「仮説」としての戦略
戦略とは「組織のあるべき姿及びそれを実現するためのシナリオ」と定義される。それは、経営戦略という言葉で表されるように、企業経営と密接にかかわるものであるが、戦略は決して企業だけのものではない。大学、地方自治体、さらには国家においても戦略は求められる。
かつてのように人口が増加し、経済全体が右肩上がりで伸びていた時代には、目先の業務を粛々とこなしていれば成果はついてきた。そうした時代には、戦略の重要性が問われることは少なかった。しかし、いまや日本の人口は減少に転じ、経済全体の成長は著しく鈍化している。さらに現在は、IoTやAI等に代表される第四次産業革命の真っただ中にある。今まさに、我々はどこに向かい、何を、どのように行っていくのかという将来を見据えた戦略構想が大きく問われている。
いうまでもなく戦略は、組織が諸活動を行っていく際の指針としての役割を果たす。その意味で、戦略は一種の計画であり、それに沿って活動が実行される。そのため一般には、綿密な分析に基づいて事前に優れた戦略を立てることが重要であり、それが組織の成否を左右すると考えられている。MBAコースや企業・団体等の管理者向けセミナーで戦略論が重視されるのはそのためである。
しかし、その一方で、戦略に対する実務家のとらえ方は大きく異なっていることが少なくない。例えば「経営は 泥臭い営みであり、どんなに分析しても事前にすべてを見通すことなどできないし、計画通りになんていかない!」「優れた戦略というものの多くは後付的に意味づけられたものじゃないの?戦略って結果論でしょ!」という声をしばしば耳にする。実務家にとって戦略とは決して完全無欠な計画ではなく、また常に実行の前にあるとは限らない。だからといって彼らがまったく無計画に、あるいはいい加減な計画に基づいて活動しているわけではないことも明らかである。
このように考えると、いったい戦略とは何なのかという疑問がわいてくる。戦略は、一般に「計画」と「実行」という枠組みの中でとらえられることが多いが、実務家の視点を考えると戦略に対する異なるとらえ方が浮かび上がる。その一つが、戦略を「仮説」と「検証」という枠組みからとらえることである。戦略の立案とはいわば仮説設定のプロセスであり、その実行は検証のプロセスと見ることができる。仮説としての戦略は、現場・現物・現実の情報に基づいて組み立てられる。ただし、それは必ずしも現状の課題に取り組むための最終的で完全な解であるとは限らない。最初の仮説は、実行を通じて検証され、その結果が次の仮説に反映されるという形で戦略は進化していく。
当然、仮説は検証に先立って設定されるという意味では、戦略は実行の前に位置づけられることになるが、同時に検証つまり実行を通じて新しく意味づけられたり、必要な修正が行われるという点で後付的な要素もある。こうした戦略のとらえ方は、実務家の視点を加味した現実的で新しい戦略のとらえ方といえる。その視点に立つと、優れた成果を上げる組織とは必ずしも優れた計画を立てることができる組織ではなく、仮説と検証を高速で回転させ、戦略を進化させている組織といえるのかもしれない。
もちろん、仮説・検証を高速回転できるとしても、出発点としての仮説がでたらめでは時間はいくらあっても足りない。筋の良い仮説、つまり戦略の質が重要であり、戦略論の知識はそのために不可欠であるといえる。次回以降は、そうした戦略の質を担保するための主要な発想について考える。
(vol.2に続く)
この記事の専門家

学習院大学 教授
米山 茂美
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