「戦略を実行した後」に考えること ~戦略構想力を鍛える vol.5~

執筆者:米山 茂美

更新日:2017年05月12日

「戦略を実行した後」に考えること

(vol.4の続き)

 この連載の第1回目で記したように、戦略は仮説の設定および検証のプロセスとしてとらえることができる。どんな戦略も、その時点での最善のものとして立案されるであろうが、それはあくまでも仮説にすぎず、実行の過程でその有効性が検証される。戦略は、そうした検証を通じてその意味が再解釈され、新たな戦略へと進化していく。
 このことは、「戦略を実行した後」が重要となることを意味する。戦略の実行からいかに学び、それを次の戦略につなげていくことができるか、まさにそれこそが戦略の質を高め、企業の成長や競争力を左右することになる。
 本連載の最後として、戦略を実行した後に考えるべきポイントについて整理しておこう。

 企業は、戦略の実行を通じて、より良い戦略を作ることができる。ある戦略が、当初の目標に照らして成功した場合にはその成功を強化し、逆に失敗した場合にはそれを是正することができる。ここで重要なことは、仮に成功したとしても、そのメカニズムやロジックが分からなければ再現は難しく、持続性は保てないことである。同様に、失敗した場合、その理由を理解できなければ同じ失敗が繰り返されることになる。そのため、ある時点での戦略的な行動がなぜ、どのように成功を導いたのか、逆にその行動はなぜ失敗に至ったのかを事後的に解釈することが大切になる。

 当初は明確な戦略性をもって行動したわけではなかったが、それが結果として大きな成功を生み、その後事後的に戦略を解釈・発展させて持続的な成長を実現した企業の例として、ドン・キホーテがあげられる。
 関東を中心に日本の主要都市でディスカウント・ストアを展開し、2016年6月現在、売上高5300億円を超える同社では、店内に隙間なく商品を並べて半ば迷路のようになっており、買い物客に目当てのものを探し出させる宝探し的な要素をもたせている。
 それは、いまでは「圧縮陳列」や「ジャングル売場」と呼ばれ、同社の成功要因の一つとされているが、創業当初はそうした発想があったわけではなかった。当初は20坪ほどの店舗面積しかなく、倉庫を借りる余裕もなかったため、納品された商品をすべて狭い店内に押し込まざるを得ず、天井まで段ボールが積み上げられた。段ボールを積み上げるだけでは何を売っているのかわからないので、段ボールに窓を開け、手書きの商品POPを棚に貼った。狭い店舗ならではの「苦肉の策」だったが、客からは評判が良く、売上は拡大していった。
 ドン・キホーテの創業者である安田隆夫氏は、当初からそうした売り方が成功をもたらすことを想定していたわけではなく、その成功を事後的に解釈し、その後の戦略に結びつけていったのである。

 企業にとって、出発点として優れた戦略を立てることが重要であることは言うまでもないが、それと同時に、あるいはそれ以上に、ある時点での戦略展開における試行錯誤から学び、新たな戦略へと進化・発展させていくことができるかどうかが極めて重要になる。スタンフォード大学のJ・フェファーは、企業における計画と実行のギャップという観点から「啓発された試行錯誤は、完全無欠な計画よりも優れている」と指摘する。
 つまり、完璧な計画を立て、それを実行していくのではなく、実験的な試行錯誤からヒントを得て、計画を発展させていくことの重要性を主張するのである。
 そのためには、特定のタイミングで、それまで行ってきた戦略展開をレビューする機会を持つこと、日常業務に忙殺される中でも戦略の意味や役割について考える時間を取ることが不可欠になるだろう。

(おわり)

この記事の専門家

学習院大学 教授

米山 茂美

一橋大学大学院 商学研究科博士課程修了。

西南学院大学 商学部経営学科 助教授、武蔵大学 経済学部経営学科 助教授、武蔵大学経済学部経営学科 教授、文部科学省 科学技術政策研究所(NISTEP)第2研究グループ 総括主任研究官、政策研究大学院大学 連携教授を経て、2013年より現職。

主要研究テーマは
1.イノベーション(技術・製品・事業システム開発)の組織と戦略
2.競争戦略とビジネスモデルの戦略
3.組織学習と組織革新
4.ベンチャー企業・中小企業の経営戦略
5.アジア企業の経営比較

著書に『日本型イノベーションシステム』(共著,白桃書房)、『企業家精神と戦略』(共著,有斐閣)、『製品開発革新』(共著,有斐閣)、『企業の発展』(共著,八千代出版)、『経営学再入門』(共著,同友館)、『ブルーオーシャン戦略を使いこなす』(編著, TAC出版)、『「こだわり、超える」アジアのグローバル企業』(共著、生産性出版)。

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