既存事業のシナジーを生かす ~ 老舗の革新 vol.11~

執筆者:髙井 透

更新日:2017年05月09日

既存事業のシナジーを生かす

(vol.10の続き)

【グンゼ】③

 グンゼが新しく参入を意図しているのが皮膚を意識した肌着の製品開発である。この事業も、メディカル事業とアパレル事業の連動から生み出された。グンゼは、医療と衣料を結びつける「衣療」というコンセプトを開発して、新しい分野の開拓を意図している。

 グンゼがこの分野に目を付けた理由は、下着と医療の関係については医学的に研究が十分になされていなかったからである。
 つまり、衣料と医療をリンクすることで市場に新しい価値を提供できると考えたのである。例えば、「メディキュア」というシリーズは、肌の弱い方をターゲットとしたものである。

 この商品の開発にあたって、グンゼは徹底的に皮膚科の医者からのヒアリングを行った。その結果、「物理的な刺激が少ない」、「化学的刺激が少ない」、「快適性」の三つを追求することが重要であるということを認識する。

 医者からの三つの要求を解決するために、グンゼの持つ経営資源がフルに生かされることになる。第一の「物理的な刺激が少ない」というニーズに対しては、接着縫製技術によって縫い目をなくすことで、肌の刺激を緩和した。第二のニーズである「化学的刺激が少ない」ということに関しては、グンゼのエコマジックという特殊加工の方法で対応した。この方法によって、皮脂汚れや残留洗剤が残りにくいような加工を施した。第三のニーズである「快適性」ということに関しては、吸放湿繊維と加工技術で対応した。肌に当たる部分は綿とレーヨンのみにし、洗濯しても柔らかく、蒸れにくいという特性を生み出している。さらに、この三つの要求を既存の技術で対応し、解決していることをデータで示すことによって、機能の実現を「見える化」した。

 このシリーズの開発に携わっている上島進氏(QOL「quality of life」研究所企画調査室室長)は、次のように述べている。
 「下着として売るというよりは、皮膚の悩みを軽減させるツールにできればと考えている。できればこういった商品を、メディカル事業という本当に医療機器を扱う分野と、アパレル製品を扱う衣料の分野の間の市場として創り出せないかということである。グンゼの技術を使ってQOLを向上できる製品を順次開発する活動をしている」。

 グンゼが医療分野と繊維分野で新規事業を目指すことができるのも、商品の製造技術については繊維部門のスキルを、医療分野ではメディカル事業部の持つネットワークを活用できるというメリットを持っているからである。まさに両部門のシナジーが生かされているのが、「メディキュア」シリーズである。

 とはいえ、この分野はまだまだニッチ市場である。しかし、医療の現場では術後治療の重要性が認識されてきており、今後、大きな市場になる可能性を秘めている。かつて乳児のスキンケアという概念はなかったが、今や、乳児のスキンケアが当たり前の時代である。かつての常識が、短期間で常識ではなくなり、また、かつての非常識が常識になる時代でもある。
 グンゼの衣療というニッチ戦略も、将来的には業界の常識になる可能性を持った戦略と言ってよい。このような革新的な製品アイデアを、継続的に創り出せることが老舗の本質的な強さと言っても過言ではない。

(vol.12に続く)

この記事の専門家

日本大学商学部 教授

髙井 透

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了

専門は国際論経営論、経営戦略論

研究テーマは新規事業創造、グローバルグループ経営、中小・ベンチャー企業のグローバル化など

『グローバル企業の市場創造』(中央経済社)など著書、論文多数

ミラサポおすすめコンテンツ

サービスを利用する
補助金など支援情報
創業・事業承継補助金 電子申請
IT導入補助金 電子申請
ものづくり補助金 電子申請 申請内容の確認はこちら
無料派遣専門家
地域プラットフォーム
専門家派遣・電子申請のご利用は、こちらより企業IDをご登録下さい
ビジネスを創造する
ビジネス創造コミュニティ
業務「アプリ」マーケット
ミラサポビジネスプロジェクト/アワード
補助金・助成金ヘッドライン
ビジネス創造ヘッドライン
マイナンバー制度ヘッドライン
バーチャルシリコンバレー
ページトップに戻る