 最初に参入を意図したのが、医療分野では「クラスⅣ」(高度管理医療機器)と言われる体内で溶ける縫合糸と不織布の開発であった。
 当時、体内で溶ける縫合糸や不織布の開発は、日本の大手メーカーでもリスクが大きいため、参入していない分野であった。しかし、最初に難しい分野に参入したからこそ大きな技術的課題をクリアし、後に他の企業の追随を許さないことになった。

 この事業を担当した鈴木昌和氏(執行役員・QOL研究所所長)は、この分野への参入について、次のように述べている。
「我々が幸運だったことは、いろんな吸収性の素材や、また、今までコア事業で蓄積した加工方法を持っていたことだった。そのため、繊維を編んだりして不織布にもできるし、糸のままでも使える。つまり、市場を創り出すことが可能なすばらしいアイデアがあっても、資源がないとできない。我々はアイデアを実現できる資源を持ち合わせていたことが幸運だった」。

 資源を持っていたとはいえ、市場に関する知識はまったく有していなかった。そこで、グンゼは、医者の言うことを徹底的に聞いて作るという方法をとった。そのため、当時、市場ニーズがないような製品まで、試作していたという。もちろん、組織の中でいろいろなサンプルだけを作っていても、収益を上げなければ組織的に新規事業の存続は難しくなる。医療部門にとってラッキーだったのは、新規事業のストーリーを作成することが容易だったことである。現在の縫合糸を、すべて溶ける縫合糸に置き換えた場合には、どの程度の金額になるのかというストーリーを組織全体に対して明確に描けたことである。

 また、新しい分野に参入したとはいえ、既存の経営資源をフルに活用することができたために、新規事業とはいえ、大きな投資をする必要もなかった。組織内部でのシナジー活用と市場創造のストーリーを明確に描けたことが、新規事業の存続を可能にしたと言える。
 さらに、縫合糸と不織布という製品特性が、グンゼにとっての市場の間口を広げることになる。医療の分野は、大きな会社は別としても、特定の部位、例えば心臓であれば、それ専門のカテーテルを製造するメーカーが多い。

 グンゼが参入した縫合糸や不織布は多様な診療科で使われるために、医療機関の各専門分野に対して間口が広い。つまり、多様な診療科との関係を持つことが多いため、製品の応用可能性を高めることができるというメリットを生み出した。この医療関係のネットワークの広さが、また新たな新規事業をグンゼにもたらすことになる。

(vol.11に続く)

この記事の専門家

日本大学商学部 教授

髙井 透

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了

専門は国際論経営論、経営戦略論

研究テーマは新規事業創造、グローバルグループ経営、中小・ベンチャー企業のグローバル化など

『グローバル企業の市場創造』(中央経済社)など著書、論文多数

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