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デザインが持つ力 本質的価値の創造

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    プロダクトデザイナー 廣田 尚子
    profile

    ヒロタデザインスタジオ代表、女子美術大学教授、多摩美術大学客員教授
    東京生まれ。東京芸術大学卒業。GKインダストリアルデザインを経て独立。
    ビジネスデザインを立脚点にマネジメント・製品開発をトータルにプロデュースする。東京ビジネスデザインアワード審査委員長/2014年RED DOT DESIGN AWARD(ドイツ)/2015年グッドデザイン賞2016年IFデザイン賞(ドイツ)/RED DOT DESIGN AWARDなど受賞多数

デザインの力

景気の低迷や下請けからの脱却が叫ばれる中、多くの企業が業績を上げる術として、オリジナル製品の開発とデザインに着目している。
デザインは急速にモノからコトへと広がり、果たす役割に大きな変化が起きている。2014年のグッドデザイン賞への応募は約3,600件と、デザインに対する期待と関心の高さを知ることができる。
長い間日本では、デザインは機能性と色や形、つまり商品の付加価値として期待されてきたが、それはデザインの部分的な役割で、本来のDesignという言葉が示す範囲は広く、「計画を表現して方向を指し示すこと」にある。

デザインの現場におけるプロセスでそれを言い換えれば、混沌とした膨大な情報から問題の核心を発見する力と、新たな関係性を作ることで解決を導き それをわかりやすく伝える創造力、さらに解決を促す実行の推進力、つまりマネジメントの三つの軸による総合的な働きで、本質的な価値を創り出すことがデザインだといえる。それは常に、人を中心に置いて心を豊かにする行為、最終目的は人の変化にある。

「デザイナーと組んでモノはできたが売れない」という話を聞くことがある。商品が機能的で美しくても、市場にフィットするとは限らない。従来型の「モノありき開発」は行き詰まっている。では、飛躍的な成果を出している企業は何が違うのか。

一つ目の事例はマスキングカラー(太洋塗料株式会社)。塗装時のマスキング塗料として流通していた剥離可能な業務用素材を、美しいペン型パッケージで「描いて剥がせる多色のペイントマーカー」として一般商材化している。描く行為に新しい手段を提供し、創造性を掻き立てる魅力的な商品である。類する商品も出て、新しい市場の核となっている。

事例二つ目は心臓シミュレーター(株式会社クロスエフェクト)。心疾患患者のCTスキャンデータを光造形でモデル化するサービスである。執刀医師の術前シミュレーションが可能になり、手術の成功率が格段に上がっている。試作メーカーである自社既存の技術に、潜在していた重要度の高いニーズを結びつけ、ビジネスの仕組みを巧みにデザインしている。

これらの成功事例は、販売されるモノが最終着地点ではなく、ユーザーが使用する体験に、高い価値が生まれるコトを提供している点が共通している。開発の過程で求められるのは、企業が自らのミッションを把握し、ビジョンを掲げる力といえる。どちらもグッドデザイン賞の2013年BEST100賞(マスキングカラー)、2014年金賞(心臓シミュレーター)を受賞。

このような時代の変化を捉え、東京都は2012年に東京ビジネスデザインアワード(以下TBDA)を立ち上げた。TBDAは、東京都内の中小企業に向けてビジネスモデルをコンペティション形式で募集するマッチング事業である。
モノありきではなく、ビジネスを構造からデザインし、技術の新しい用途を開発する。デザインに求められるのは、上市のプランも含めたトータルなソリューションの提案である。開催から3年で多数の成功事例が生まれている。先のマスキングカラーは第1回開催の応募で商品化されている。

このコラムは、筆者のTBDAにおける知見を基に、デザインを広義に捉え、ビジネス開発におけるデザインの役割とその有効活用を体系的にお伝えする。デザインがデザイナーだけの作業ではなく経営サイドにも求められる時代に、読者の参考に資することを目指したい。

導入企業の準備

デザイン導入にあたり何が必要だろうか。東京ビジネスデザインアワードの好例から、寄木技術を応用した木地挽き加工の株式会社ラ・ルース「ひきよせ」(2013年優秀賞)を紹介したい。

カイチデザインの山田佳一朗氏は、それまで企業が開示していなかった木地挽き技法のオープン化というコンセプトでリブランディングした。パリの展示会メゾン・エ・オブジェを経て、Dior本店(パリ)で販売されるなど、海外でも高い実績が出ている。上質なクリエーションのみならず、企業に向けたデザイナーの丁寧なデザインマネジメントが企業に変化をもたらした。

同社は今年、建築家や施主のイメージに合わせたオーダーメイドの木製洗面ボウルを提供するサービスを立ち上げ、好評を博している。これまで職人や社内の企画がデザインも行っていたが、今後社員は企画と生産に集中することとし、クリエーションは外部デザイナーや顧客に託すシステムを打ち出した。ひきよせを機に、客観的な視点で社内を見つめ、自社の強み弱みを戦略に変える術を得て、ビジネスを構造的にデザインしている。

デザイナーはエンドユーザーのために企業へ新しい可能性を提案する。そのため企業の業態に合う提案と先進的でそのままでは進めない提案がある。

既存業態では対応できない場合、企業の準備によって大きく結果が異なることとなる。例えば、市場が求めるB to C商品の多くは複数の素材や異分野の複合的な加工を必要とする。金属加工を専門に商品開発を行ってきた企業に、デザイナーから樹脂と金属が複合構成した先進的なアイデアが提案された場合、外注経費がかさんで利幅が小さく、複数社に向けて細やかなアウトソーシングを行える人材の不足も壁となって、プロジェクトは身動きが取れないことがある。

一方で、既存の業態を変革して対応するケースでは、経営者は時代の先行きを見通して樹脂のインジェクションマシンを導入し、その後市場にフィットした商品展開でビジネスの幅を広げ、実績を上げる可能性がある。

前者の対策は、自社の強み弱みを知ることでリスクを未然に防ぐことができる。後者では、決断の後押しにビジョンが果たす役割が大きい。デザイン導入の準備として、理想の世界観となるビジョンの構築と現況を掘り下げて観察する真のコア技術を把握したい。

真のコア技術とは他に比べた優位性ではなく、自信を持って取り組める業務プロセスを指している。創設の思い、立地環境や設備、特殊な技術に限らず、正確で安定提供できる加工技術、欠品しない管理システム、細やかな個別対応が臨機応変にできる受注体制、注文の処理においてミスが少ないなど、仕事への姿勢やコミュニケーションスキルも要素となる。一見すると一般的な業務内容だが、情報の丁寧な整理によって、企業全体を俯瞰することができる。

デザインは現状からの脱却を助けてビジョンに近づける吸引力がある。企業のビジョンと客観性がデザインの持つ力を活かしていく。

デザインと知的財産権のリスクマネジメント

新商品への投資を企業戦略へ繋げるために、知的財産権は不可欠と多くの経営者が認識している。戦略的知財構築には、丁寧な取り組みと長期的な投資を必要とする。量産体制・競合市場・下請け構造が長年続いた日本企業には、戦略の構築と目標に沿った知財の活用は難しい課題となっている。

デザインの知的財産権を専門とする日高国際特許事務所の日高一樹氏にご協力をいただき、デザインと知的財産権を開発の現場でどのように扱い、役立てればよいかという視点で2回にわたって紹介する。今回は「デザインと知的財産権のリスクマネジメント」、次回は「知的財産権の戦略的活用法」を予定している。

開発ビジネスにおける企画から販売までのプロセスには、様々な障害(リスク)が想定される。そのリスクに対してどのような行動を行うかのロードマップがリスクマネジメントである。デザイン開発プロセスにおいて、商品企画から市場に送り出すまでの一連要素は上の図のようになる。

商品企画段階における商品戦略は、以前述べたように外的要因の動向を客観的に捉えて、企業の内的要因をコントロールし、アイデンティティを構築することが必須である。この段階のマネジメント欠如・稀薄は致命的リスクとなるので注意が必要だ。『商品化できない』に始まり『市場性がない』『模倣品が出現』『開発投資が回収できない』『ブランドアイデンティティが構築できない』など、聞きなれた言葉を回避しなければならない。
商品開発段階では試行錯誤しながら、独自性の高いデザインを創出し市場優位性を目指す。市場性・ブランド構築・プロダクトアイデンティティなどを戦略化しているにも関わらず、技術やデザインを決断できないという場合には、第三者の既存知財を調査・確認することで、採用技術やデザイン・市場トレンドを確認することができるので、的確かつ効率的に決断することができる。

しかし現実は、商品化直前で第三者の知財が発覚し、開発やり直しなどのトラブルも多い。そのため重要なことは、開発の過程でリスクが起きうる段階毎に調査・権利侵害回避の対策を行うことである。また、同時に技術やデザインに関わる要素を知財化することにより、独自性が保持されロードマップが達成される。その際は経営判断として知財に投資できるかがポイントとなる。販売時点では、模倣品等による損害を最小限にするため、海外の知財まで含めて投資しておく必要がある。

中小企業でもグローバル市場が身近になった昨今、少し売れ出した後に(公知にした後)知財化しようと考えても、6か月過ぎると不可能となる。知的財産権は商品開発のリスクヘッジと認識し、開発の進行とリンクして行う。知財はデザイン同様に、リスクを独自性に変えてビジネスの戦略化に大きく貢献する。アイデンティティで裏付けされた戦略的なマネジメントと戦略的投資は極めて重要である。

知財の戦略的活用法

モノだけを売る時代の終焉と同時に知恵が求められている。つまり、モノと利潤を生むサイクルを合わせたトータルな商品開発が求められており、仕組みのデザインを適正に行うことが不可欠になっている。

以前、知的財産権が商品開発のプロセスとリンクすることで、開発リスクの回避につながることを紹介した。今回も引き続き、日高国際特許事務所の日高一樹氏にご協力を頂き、知財特性を戦略の核としたビジネスモデル構築の可能性を探る。

1885年に薬用酒から始まったコカ・コーラは、コーラ原液の製造方法を非公開にすることで、誰も真似できない味を独占している。コカ・コーラ社が原液を供給し、それ以外はすべて現地生産現地配給する独自のシステムを組むことで、運輸コストや品質維持に関して有利に働き、現地にフィットした市場性を確保している。
ブランドやノウハウなどの知財はアトランタ本社によってコントロールされ、戦略的ブランド構築によって高いブランド価値を持続している。本社は利益の回収を原液の供給とライセンス料によって賄う。一方、世界各地の工場では地域に合わせた飲料商品の開発と販売もできるため、ウィンウィンの関係を築いている。ノウハウをクローズ化し、製造と流通をオープン化した巧みな戦略で、本社・工場・ユーザーの三者それぞれに利潤が循環する関係性を構築しているのだ。大量生産で世界規模の事業拡大を狙うコカ・コーラの商品性に最適な仕組みだと言えよう。

近年では、インテル社が回路設計をオープン化したインテルモデルが有名である。〝インテル入っている〟の商標戦略で「見えない部品のブランド化」を行い、完成品PCと自らの信頼を高め、部品メーカーであるにもかかわらずPC製品メーカーに対して優位に立つ構造を作り出している。さらにブランド化による企業力強化は、優秀な人材の確保に有効であり、投資対象としての価値を伝える情報発信の効果も高い。
商標の価値は、企業と商品が果たした役割と伝えてきたビジョンによって形成される。すなわち、活動前の商標には財産的価値はなく、優れた戦略によるビジネスの結果が商標の価値を作り上げる。

戦略の実現には多くの意思決定を要し、成功するためには決断力が重要な要素となる。ここに日本企業の開発プロジェクトが陥りやすい問題がある。開発のスタート時は特化した計画を求めるが、中盤に至って決断力が陰り、終盤で絞り込むことに不安を感じて方針が揺れ動き、計画の焦点が不明瞭になってしまう。開発は創造的な計画と柔軟な取捨選択を重ね、ブレない論理性に基づいて目的を初志貫徹することで実現される。

例えば、商標は開発の企画段階で指定商品等の領域の確定が求められる。後に事業を拡大する際にその事業範囲では商標が使えず、計画の遂行が不可能になるケースも多い。ここでも知財戦略を企画段階から進めることで将来のリスクを回避できる。

また、インバウンドのように、日本で販売しても商品が海外へ渡っていく現在は、知財を限られた地域だけで考えず、常にグローバルな視点に立った計画が求められる。成功している日本企業では、海外の子会社との技術提携で知財のライセンスを行うなど知財収益がプラスに転じている。

知財は投資であり、その活用を保全からビジネス戦略そのものだと認識を深めていくことが肝要である。

トラブルを回避するクリエイティブマネジメント

製品開発のプロセスは多くのトラブルに遭遇しながら進む。その原因は技術・コスト・知財、その他戦略や企画の不足・経験や能力、信頼の欠如などが混在し、開発が途中でストップすることも珍しくない。
本来は問題の原因を直接解決できることが望ましいが、限りあるプロジェクトの期間内には、解決に至らないケースが多いのが実情である。進めていた方向性が難しくなった場合に、その閉塞した状況を突破するには、視点を変えて新しいやり方を創造するクリエイティブなマネジメントが有効となる。

では、新しい切り口はどのように探せばよいのだろうか? 立場を変えて見る、トラブル前に見落とした条件を見返して追加する、他分野の成功例や時代の感覚を取り入れるなど、問題の周辺条件を多面的に捉え直すことがスタートになる。その一つの方法として、発想の視点を養う基本フレームに、5W2H【What・Where・Who・When・How・How much】がある。
例えば、これまでの戦略や方針に5W2Hを掛け合わせて「誰が・どのように」といった設定を刷新し、より具体性のある解釈から解決に向けたアイデアを導くことができる。

視点を変えて新しい切り口を見出せれば、解決のアイデアは無限の可能性がある。戦略やコンセプトを方程式に例えると、未知数の条件を変えれば(見方を変える)、自ずと異なる答え(新しい切り口)が出てくる。それを肉付けしたアイデアで、新しい行動に繋げる。プロジェクトの全面的な停止や戦略・コンセプトといった根幹に関わる枠組みを見直す前に施す術として、「視点を変えた新しい切り口」は、プロジェクトの原動力になる。

これを応用すれば、新しい視点を生み出すチームが、他のチームと今までにない連携を作り、組織の動き方を変える体制づくりができる。クリエイティブな発想はクリエイターだけのものではなく、誰でも日常の業務に役立てることができる。相手の意見を否定せずに、代案を述べて牽制することもその一例だ。

「東京ビジネスデザインアワード」は中小企業とデザイナーのマッチング事業で、その運営は東京都とグッドデザイン賞の事務局でもある日本デザイン振興会、日高国際特許事務所の日高一樹氏、筆者による多面的なメンバーで構成している。クリエイティブマネジメントを事業の軸に据えて、常に新しい切り口と具体的なアイデアを積極的に議論し、研究・実践している。
進め方・契約・知財・トラブル対応などトータルにアイデアを注いで運営をデザインすることで、応募企業の開発が実現化する確率を年毎に高めている。今後は、この考え方が本格的に企業の中に浸透することを目指して研究会を立ち上げ、クリエイティブマネジメントをメソッド化していく。

アイデアを持ってトラブルを乗り切る。クリエイティブなマネジメントは、生き物の細胞が常に生まれ変わっているように、プロジェクトに生命力を与え、有機的に進化させる力となる。

技術のブランド化

日本には高度な技術が数多くあり、手にすると仕上がりの質が素晴らしく魅力的な様に度々感動する。しかし、高い技術から生まれた優れた製品といえども、モノが売れない時代に市場で成果を上げるのは容易ではない。

それでは、技術に立脚した日本がビジネスを成功させる有効な手段は何だろうか。ブランド戦略は、製品やサービスを簡潔に表現して顧客に共通のイメージを持たせ、その価値を高めることができる。その対象は製品に限定しないため技術のブランド化も可能だ。

よく知られる例ではトヨタの衝突安全技術ブランドGOAがあり、このブランド化によってトヨタは企業イメージに「安全」の軸を確立した。技術が企業の根幹となっている中小企業においても、企業価値を高める方法の一つだと考える。

東京ビジネスデザインアワードでは、石川金網株式会社と3人の複合的クリエーター =松田龍太郎氏(プロデューサー)、中西香菜氏(プロダクトデザイナー)、土屋勇太氏(アートディレクター)によって技術ブランドKANAORIが生まれ、反響を呼んでいる。石川金網は、金網素材と金網を使用した製品加工の技術を有する。
KANAORIでは、ステンレスや真鍮・銅など異なる素材をひとつの金網に織り上げる特殊な技術をブランド化している。金網に美しいカラーが生まれ、テキスタイルのように繊細な素材感を表現して技術を可視化した。ネーミングは「金」と「織」を合わせて「KANAORI」とし、ロゴは造語を漢字表現にしたことでブランドの価値を訴求したデザインとなっている。カラフルな金網は最終製品ではなく、素材で販売することで技術のブランド化を図った。市場のカテゴリーを限定しないため、広がりのある展開を引き寄せている。

技術ブランドの利点の一つは、トヨタのGOAのように技術ブランドが製品ブランドの上流に位置するため、適合するすべての製品と合わせて技術力をアピールできる。

二つ目は、オリジナル商品を持たない中小企業にとっては、技術を顕在化してわかりやすく伝えることに大きな価値がある。インテルやデュポンのように最終製品の信頼を高める役割を果たす。

海外に目を向けると水道・鉄道・都市設計などの公共事業で日本が健闘している。技術の海外導入には、マシナリー技術だけでなく橋渡しの技術、つまりマネジメントが重要だと考える。運用サービスや顧客とのコミュニケーションを他国で受け入れやすいシステムに変えてパッケージングしたトータルブランディングによって、日本の優れたノウハウが競合との差別化につながる。人が蓄えているノウハウもブランド化できれば、企業内が活性化し人材の流出を防ぐこともできる。

技術のブランディングは直接的な売上が見えにくく、評価が難しい側面もある。しかし、長期的な戦略に立って行うことで、価格競争に陥らず技術を真似されない有効な術として、安定した売上を確保できる。デザイン・プロモーションを含むブランディングというソフトへの投資は、技術を戦略化して新しい切り口を掴む第一歩となる。

モノづくり組織の改革

デザインとはモノのあり様を創る付加価値と言われてきた。しかし、開発の現場ではデザインが貢献する範囲は広く、働く人の意識や組織にも及ぶ。例えばデザインから高い技術や精度を求められて、熟練の技術者が本来の力を発揮することになり、若手に技術を伝授する好機になる。また製品が市場に評価されることで社員が自社の価値を再認識して士気が高まる。良いデザインで会社に一体感が生まれ、開発と販促の推進力となる。

武州工業株式会社の「パイプグラム」(東京ビジネスデザインアワード2013年最優秀賞)でも、優れたデザイナーとの共同作業によって、高い技術にさらなる磨きがかかった。海外市場から高い支持も得て、若手をはじめ社員にグローバルな視点が生まれるなど、変化が出たという。

それではデザインの発想を組織の仕組みとして取り入れるとどのようになるか。デザインは最適化を求めて問題を解決する。人の心が豊かになることを目指して案件に最適なストーリーを作る。多面性や全体相互を重視して、選りすぐった要素を横串に刺すように新しい価値を作り上げていく。

一般的な製品開発プロジェクトのプロセスは、大企業では企画が打ち上げた提案を下流が引き継ぐ、いわゆる縦割り連携型だ。中小企業でも技術サイドが発案し、製品具体化の目処がついたら営業へバトンを渡すケースが多い。縦割りは効率良く見えるが、新規性は企画の力に偏ってしまうため、他のセクションは異論があっても従うことになり、流れ作業に陥りやすい。

これに対してデザイン発想でモノづくり組織を組み立てると、異なる分野のスキルを持った人を集めて中核メンバーを構成する。企画の初期段階から技術や広報・デザインがジャンルをまたいで意見と結果を出していく異分野集合体が理想となる。
つまり、従来の縦割り連携から横割り交わり型へと変化する。多様な少数メンバーが、初期から最終まで一貫してチームを構成する。アップルのイノベーティブな開発はこれにあたる。一人が抱える情報量は格段に増える代わりに、メンバーはプロジェクトの全体像を把握することになる。専門性の異なるメンバーがコンセプトや最終イメージを作るため、多面的で新しい発想が生まれやすい環境となる。
メンバーは自分の中にプロジェクト全体の地図を持ち、全体を俯瞰してどこへ向かうべきかを考え、前へ進む。また、所属部署と経過を共有するので、組織全体がプロジェクトを把握しやすい。上流から下流までの流れが一貫し、重複作業が減ることで作業効率が上がる。

これは外部との連携においても同様で、デザインの外注は最も初期の段階から依頼してプロジェクトの根幹から課題を共有することが、外部のノウハウをフルに活かす有効な方法といえる。

今、社会的に求められているのは、問題点を発見する力・解決方法を見つける力と言われる。横割り異分野集合体では、領域をまたいで思考する力・他の発想を繋げて組み上げる力・橋渡し・クリエイティブなマネジメント力が養われ、時代が求める能力とシンクロしている。

縦連携から横交わりへ。デザイン発想を組織作りに取り入れて、自分の意志で有機的に活動する人材とチームを目指す。戦略的にデザインを活用して、モノと同時に組織を強くしよう。

人材育成の近未来

長い景気の低迷により、人材育成は研修の内製化などコストダウンが進む傾向が続いた。しかしモノだけでは売れない時代、経済再生が語られる今は、人材育成こそが長期的な安定の術として、転換の時期を迎えているのではないか。

数字だけでなく人の心や市場の背景を深く読み取り、ビジネスプランのストーリーを考えることがすべての役職で求められている。そこで求められる能力は、問題を発見する力・深い思考と実行で解決する力・橋渡しとリーダーシップ。度々話題に出るこれらの能力は、実はデザインが担う役割と全く一致する。そのことから、モノづくりにおける人材育成の新しい切り口として、デザイン教育をベースに、現場を重視した内容を実践的に行うことが適切だと考えている。

大学のプロダクトデザイン教育では、仮説を立てて検証を行う思考作業を繰り返してストーリーを立て、それに基づいたアイデア・プロトタイプを作成してプレゼンテーションする。授業は双方向性の対話型で個人、またはチームで行われる。生徒が直面する課題を題材にして、具体的な指摘や議論を重ねることで、理論を暗記するよりも確実に消化でき、熟考して次への糸口を掴むことができる。多様な正解があることを学ぶには、一つのテーマに時間をかけて向き合うことや他の意見に触発されることが大切だ。

この手法は、在日アメリカンスクールでは、「デザインテクノロジー」として小学生の授業に取り入れられている。数年前からすべての科目を暗記型から思考と作業・発表を交えたデザイン型に転換している。双方向性の教育では、受講する人の性格・意欲・夢といった内的側面が浮き彫りになり、習得の進行に大きく関わる。細かいことに固執して俯瞰できない、欲がなく深く探求することが理解できないなど、個人的な部分に触れながら指導を進める。
複雑な対応も多いが、思考技術と心の成長が同時に行えるため、課題の修了時には達成感が大きく精神的な成長も期待できる。人材育成では、精神面は個人の管理によるのが一般的だが、今後は仕事の現場で必要な能力は総合的に身につけることが支持されるだろう。

モノづくりの現場では、「感性価値」という言葉が広まっている。「わくわく・美しい・かわいい・かっこいい」など心に響く魅力が製品に求められている。製品に感性価値を授けるには、まず作り手となる人の感性を試行の中で磨くことが大切である。モノづくりには、心の作用・造形文化・機能・システム・社会経済の五つの柱があり、それぞれに「美」、つまり最適化を追求することが求められる。そのためには、心で感じたことを思考に結びつける術を身につけたい。

「東京ビジネスデザインアワード」では、困難が多いビジネスの立ち上げ期を新しい切り口のマネジメントでサポートし、応募企業がビジネス化に成功する確率が高い。そのノウハウを活かし、このコラムにご協力いただいた日高国際特許事務所の日高一樹氏を中心に、人材育成機関の立ち上げを計画している。

知財とデザイン的解決力を軸に、豊かな思考で切り開くクリエイティブなマネジメントの習得を目標に、実践的で現場に活きる人を育てていく。経営の根幹ともいえる人材の育成にデザインを取り入れて、本質的価値を高める提案をもって締めくくりたい。

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