ミラサポ 未来の企業★応援サイト

イチオシ!経営者・専門家ニュース コラム セレクション

「決断力」向上の秘訣

  • MDN
    小森コンサルティングオフィス代表 小森 康充
    profile

    同志社大学卒、P&Gジャパン、日本ロレアル、COACHジャパンなど、実力主義の外資系企業で20年間の営業キャリア・人材育成キャリアを積む。その後、神戸学院大学客員教授に就任。
    得意分野(講演、研修) スベらない商談力、部下育成OJT、サーバントリーダーシップ、マネジメント、決断力、営業のバリュー、思考力、問題解決能力。
    著書に「スベらない商談力」(かんき出版)、「トップセールスの段取り仕事術」(PHPビジネス新書)、「リーダー3年目からの教科書」(かんき出版)等。わかりやすく実践的な指導には定評があり、全国で講演会・セミナー、コンサルティングを年間150回実施している。


    小森コンサルティングオフィス

「正しいことか?」を自問自答

企業方針と一貫性のある正しい決断を下す

ビジネスリーダーとして最も重要な行動が一つある。それは「正しい決断を下す」ことである。リーダーは、日々数えきれない決断を下していることであろう。中には間違った決断を下してしまうこともあるかもしれない。

この連載の目的はリーダーとして正しい決断を下すことができるよう「決断力」の実践ポイントについて説明するものである。今回のポイントは「企業方針と一貫性のある正しい決断を下す」である。企業方針は正しい原則に基づいて定められており、従業員はその内容をよく理解していなければならない。一般的な企業方針は「正直誠実」「顧客満足」「社会貢献」「信頼関係」といった要素である。
私の古巣のP&Gでは仕事上の価値観を『Do The Right Thing!』という言葉で表していた。「正しいことをしろ!」という意味である。

私が忘れられないエピソードを一つ紹介しよう。P&G新人時代、売上拡大目的で卸店コンテストの稟議書を上司に提出し了解をもらったことがある。ところがその後の卸店の部長との商談で、コンテストから大手スーパーでの協賛金企画に予算を使うことに変更した。私はその大手ス-パーでの商談に成功、企画を実施して売上拡大を達成した。2カ月後の上司との個人面談時、稟議書の卸店コンテストの結果報告を上司から求められた。私は企画内容を大手スーパーへの協賛金企画に変更して売上拡大したことを報告した。

その瞬間、笑顔だった上司の顔が鬼の形相に変わったのである。「お前は何をしているのだ!」とすごい剣幕で上司から怒鳴られた。私には理由が理解できなかった。上司は稟議書を持ち大声で言った。「この稟議書は卸店コンテストを実施する内容だ。しかし小森は大手スーパーとの協賛金企画を実施した。稟議書の内容と実施したことが違うではないか!」「それはDo The Right Thingか?(稟議書と違うことを上司に報告せずに勝手にするのは正しいことか?)」

続けて上司は「商談で企画内容が変更になることはある。しかし変更になったことを何故正直に報告して稟議書を書き直さないのだ」と指導したのである。

これが「正直誠実」という企業方針に基づいた行動である。決断と行動を変えるには、仕事上の価値観を見直す必要がある。
昨今の企業不祥事の原因は「事実」と「レポート(データ、決算書等)」が食い違うことにある。「正直誠実に事実を報告する」。全企業のビジネスリーダーがこの決断をすれば企業の不祥事はなくなるのである。仕事上の決断に迷った時どうするか?「それはDo The Right Thingか?」この質問を自問自答することである。

「具測達一」で目的思考を深化

目的思考を常に持つ

ビジネスリーダーは会社から与えられた目標を達成しなければならない。そのためには日々の課題に対し正しい決断と行動が求められる。今回の実践ポイントは「目的思考を常に持つ」である。リーダーは明確な目的をチーム全員にわかりやすく伝えることができなければならない。これがリーダーとして最も重要な仕事であり、決断力を発揮するポイントとなる。

チームの目標がメンバーに明確に伝わらなければ、軸がブレて正しい決断ができなくなる。では、効果的な目標はどのように立案すればよいのであろうか?

目標設定の「具測達一の原則」を紹介しよう。「具測達一」とは、「具体的」、「測定可能」、「達成可能」、「一貫性」の頭文字をとったものである。
まず目標は「具体的」に数字、期限、固有名詞を入れること。理由はビジネスの結果は具体的に出るからである。「測定可能」は目標の途中経過をチームで確認すること。もし進行状況が思わしくなければ、新たな改善策をチームで話し合い実施することもできる。

「達成可能」はチャレンジングかつ達成可能な目標を立案すること。チーム目標は会社目標を上回るチャレンジングなものでなければならない。「一貫性」は前回掲載で説明した会社方針と一貫性のある価値観と行動の軸を持つことである。
この「具測達一」を原則にすると目的思考をより深めることができ、ビジネスの成果に結びつくのである。

P&Gリクルーター時代のエピソードを紹介しよう。リクルート最終面接官の常務との面接前の打ち合わせ。彼から私への質問は、「今日の学生の田中君と私の面接の目的は何ですか?」。私は内容が理解できなかった。「常務に面接いただき内定を出すかどうか決めてもらうことです」と一般的な答えをした。

すると常務は、「それはわかっています。私のポイントは今まで3人の部長が面接したその評価を踏まえ、この学生のコミュニケーション力は十分なのでリーダーシップを見てほしいとか、是非入社してほしい学生だが、第一志望が他企業なのでP&Gの魅力を語って相手を説得してほしいとかの目的を聞いているのです」。

私はなるほどと思い、「田中君は非常に優秀ですので内定は出してほしいのですが、残念ながら他企業が第一志望です。よってP&Gが第一志望になるように説得してほしいのです」と私は答えた。常務は、「わかりました。では田中君を説得するのに私は何の話をすればよいのですか?」と続け、私はまた答えに詰まった。

常務はさらに、「田中君の希望する企業ニーズからP&Gのグローバル戦略の話をすればいいのか、P&Gのトレーニングの卓越さの話をすればいいのか、何の話に田中君は興味を持つのかを聞いているのです」。

これが「目的思考」を持ったコミュニケーションである。会議、企画書作成、課題解決等すべての仕事において、「目的は何か?」――この質問を深く自問自答することが重要である。

成功事例を"3点セット"で分析

決断する事柄に関する有効な情報を多く集める

「決断力」はリーダーシップの重要な要素であり、優れた決断は望ましい仕事上の成果を達成するものである。今回のポイントは「決断する事柄に関する有効な情報を多く集める」である。

このポイントは決断するエリアの全体像を把握する観点で重要である。特に自分にとって自信のない問題であれば関係する情報はすべて揃えるようにすること。情報源として利用できるものは、①会社が保存している資料、②上司、同僚、得意先からのインプット、③業界誌、書籍、インターネット情報等がある。有効な多くの情報を収集、分析することで正しい決断の方向性が見えてくるのである。

そして、すべての情報が集まるまで決断は下さないこと。充分な情報収集をせず即決で下した決断は、たいてい後で後悔する。

特に過去の事例を参考にして決断を下すことは重要である。会社の多くの社員は、過去様々な問題に直面してきた筈である。その経験を生かし、過去の似たような事例ではどう決断がなされ、どのような結果になったのかを参考にできる。そのことにより無駄な失敗をする可能性は減り、解決策を出す時間も節約できる。

では多くの有効な情報、過去事例を収集した次のステップを紹介しよう。
最初に、「ベストプラクティス」を見つけることである。ベストプラクティスとは「最も優れた成功事例」という意味である。過去の事例をそのまま活用するのではなく、収集した多くの情報を分析し、よりベストな成果を出すにはどのような決断をすればよいかを考えることが重要である。

つまりベストプラクティスを分析することで、今回の決断に必要な重要ポイントを導き出すのである。

では次にベストプラクティス分析の三つのプロセス①「FACT(事実)」②「MATH(数字)」③「LOGIC(ロジック)」を紹介しよう。
まず実際に起こった「事実」から「数字」を収集し、それを分析することにより複数の成功要因を「ロジック」として導き出す。このロジックが今回も適用できると仮定すると、それに基づく決断をすることで目標達成の可能性は高くなる。

ラグビーワールドカップの快挙の例で説明しよう。日本は世界ランク第3位の強豪南アフリカに勝利した=「事実」。スコアは34対32=「数字」。そして勝利の四つの理由=「ロジック」、すなわち①必ず勝つという強い決意、②タックル強化のための体重増加、③ハードワークでのスタミナ強化、④五郎丸の正確なキック――これがベストプラクティスの分析である。

このロジックが正しいと仮定すれば、これをさらに強化し、新たな戦略を加えることで次回ワールドカップでの日本勝利の可能性が高くなるのである。
決断に迷った時どうするか?有効な情報を多く集め、「ベストプラクティスは何か?」この質問を常に自問自答し、それを「FACT、MATH、LOGIC」の3点セットで深く分析することである。

決断のための「自分の軸」を持つ

長期的なビジネスに焦点をあてて決断する

ビジネスリーダーの優秀さとは、本人が過去に下した決断の実績が手掛かりとなる。多くのリーダーが常に正しい決断を下し、継続してチームの業績を大きくアップできれば、会社は長期的に発展するのである。

今回のポイントは「長期的なビジネスに焦点をあてて決断する」である。優れた決断の要点は、会社がビジネス構築を目指す際、常に長期的な見地で物事をとらえ、アプローチすることである。短期的な目標を達成するために長期的なビジネスの成功を犠牲にすることは避けなければならない。つまり、短期的なビジネスは、長期的なビジネスを成功させるためにあるのだ。

また、長期的なビジネスの目標と戦略が明確になっていると、短期的な目標と戦略も立案しやすく、チームの方向性が明確なので、メンバーのモチベーションもアップするのである。では長期的な業績アップの目標と戦略を決定できる優秀なリーダーになるには何が必要であろうか?

ポイントは「自分の軸を持つ」ことである。決断力のあるリーダーは、自分の頭で考え、正しい目標と戦略を立案し、チームの方向性を決定することができる。
では自信を持って決断するための自分の軸を持つにはどうすればよいのか?

まず初めに、「自分は何者か?」を知ることである。それには自分自身の「インプット」と「アウトプット」を分析することだ。インプットとは、日々の会話、読書、インターネット等から、自分は何を受け入れているか?ということである。そしてアウトプットとは、日々の行動、会話、会議での発言、レポート、SNS等で自分は何を発信しているか?である。インプット、アウトプットを深く分析することで、自分が何者かを知ることができる。

そして次に自分は将来何になりたいのか?長期的な目標を立て、それを実現するために、今何をする必要があるのかを決めることである。つまり「自分が何者か?」を知るということは、①自分は何を知って何を知らないか?②自分は何を成し遂げようとしているか?③目標達成のために何をするか?
以上の三つに答えることである。

自分の軸を持つということは、ビジネスの決断に迷った時、自分は何を基準に決断するかの優先順位を明確に持つことである。
古巣のP&Gで多かった上司からの質問は、「それってNeed to have? それともNice to have?」であった。
Need to haveとは目標達成のために必要な仕事のこと。Nice to haveは必ずしも必要ではない仕事のこと。
優先順位とはNeed to haveの仕事に集中しNice to haveの仕事をやめることである。長期的な目標と自分の軸を持っていないと、何がNeed to haveで、何がNice to haveか答えられないのである。

決断力のある優秀なリーダーになるには、「自分は何をインプット、アウトプットしているか?自分は何者か?自分の軸を持っているか?」――この質問を常に自問自答することである。

「OGSM」で目標と戦略を伝達

本当に決断すべき事柄に焦点をあてる

ビジネスリーダーの役割はチームを成功に導くことであり、そのためには正しい決断の基に目標達成のための戦略を実行できなければならない。今回の決断力向上のポイントは「本当に決断すべき事柄に焦点をあてる」である。

リーダーがよくやる失敗は「上司が決断すべきことを自分が先に決断してしまった」「決断すべきポイントが間違っていた」「会議ばかりやって結局何も決まらなかった」というものである。これは本当に決断すべき事柄に焦点があたっていないこと、チームの適切なレベルで適切な決断をする権限移譲ができていないことが理由である。
このような失敗をしないためにリーダーはチームの目標と戦略、役割分担を明確に決定しチームメンバーに伝達する必要がある。

では、効果的にチームの目標と戦略を決定し伝達するにはどうすればよいのであろうか?

古巣のP&Gの効果的目標と戦略の伝達手法である「OGSMの原則」を紹介しよう。
OGSMとは「Objective(目的)」「Goal(ゴール)」「Strategy(戦略)」「Measurement(測定方法)」の頭文字をとったものである。目的はチーム目標を言葉で表したもので、ゴールはその目標を数字で表したものである。戦略はゴール達成の方針のことで、測定方法は戦略の途中経過の方法である。この手法でチームメンバーに目標と戦略を伝えると、目標達成の可能性も高くなる。すなわち、チームの目標と戦略が効果的にメンバーの目標と戦略に落とし込まれるのである。

ある企業の営業組織の例で説明しよう。営業部長の今期OGSMは「目的―高品質の商品を多くの顧客に提供するため新規の得意先開拓を強化すること」
「ゴール―売上目標10億円」「戦略―①新規開拓営業で3億円、②海外営業で2億円、③既存得意先で5億円の売上を達成」
「測定方法―毎月の営業会議で進行状況確認、目標達成プログレスレポートを全営業課員で毎週共有」

そして次に部長の三つの戦略が、3人の各課長の目的、ゴールに落とし込まれる。部長の「戦略①新規開拓営業で3億円」が部下の一人の課長のゴールになり、その達成のための戦略を課長は立案し、その戦略が部下の営業目標に落とし込まれる。つまり上司の戦略と部下の目標は一致するのである。これによりOGSMの目標設定でメンバーの役割が明確になり適切なレベルでスピーディーに決断できるのである。また、この手法では会社目標とメンバーの仕事が深く関連していることが理解され、自分が上司から何を期待されているのかも明確になる。そのことが部下の目標達成に対するモチベーションアップにつながるのである。

決断力のある優秀なリーダーになるにはどうするか?「チームの目標と戦略を明確に決定し、OGSM手法でチームメンバーに効果的に落とし込めているか?」――この質問を常に自問自答することである。

明確なビジョンを決め、実行する

決断したことは必ず最後までやり遂げる

ビジネスリーダーは決断したことを確実に実行し結果を出さなければならない。今回のポイントは「決断したことは必ず最後までやり遂げる」である。

正しい決断を下しても実行しなければ意味がない。「何が何でもやってみせる」というリーダーの強い決意と行動が、メンバーの心に火をつけ、チームの目標達成に結びつくのである。

では、具体的にメンバーの心に火がつくというのは、どのような状態をいうのであろうか?「決意の五つのレベル」を紹介しよう。

最も低い決意のレベルは①「したくない」である。
これは目標と成果の両方に興味がない状態である。例えば家庭問題で悩んでいて仕事に集中できない状態がこれにあたる。

次は②「目標達成の成果には興味があるが努力はしたくない」で、
③「できるかもしれない。やってみよう」に続く。これは上司から指示を受け普通に仕事をする状態である。

そして、④「最善の努力をする」は目標達成に対し懸命に努力する状態であり、
⑤「必ず最後までやり遂げる」は目標達成の成果そのものに決意している最高のレベルの状態である。メンバーの心に火がつくというのは、この最高レベルのことである。

ではメンバーをこの「最高の決意のレベル」に導くためにリーダーは何をすればよいのであろうか?
まず初めにチームのビジョンを決定し、メンバーにわかりやすく伝えることである。そのビジョンがメンバーの行動の軸になり、もし失敗しても、そこから何かを学び、あきらめず最後までやり遂げる原動力になるのである。

古巣のP&Gのエピソードを紹介しよう。P&Gの日本市場の売上が低迷していた31年前、任命された日本担当の新社長は早速、各部門の責任者を集め、「日本のビジネスはなぜうまくいかないのか?」と質問した。そこで営業本部長は「宣伝本部のテレビCMが悪いのです」と言い、宣伝本部長は「売上が悪いのは営業の責任です」と続け、各部門の責任者は各々他部門の批判をしたのである。

新社長は全員の発言を聞いた後、次のように話した。
「皆さんの意見はわかりました。では今から私のビジョンを伝えます。それは『日本のお客様を笑顔にすること』です。
笑顔でお洗濯を楽しんでもらうには当社製品に何が足りないのか?営業本部はお客様が笑顔になる店頭企画を実施するのです。宣伝本部はお客様が笑顔になる新製品を出しなさい。全員がお客様を笑顔にする企画を提案するのです。 それが皆さんの仕事です。そしてどの部門が悪い、誰が悪いという話を今後は聞きませんので、私には言わないで下さい」。

これがビジョンである。P&Gにおける日本市場の今日の成功はこのビジョンから始まったのである。

決断力のある優秀なリーダーになるためには、「チームのビジョンは明確になっているか?メンバーにビジョンは伝わっているか?」――この質問を常に自問自答することである。

すべての特集を見る