「点」の戦略から「面」の戦略へ ~戦略構想力を鍛える vol.3~

執筆者:米山 茂美

更新日:2017年05月10日

「点」の戦略から「面」の戦略へ

(vol.2の続き)

 前回は、企業を取り巻く外部環境の変化と自社資源・能力の分析という「戦略を立てる前」に考えるべきポイントについて説明した。
 
 今回と次回は、その準備の上に立案していく戦略の具体的な中身について、近年注目されている二つの視点を紹介する。その一つが今回取り上げる「ビジネスモデル」である。
 ビジネスモデルには様々な定義があるが、ここでは「製品・サービスの選択・組み合わせを通じて、顧客にどんな価値をどのように提供していくか、そして企業としていかに収益を生み出していくかに関する発想と仕組み」と考える。以下、その意味するところを見ていこう。

 まず、ビジネスモデルは、単体としての製品・サービスではなく、複数の製品・サービスの組み合わせから構成される。別の言葉で表現すると、それは「点」ではなく「面」として戦略を捉えることを意味する。身の回りの例でいえば、テレビや冷蔵庫のような家電製品は、かつては製品の機能や品質といった単体(「点」)としての優位性が競争力の決め手であったが、現在ではそれと同時に、インターネットやスマートフォン等のICTを介して他の製品・サービスとつながるなど、複合的なシステム(「面」)としての強みが重要になりつつある。昨今注目を集めているIoTの展開は、まさにこうした「点」から「面」への変化と密接に関係している。多くの製品・サービス分野で単体レベルでの差別化が困難になる中、ビジネスモデルは新たな差別化の源泉として期待される。
 ビジネスモデルが複数の製品・サービスの組み合わせから構成されるということは、特定の製品・サービスを利用していた顧客に従来とは異なる新しい価値を提供することにつながる。たとえば、冷蔵庫は、その前面扉や側面にディスプレイが付き、そこにカメラで撮った画像や、クッキング・レシピの情報、子供たちへの伝言などが映し出されることで、これまでのような食材の冷蔵保管という価値とはまったく違う新たな価値を提供できるだろう。

 さらに、こうした「面」としての展開は、企業の収益の取り方にも大きな影響を与える。従来のような特定製品の単品モノ売りからの収益ではなく、組み合わせる他の製品やサービスの内容に応じて多面的な収益源を確保することが可能になる。その収益源の一つの例として、企業が製品・サービスを「売る前」、「売った後」という一連の流れの中で提供する関連製品・サービスが挙げられる。
 最もわかりやすいのは、いわゆるアフター・サービスだろう。企業の中には、製品を売った後のメンテナンスやテクニカル・サポート等で製品売価の数倍もの収益を安定的に確保しているところも少なくない。また、やや性質は異なるが、プリンタのインクカートリッジ、剃刀の替え刃のような消耗品で儲ける事業の仕組みも、本体の製品を売った後に収益を上げるビジネスモデルの例として有名である。他方、「売った後」だけではなく、「売る前」のビフォア・サービス等に目を向けることも重要である。こども専門写真館「スタジオアリス」は、写真を撮影する前の面倒な手間であった衣装探しやヘアセットなどのサービスを提供することで成長を遂げた好例といえる。

 もちろん、一つの企業が、このようなビフォアやアフターを視野に入れた幅のある戦略展開をすべて実行できるとは限らない。ここで問われるのは、「面」の戦略を構想する能力と、その戦略の下にどこを自らの事業の柱として確立し、どこを他社と連携していくかという戦略実現における集中と選択の意思決定にほかならない。

(vol.4に続く)

この記事の専門家

学習院大学 教授

米山 茂美

一橋大学大学院 商学研究科博士課程修了。

西南学院大学 商学部経営学科 助教授、武蔵大学 経済学部経営学科 助教授、武蔵大学経済学部経営学科 教授、文部科学省 科学技術政策研究所(NISTEP)第2研究グループ 総括主任研究官、政策研究大学院大学 連携教授を経て、2013年より現職。

主要研究テーマは
1.イノベーション(技術・製品・事業システム開発)の組織と戦略
2.競争戦略とビジネスモデルの戦略
3.組織学習と組織革新
4.ベンチャー企業・中小企業の経営戦略
5.アジア企業の経営比較

著書に『日本型イノベーションシステム』(共著,白桃書房)、『企業家精神と戦略』(共著,有斐閣)、『製品開発革新』(共著,有斐閣)、『企業の発展』(共著,八千代出版)、『経営学再入門』(共著,同友館)、『ブルーオーシャン戦略を使いこなす』(編著, TAC出版)、『「こだわり、超える」アジアのグローバル企業』(共著、生産性出版)。

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