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アワード受賞企業に学ぼう!リーディング企業ピックアップ Vol.17

受賞名

会社名

技術革新や経営革新を行い、社会に影響を与えている中小企業として賞を受賞している優良企業の中から、注目企業をピックアップ。今回は「製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)」で経済産業大臣賞を3度受賞した「製品安全対策ゴールド企業」のアキュフェーズです。過去、中小企業でゴールドに輝いたのは同社と新潟県三条市の株式会社相田合同工場の2社だけ。"安全製品トップランナー"の極意を紹介します。

今回の注目企業はこちら

アキュフェーズ株式会社

  • ■所在地:横浜市青葉区新石川2-14-10
  • ■資本金:22億円
  • ■従業員数:80人

受賞ヒストリー

  • 平成23年度 第5回製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)経済産業大臣賞(最高賞)
  • 平成26年度 第8回製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)経済産業大臣賞(最高賞)
  • 平成29年度 第11回製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)経済産業大臣賞(最高賞)
  • 平成29年度 製品安全対策ゴールド企業

企業概要

アキュフェーズは国内で有数のハイエンドオーディオ機器メーカーです。かつてのオーディオの名門企業、トリオ(現JVCケンウッド)の創業者でともに故人となった春日仲一、次郎兄弟らが、1972年に同社を退職し新たに立ち上げた会社です。当時のオーディオ市場の大衆化や価格競争に背を向け「真に世界で勝負できる高級品をつくる」のが狙いでした。創業当初から「壊れにくく、壊れても修理しやすい」「スペックを100%保証」「値引き不要のロングラン製品」「トレーサビリティの実現」などを開発ポリシーとし、この実現のために「規模は拡大しない」「量より質を追求」「輸出は3割以内」「メーカー・販売店・顧客の三位一体の実現」「無借金経営」「正しく納税する」などユニークな経営を継続している、日本を代表する高級オーディオブランドです。

高級アンプを"たたく"メーカー

「ドンドンドン…」
横浜市の緑豊かな住宅街にあるハイエンドオーディオ機器メーカー、アキュフェーズ株式会社の本社工場では、あちらこちらで製品をたたく音が響きます。たたかれているのは組み上がったばかりの100万円以上する高級アンプ。作業者は通電して各スイッチを切り替えては何十回も机の上のアンプを手でたたき、異常がないかオシロスコープの波形を確認します。初期不良を見つけるためです。出荷前には品質保証部でも全品を対象に同様の作業を行います。このこだわりが、同社の安全に対する姿勢を象徴しています。

ハイエンドオーディオは、感性に訴える製品です。ラジカセでもミニコンポでも、高級オーディオセットでも、同じCDからは同じ曲しか流れません。ただ、録音されている音の再現性は全く異なります。初めて高級オーディオを聞いた人は、圧倒的な臨場感に度肝を抜かれることでしょう。しかし音楽に興味がなければただの箱、生活必需品ではない趣味の世界で、極めてニッチな市場です。同社はそんな特殊な製品をつくるからこそ、一般的な家電製品を超える安全性、信頼性の製品づくりを、創業時から続けています。

同社の安全な製品づくりへの取り組みの基本は、(1)長く安全に使える製品設計(2)全ての項目で全品検査する製造工程(3)長く安全に使ってもらうためのトレーサビリティ(4)出荷後に問題が発生した場合の対策、の4つに大別できます。さらに近年では、自社の経験や成果を直接お客様に伝える5つ目の取り組みを始めています。

設計面では、世界各国に輸出する中で、もっとも厳しい国の安全規格をクリアする設計にしています。同社は年産約5,000台、1日に20~30台しか生産しません。輸出は政策的に3割前後にとどめており、各国向け仕様で設計を仕分けることは現実的ではありません。全ての規格をもっとも厳しい国に合わせることで、結果として最高レベルの安全性を担保しています。使用する部品は基本的には日本製です。

品質にまつわるこんなエピソードがあります。「ある日、出荷確認の試聴において、試作品と量産品で音質が違うことがわかったため、全てのパーツをばらして調べたら、あるコンデンサーの製造工場が変更になっていた」(伊藤英晴社長)そうです。もちろんスペックは変わっていません。コンデンサーの製造工場による音の違いをどうやって聞き分けられるのか不思議ですが、それこそがハイエンドオーディオなのでしょう。ただ近年、国内ではどうしても調達できない部品がでてきたため、外国製部品も使っています。その条件として「信頼できる輸入代理店が、国内で技術検証できるモノだけを使います」(伊藤社長)と、国内製と同じ品質を担保しています。

100万円以上する高級アンプをたたきつける 「どの製品も最も厳しい国の安全規格で設計します」と伊藤英晴社長

余裕を持った設計

設計は「余裕」がキーワードでしょう。電子部品は耐電圧や許容電流、温度上昇に余裕を持たせ、機構部品では強度や耐久性に余裕を持たせています。部品配置にも十分なスペースがあり、組み立て時やメンテナンス時の作業性、作業者の安全性にも配慮しています。全てのパワーアンプには温度センサーを設置し、内部異常を検知するとスピーカー保護のため回路を遮断します。かつては機械式リレーを採用していましたが、古くなると故障の原因になることが分かりました。このため2011年から半導体スイッチに置き換え、それ以降はこのスイッチが原因の故障は1件も起きていません。

さらに、安全規格を正しく適用するには自社の解釈だけでは間違いを犯す可能性があるため、外部の信頼できる検査機関を積極的に活用し、設計の信頼性向上に努めています。「一般的に企業では試験費用はコストと捉えるが、わが社では改善のための投資と位置付け研究材料費を充てます。その結果、膨大な検査データを次の製品開発に生かしています」(伊藤社長)。

製造工程では、先に紹介した"たたく工程"の他、24時間連続通電や、人の五感を使った操作の感覚試験など、考えられることは全て実行しています。特筆すべきは手作業での配線の調整作業です。作業者はオシロスコープをにらみながら組み立て完了したパワーアンプの配線材を微妙にさわり、画面に映る波形が細く1本になる位置を探します。この位置が理論的にひずみが最少になる場所だからです。このような手のかかる調整をしなくとも、もちろん設計規格内に入っていますが、これを行うことで先々にわたり品質が安定するからです。

アンプ内の配線材の位置を微妙な手の動きで調整しひずみが最小になるようにする

セカンドユーザーを追え

しかし、どれだけ優れた設計で最大限の気を配って製造しても、故障する可能性がゼロになるわけではありません。万が一故障した際に、素早く適切な修理が受けられる、これを実現するのがトレーサビリティ(追跡可能性)の確保です。全製品に個別番号を刻印し、製造中の過程を全て記録した履歴カードを添付します。いつ、誰が、どのような作業をしたか、例えば「バックパネルの汚れを除去した」ことまで記録します。

製品には保証書の代わりにシリアルナンバーのついたお客様カードを添付し、これを送り返してもらうと5年間の保証書を返送します。こうすることで製造時の情報と顧客情報を紐づけることができます。
他方で、製品が中古市場で流通してしまうと、通常はその先を補足することはできません。このため、中古品を入手したユーザー自身にホームページから登録してもらう「セカンドユーザー登録」という仕組みを作りました。この登録ユーザーは新品購入者と全く同じ扱いとし、特典として有償修理時の保証期間を通常の倍である2年間にします。

セカンドユーザー登録を導入したきっかけは、2014年3月のアンプのリコールです。48台のアンプに不良のコンデンサーを使用した可能性があることが発覚し、ユーザー登録を元に3カ月で7割(34台)の製品を回収・点検しました。しかし、セカンドユーザーに渡った製品は、その後の3年間で5台しか回収できなかった反省を生かしたものです。現在では700件以上のセカンドユーザーの登録があります。1972年の創業以来、全ての顧客には年賀状を送っており、今年は安全配慮の文言を加えて約5万通を発送しましたが、もちろんセカンドユーザーにも届いています。

リアルでの情報提供にも力を入れています。オーディオショーや試聴会では、工具や部品を展示して修理作業を紹介したり、事故時の写真をパネル展示し注意喚起します。また年に数回、各地で製品安全をテーマとした会を実施しています。「修理とジャズの楽しいお話」などの題で、ジャズに造詣が深く軽妙なおしゃべりができるベテラン修理マンの渋谷清さんが、ブルーノート(米国の名門ジャズレーベル)のオリジナル盤レコードを最高のシステムで聞かせながら修理の話にもっていくなど、オーディオマニアの心をくすぐる会で、毎回数十人を集めています。また、海外ユーザーにも基本的に同じサービスレベルを維持しています。各国を回って得た修理技術の高い信頼できるディストリビューター(総代理店)が、基本的に国内と同じ5年保証を実施します。

製品の製造過程を記録する履歴カードには、作業中の汚れを除去したことまで記載する 2017年に開催された「修理とジャズの楽しいお話」

創業の精神を変えない

高度成長期を経て、「よいものを安くつくる」日本は世界に冠たるモノづくり大国になりました。しかし2000年代に入り、中国など人件費の安いアジアの製造業が台頭し、多くの日本企業が後塵を拝するようになりました。近年、三洋電機やシャープ、東芝など日本を代表する家電メーカーの多くの部門がアジア資本の企業に買収されています。日本のモノづくりモデルは成長市場では非常に有効ですが、市場が成熟すると必ずしも強みにはなりません。他のプラスワンの付加価値が必要です。飲食業で言えば、栄枯盛衰の激しいファストフードに対して、本物の逸品料理を提供する店には景気と関係なく常連客が付きます。それがアキュフェーズのモノづくりです。

同社の創業者らには、オーディオの名門として一世を風靡したトリオが、オーディオ市場の大衆化に伴う中級品の価格競争に巻き込まれて経営が悪化した苦い経験があります。その責任を取ってトリオを離れ、現在のアキュフェーズを立ち上げた時から、同じ轍を踏まないために、無借金経営で決して規模を拡大させないことを経営ポリシーとしています。その結果、「売上高が日経平均のチャートにほぼ連動する」(伊藤社長)という珍しい企業になりました。従業員数は創業時より10人程度増えただけです。職人的なモノづくりを大切にし、何十年にわたって得意客に支えられている欧州の老舗企業と通ずるものがあります。

このような精神が従業員一人ひとりにしみ渡っている同社にとって、2007年から始まった製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)への挑戦は、当然の成り行きだったかもしれません。この制度が始まり2、3年たったころ、当時の品質保証の責任者が「製品の安全性向上は信頼性の向上と同じ。ぜひ応募したい」と意思表示しました。だが、創業メンバーだった当時の齋藤重正会長は「時期尚早だ」と首を縦に振りませんでした。その時のことを鈴木雅臣副社長は「『安全という言葉を意識していない。結果として満足できる設計や規格は、全て個人にゆだねられている。誰が設計して誰が製造しても同じ安全が得られるよう標準化を進めることが先だ』と言われました」と振り返ります。

規模の拡大を追求しない経営を貫いている 製品は創業時から大きくデザインを変えていない

PSアワードの担当者が驚いたわけは…

3年を経て、満を持して2011年の第5回に応募しました。経済産業省がPSアワードを始めた背景には、電化製品の発火事故などが社会問題化したことがあります。この対策の1つとして大手から中小メーカー、輸入業者、小売販売に至るまで製品の安全性向上への意識を高める狙いがありました。一般的に家電製品は10年で壊れるのを前提に考えられており、業界団体は修理用部品の保有期間も製品別に5-9年で定めています。これに対し同社の姿勢は「何年経ってもできる限り修理できるように、補修部品は可能な限り集めます。部品メーカーが製造中止するという情報を聞きつけると、ありったけの部品を買い集めます」(鈴木副社長)というもの。同社のアンプが軒並み20年、30年を越えて使われ続けていることを知った経産省の担当者は「日本にもこんなメーカーがあったのか」と、とても驚いたそうです。

2011年、第5回PSアワードに初挑戦し最高賞である経産大臣賞を取った理由は「調達部品の厳格な管理」、「長期保証とアフターサービスの提供」そして「若手とベテラン社員が組み、技術と理念を伝承」でした。3年後の2度目の受賞理由は「製造から販売、購入までのトレーサビリティ確保」と「製品開発・アフターサービスの実施」そして「長年の製品安全活動に基づく長期保証の実現」です。2017年の3度目の理由は「安全設計思想の徹底と第三者機関の有効活用による安全性の確保」「トレーサビリティ確保に向けたセカンドユーザー登録の実施」そして「安全規格策定、検討作業への主体的関与」です。

受賞理由を見ると、PSアワードに向けて何かに取り組んだというより、安全や信頼に対する継続した取り組みが数年おきの受賞で確認されている、という印象を受けます。初回と2回目の授賞理由は全て同社内部での取り組みに対する評価です。これに対し、3回目には、自社の安全性への取り組みの成果を、業界全体への横展開することも評価されています。

2016年から電子情報技術産業協会(JEITA)の活動に参画し、安全規格の検討やJIS化の作業、ガイドブックの作成など、安全規格を策定する側に立ち、業界全体の製品安全に積極的に関わっています。超大手企業が並ぶ業界団体で、社員数80人の中小企業が、安全に対するイニシアチブを取っているという事実が、いかに異例なことかはお分かりでしょう。
伊藤社長はゴールド企業に行き着いて「『われわれがやってきたことは間違いではなかった』と社員のモチベーションが大きく上がりました。それが一番の財産です」と胸を張ります。

何年たっても修理できるよう、できるだけの補修部品を集めています」と鈴木雅臣副社長 「PSアワードロゴマーク」(左)と経済産業大臣賞あるいは金賞を計3度以上受賞した企業の証「製品安全対策ゴールド企業ロゴマーク」

企業は継続することがもっとも重要

本社の2階廊下に置かれたパーツ箱には、数十年前の部品が多くあります。普通の企業ならムダとして処理されるものです。「部品メーカーが製造中止するという情報を聞きつけると、ありったけの部品を買い集める」(鈴木副社長)そうです。それでも無くなった部品については、「代替部品を探すかゼロから製作する」(同)ことで、修理依頼に応えます。「『亡き父から譲り受けたアンプ』を持ってこられて、捨てて下さいとは言えないでしょう」とは、修理部門の精神的支柱である渋谷さん。単に製品を直すのではなく、それにまつわる家族の思い出まで修復しています。

また、修理は壊れた部分だけを処置するのではなく総合点検を行い、その製品の販売後に改善された部分なども直します。耳の肥えたユーザーに「修理に出す前より音が良くなった」といわれることが励みになっているそうです。ただ、どうしても安全性が担保できない修理に関しては、きっぱりと破棄を進めるそうです。

「ハイエンドオーディオは極めてニッチな市場ですが、音楽がある限りよい音を追求する人はなくならないでしょう。何百万円もするアンプが5-6年で壊れてしまい修理できません、ということは許されません。故障しない製品、故障しても直せる製品、何年もモデルチェンジせず安心して使ってもらえる製品を作り続けます。なによりアキュフェーズが無くなれば困るのはユーザーです」と伊藤社長。そのためにも毎年、無理をしない堅実経営を確認し永遠に存続し続ける企業を目指しているそうです。今日も耳を澄ませば、緑に囲まれた郊外の住宅街にアンプをたたく音が聞こえることでしょう。

故障だけでなく家族の思いまで修復する修理スタッフ

株式会社アキュフェーズの紹介動画

いかがでしょうか?日本にもこんなメーカーがあったことに驚きです。何より、アキュフェーズで働きたいという人ばかりが集まっており、ベテランも若手も元気です。職場が和やかで明るさがあります。そして皆、自分の役割に目を輝かせて取り組んでいます。働き方改革という言葉が無縁の企業でした。

今回取り上げた賞はこちら

製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)

製品安全に積極的に取り組んでいる製造事業者、輸入事業者、小売販売事業者、各種団体をそれぞれ企業単位で広く公募し、厳正な審査の上で、「製品安全対策優良企業」として表彰するものです。本表彰では、各企業が扱う製品自体の安全性を評価するのではなく、企業・団体全体の製品安全活動に関する取り組みについて評価します。

技術革新や経営革新を行い、社会に影響を与えている中小企業が全国に数多く存在しています。
ミラサポでは、表彰された優良企業をご紹介していますので、みなさまの経営の参考事例としてご覧ください。

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