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アワード受賞企業に学ぼう!リーディング企業ピックアップ Vol.18

受賞名

会社名

技術革新や経営革新を行い、社会に影響を与えている中小企業として賞を受賞している優良企業の中から、注目企業をピックアップ。今回は、「大学発ベンチャー表彰2018」を受賞した「株式会社エイシング」を紹介します。同社が開発した、エッジデバイスへの組込に対応する軽くて速い機械制御用のAIについて、その独自技術への取組を紹介します。

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株式会社エイシング

  • ■所在地:東京都港区赤坂6丁目19番45号赤坂メルクビル1F
  • ■資本金:1億円
  • ■従業員数:14人

受賞ヒストリー

  • 2017年2月 「未来 2017」 日本総研賞
  • 2018年3月 起業家万博 総務大臣賞
  • 2018年6月 J-Startup企業入選
  • 2018年8月 大学発ベンチャー表彰2018 経済産業大臣賞 受賞
  • その他 受賞歴多数

企業概要

2016年設立の株式会社エイシングは、岩手大学発のベンチャー企業です。同社はエッジデバイスに組み込み可能でスタンドアローンで動作する独自開発のAIアルゴリズムをライセンス提供するビジネスを展開しています。同社のAIアルゴリズム「Deep Binary Tree(DBT)」は、会社設立以前からの長年にわたる機械制御とAIに関する研究成果を元に開発されました。

製造業における機械制御の自動化を可能にする、先進的な技術を開発

東京都港区に本社を置く株式会社エイシングは、2016年12月に設立されたまだ若い企業です。岩手大学初のベンチャー企業であり、本社の他に岩手県盛岡市にも事務所を構えています。
同社は、ディープラーニング(深層学習)が主流である現在のAI業界では珍しい、独自のAIアルゴリズム「Deep Binary Tree(以下、「DBT」という)」を開発し、国内の超大手企業を顧客としてそのライセンスを提供する事業を展開しています。
現在、世の中で話題になっているAIの多くはディープラーニング関連ですが、エイシング代表取締役CEOの出澤純一さんたちは、大学の研究室にいた10年以上前からディープラーニングではできないAIの開発を目指してきました。
エイシングの取締役CTOの金天海さんが岩手大学に准教授として赴任し、温泉に入っているときにDBTの着想が湧いたと言います。アルキメデスのようなお話ですが、このアイデアはビジネスになると考えた出澤さんたちは、エイシングの設立に動きました。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一さん

DBTの技術的な特徴

DBTは機械制御のエッジデバイスに組み込み可能なAIアルゴリズムです。
AIで主流のディープラーニング(深層学習)は画像系や音楽系の処理を得意としていますが、学習計算量が膨大になるという特徴から、エッジデバイスで使用する場合計測したデータをクラウドに送り、クラウド上で計算した計算結果をダウンロードしてから学習済みモジュールを予測器として使う仕組みです。そのため、自動車やドローン、FA機器や家電など、高速な応答を必要とする機械制御などでは、タイムラグが問題になる他、通信コストもかかります。しかし、DBTは個々のエッジデバイスごとに組み込みリアルタイム学習が可能です。すばやく学習結果を制御に反映することができます。また、ディープラーニングで課題になる忘却問題も回避できます。

DBTの適用分野としては、図「DBTの使用ケース例(青枠は、DBTのみが制御可能な領域であり、赤枠は、DBTとディープラーニングが制御可能な領域を示す)」のとおり、ロボットハンドなどの経年劣化対応やモーターなどの製品個体差補正、空調や自動車のスリップ予測などの予測制御、部品などの要素の多い機器の複雑系制御、これまで職人の勘で行われていた旋盤制御の学習などが考えられます。
機械制御にターゲットを絞っているため、入力データの種類を100軸程度に制限して高速性を実現しています。逆にディープラーニングが得意とする数百万軸のデータによる画像認識などには向きません。
しかし、ディープラーニングでは解決できないような、エッジデバイスでリアルタイム性を維持しながら高速学習が可能なAIを必要とする製造業の課題を解決できるオンリーワンの存在として、注目を集めているのです。

DBTの使用ケース例(青枠は、DBTのみが制御可能な領域であり、赤枠は、DBTとディープラーニングが制御可能な領域を示す)(クリックすると拡大します)

ディープラーニングではできない課題を解決する

上記で述べたように、DBTは機械制御に特化したAIです。その具体的な効果とは何なのでしょうか。
例えば、自動車は、新品のタイヤを使えば滑らないよう、制御側の機構がチューニングされていますが、タイヤが摩耗してくると固定された機構で制御できなくなり、滑るようになってしまう可能性もあります。このように、動的要因により固定された機構で制御ができなくなった場合、時間をかけた再チューニングが必要でした。しかし、DBTを用いてリアルタイムで学習すれば、動的環境におけるエッジデバイスの動作を学習・予測するため、再チューニングの必要がなく、RaspberryPi程度のハードウェアにおいてマイクロ秒という単位での応答が可能となります。
また、ディープラーニング(深層学習)ではAIエンジニアが最初にネットワークモデルを設計し、再チューニングも人手で行う必要がありましたが、DBTの場合、ネットワーク設計の必要がないので、AIエンジニアはほとんど関わる必要がありません。

また、OMRON社との共同開発においては、DBTにより不良品廃棄物の削減に成功しました。
OMRON社が課題としていたのは、図「OMRON社におけるDBTの活用事例」にあるとおり、「材料」のつなぎ目やばらつきによる蛇行に起因し、巻き線機の蛇行制御機構が作動することで、20mもの「材料」が不良品として発生することでした。
この機械にDBTを導入したことで、制御周期毎に、数十ミリ秒先の影響を予測できるようになりました。その結果、10秒だった不良品発生区間が3秒に短縮され、廃棄物が3分の1に削減されました。

エイシングではこれまで問い合わせだけで仕事が増加していたことから、「新規営業経験がない」(出澤氏)という状況でしたが、今年から海外向けの情報発信をスタートしました。早速、大手企業の3~4社から引き合いがあり、同社は海外でもDBTの技術が評価されていることを実感しましたが、話を進める中で、DBTは製造業のクオリティーが世界トップレベルであり、ブランド化された日本でこそ、最も需要が高いことを発見しました。そのため、現在は日本企業とシナジーを出した後、本格的な海外展開を考えています。

エイシング開発の機械制御用AIアルゴリズム「DBT」の強み(クリックすると拡大します) OMRON社におけるDBTの活用事例(クリックすると拡大します)

ライセンス提供のビジネスモデルで研究開発に集中

エイシングは、ライセンス契約というビジネススタイルで、DBTを顧客に提供しています。
会社の設立当初は、クラウド上におけるDBTのサービス提供や独自AIチップの製造販売など模索していたものの、これらのビジネスモデルは手間やコストがかかることから、半年前からライセンス提供に集中しています。

ライセンス提供のターゲットとなるのは、主に製造業における大企業です。すでにオムロン、デンソー、JR東日本などといった企業との共同開発もしくはライセンス提供が発表されていますが、現在も他に十数社と案件が進行しています。

同社では、AI導入を検討する事業者とともに、導入前にAIの必要性や開発計画などを検討した上で、契約を結ぶようにしています。具体的には、企業の課題や悩みについてヒアリングし、DBTの利用が適しているかどうかを3か月程度で調査します。この段階でAIの必要性や使用するデータがないとわかった場合は、契約・提供には至りません。その後、DBT導入に向けた企業との共同開発になります。ここで成果が出れば、ライセンス契約になります。
「ライセンス提供は、ソフトバンクに買収されたチップ設計のARMのビジネスモデルと同様です。私たちはお客様のニーズを聞く中で、すでにDBTに次ぐ新しいアルゴリズムも開発しています」と、出澤氏が語るように、研究開発型の企業としてライセンス提供のビジネスモデルを確立したことから、同社は本業である研究開発に専念することが可能になりました。

さらに、大学などアカデミックな機関に対して、同社は無償でDBTのライセンスを提供しており、研究開発費の提供をする場合もあります。
「DBTを使用した事例として論文が出れば、学会や企業の研究者の目に触れ、評価につながります」と、出澤氏は言います。

エイシングのライセンス提供ビジネスモデル(クリックすると拡大します)

大学発ベンチャー表彰2018 経済産業大臣賞の受賞効果

上記で述べたように、エイシングは今までにない先進的な技術開発に成功したことから、設立してまだ約2年の企業歴ですが、数々のアワードを受賞しています。当初は資金調達や名前を知ってもらうなどの理由でアワードに応募していましたが、最近は主催者側から、応募を誘われることが多くなりました。特に、スタートアップ企業を対象にしたアワードの場合、成果を上げている応募者がなかなかいないため、すでにアワード実績のあるスタートアップ企業に声がかかると言います。

「大学発ベンチャー表彰2018」についても、関係者からの応募の打診がきっかけでした。DBTの技術が高く評価され、経済産業大臣賞の受賞につながりました。
「設立1年目で経済産業大臣賞という効果は大きく、受賞後にいくつもの大企業から問い合わせがありました。また、地方との連携は大切で、「岩手大学発」となるベンチャー企業の場合、その地域ではよく知られているため、採用面接などでは岩手大学の学生なども応募してくることがあります」と、出澤氏は「大学発ベンチャー表彰2018」の受賞効果を振り返ります。

エイシングは数多くのアワードを受賞している(クリックすると拡大します)

人材採用でも独自のアプローチ

創業当時は社員が4人のみだったエイシングですが、現在の社員数は14名であり、4月には3名の入社が決定しています。
同社では、人材採用でも独自のアプローチをとっています。社員の半数は、紹介などによるリファレンス採用により獲得した人材ですが、残りの社員は自社主催のプログラムコンテストの参加者に声をかけてスカウトして獲得した人材です。
同社では、非常に高度である技術開発を手がけることから、高度な技術・ノウハウを有する人材が必要になるものの、一般の募集サイトでは、なかなか思うような技術系の人材に巡り合うことが困難でした。そこで、プログラムコンテストサイトでエイシング主催のプログラムコンテストを開催し、その参加者のプロフィールやコンテストのランキング上位者を見ると、優秀な人材を多く見つけることができたといいます。技術は確認済みなので、最終面接からスタートし、人間性やコミュニケーション能力を見て採用を決定します。
「AI経験はなくとも、プログラムセンスがあれば教育できるという経験を持っているので、コンテストを使用した採用はとても有効です。中退者などは通常の採用でははじかれてしまいますが、中には大変有能な人も埋もれています」(出澤さん)

また、同社では社員に対する教育支援にも取り組んでいます。
資格取得を目指す社員に対して、講義や試験に係る費用を半額負担します。また、書籍や職場で使用するパソコンなどの電子機器についても、購入費を負担しています。資格を取得すると、さらに会社で報奨金等を用意するなど、社員の勉学に関する向上心を高める制度を設けている他、社員にとって仕事がしやすい環境整備を積極的に実施しています。
今後は、男性社員が多いことから、男子寮設立も検討していると言います。

エイシングの社内風景(クリックすると拡大します)

いかがでしょうか? 株式会社エイシングはDBTについてすでに7本の特許を出願していて、うち3本は米欧日での国際出願が完了しています。大学の研究から出発し、技術の独自性と、それに適したビジネスモデルの選択で急成長が始まっている、大学発ベンチャーの好事例です。

今回取り上げた賞はこちら

大学発ベンチャー表彰2018

科学技術振興機構(JST)とNEDOが大学等の成果を活用して起業したベンチャーのうち、今後の活躍が期待される優れた大学発ベンチャーを表彰するとともに、特にその成長に寄与した大学や企業などを表彰するのが「大学発ベンチャー表彰 ~Award for Academic Startups~」です。本表彰は、大学等における研究開発成果を用いた起業および起業後の挑戦的な取り組みや、大学や企業等から大学発ベンチャーへの支援等をより一層促進することを目的としています。

技術革新や経営革新を行い、社会に影響を与えている中小企業が全国に数多く存在しています。
ミラサポでは、表彰された優良企業をご紹介していますので、みなさまの経営の参考事例としてご覧ください。

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