Vol.10

企業間連携で純国産の医療機器を開発 医師とモノづくり企業をつなぐ「通訳」に

田中医科器械製作所(東京都北区)の子会社として福島県に設立。医療機器開発を行うが、自らはファブレス(工場を持たない)で、医師と製造業者との「通訳」の役目を果たすのが、マイステック(福島県郡山市、金井克也社長)だ。金井社長は田中医科器械製作所で25年間営業マンを務め、外科用鋼製器械の知識についてはエキスパートだと自負する。金井社長は福島の地でも、企業間連携の取り組みをしながら、医療産業の活性化を目指して挑戦を続けている。

企業間連携で純国産の医療機器を開発 医師とモノづくり企業をつなぐ「通訳」に

福島への恩返しとして事業開始

マイステックは、2013年9月設立の医療機器開発・販売を行う会社。設立のきっかけは、親会社である老舗の医療機器メーカー、田中医科器械製作所が、2013年6月から脊椎固定用インプラントの開発を開始したことにある。同社はこの開発にあたって、福島県が実施する医療機器開発に対する補助金を活用したのである。
「福島に恩返しをしたい」という想いと、10年以上前から医療機器産業の集積を図っている福島県に成長の可能性を感じたことから、子会社としてマイステックを設立。製品開発にあたって医師とモノづくり企業の繋ぎ手としての役割を担うこととした。

医療機器展示会「メディカルクリエーションふくしま」に参加

医療機器展示会「メディカルクリエーション
ふくしま」でプレゼンテーション

親会社とは異なる製品コンセプトで開発

マイステックは、親会社とは異なるプロセス、価値観、ブランディング戦略で、製品開発をめざしている。外科医師が使うメスや鉗子(かんし)などは少量多品種のものが多い。外科医師は職人肌の人が多く、1本1本、手仕上げした品を好むからだ。それは多くの職人を擁する田中医科器械製作所では元来、得意とする品目でもある。一方で、量産化は不得意としていたが、マイステックでは量産品に力を入れ、製品開発に取り組んでいる。
「求められる機能とコストのバランスから量産の方が向いている器具もあり、その点で提供商品の親会社との棲み分けを図っています」(金井社長)
金井社長は、田中医科器械製作所の社員として約25年、営業畑で勤務してきた経験がある。メーカーとして全国の医師らと新製品開発に携わったり、ディーラーとして病院に医療機器を卸したりといった業務を長年してきており、医師がいま必要とするニーズを見て取ることができるという。
市場に出回る外科用医療機器は、その90%以上が海外製。医療関連産業が盛んな福島県内でも、提供業者は同社のほかにもう1社ある程度だという。
「国産のモノづくり技術を活かせば、海外製と遜色ないものが作れることを証明したい」と金井社長は語る。「マイスターのテクニック」に由来する社名が意味するとおり、「医師が使いやすい器具を、モノづくり企業の技術で実現する」というコンセプトがある。

事業推進担当の津野充輝さん(左)、金井社長

事業推進担当の津野充輝さん(左)、金井社長

はじめは戸惑いがあった

2014年から、同社の第1号製品となる「脊椎手術用開創器システム」の開発に着手した。これは脊椎手術の際、切開部位を継続的に開けておくための固定器具。皮膚を大きく切ってしまうと、治癒に要する期間もそれだけ長くなってしまうため、近年は低侵襲(小さな傷)の手術が求められており、低侵襲でも的確な手術ができるよう医師を補助する器具である。海外製では同用途の製品があったが、製造をすべて福島県内の企業とし、「Made in Fukushima」で同等以上の性能のものを作ること、を第一にめざして開発に取り組んだ。
「開発にあたっては、様々な支援機関に呼びかけるなどにより、福島県内の有力なモノづくり企業をリストアップし、『こういうモノができないか』と片っ端から電話をかけました。また、直接足を運んで製造先を探しました。突っ込んでいく無鉄砲さを大事にしています」(事業推進担当・津野充輝さん)
個別企業への訪問と並行して、それらのモノづくり企業も多数来場する医療機器の展示会場で、製品開発プランの説明会を実施した。その時に出会ったのが、説明会に来場したひさき設計(福島県郡山市)の吉田慶太社長だ。同社がマイステックの熱心なプレゼンテーションに興味を持ち、開発チームに加わったことで、製品開発が本格的に始動した。
ひさき設計は、車載用AV機器の開発、設計を中心に行っており、取引先は大手自動車メーカーなど。医療機器の製造経験もわずかにあったが、外科用器具の開発は同社にとっても初めての経験だった。
「医療業界の常識と、我々モノづくり業界の常識とでは食い違う部分が多くありました」と吉田社長は語る。品質要求がシビアであることはもちろんだが、医療機器と一般の機器とではリスク管理の視点がまったく違ったという。また、医療業界からの要求は、工業的な数値よりも医師の「使いやすさ」による部分が大きく、医師の「こうしたい」という要望に対して、試作品が理想と違うという繰り返しが何度もあった。

開創器システムを使用した脊椎手術

開創器システムを使用した脊椎手術

医師とモノづくり企業との「通訳」

医師とモノづくり企業との間の齟齬(そご)は、医療機器開発のノウハウを有する金井社長が率いるマイステックが「通訳」することで解決を図った。
「お互いに得意分野の話はできる。でもそれが噛み合わないことがしばしばあるんです」(金井社長)
はじめは図面もない中、「このくらいの力でこのくらい開く」という医師からの要求を、モノづくりをするうえでの数値に変換するのが最大の難関であったが、意見交換と試作を重ね、徐々に落とし込んでいった。
一方で、ひさき設計から出された提案が、製品に活かされる場面もあった。例えば、ネジ留めを予定していた部分をカシメ(金属の塑性変形を利用して金属板どうしを繋ぎ合わせる工法)にするなどである。これにより微妙な調節ができるようになった。
金井社長は開発当時をこう振り返る。「ひさき設計さんも手術で使う道具の開発は初めてで、金属製品であるにも関わらず、洗浄した後は注油できない、だがスムーズに動かなければならないという条件があります。完成までには色々な苦労がありました。ひさき設計さんと出会うことができて良かったのは、課題に対する我々の要望に根気よく、様々なアイディアを出してもらったことです」
「以前から医療機器業界への本格参入をにらんでいましたが、人体に接するものはハードルが高いと感じ、なかなか踏み込めずにいました。しかし、この機会に携わることができ、今後はより積極的に取り組んでいきたいと思います」(吉田社長)

ひさき設計の原田広常務執行役員(左)、吉田社長

ひさき設計の原田広常務執行役員(左)、
吉田社長

公的支援の活用が後押しに

「医療機器の製品開発は、法規制上の様々な制約をクリアする必要などから、多額の費用がかかります。その意味で公的資金の活用は重要です。使える助成金などがないか、ミラサポの『施策マップ』で探したり、支援機関に相談したりしました」と、津野さんは当時を振り返る。
相談した商工会議所の職員から、福島県産業振興センターが運営する地域中小企業応援ファンドである「ふくしま産業応援ファンド事業」助成金を紹介され、活用することにした。これは中小企業基盤整備機構と福島県が組成したファンドの運用益を原資とした助成金で、新商品開発などにかかる経費を3分の2まで助成する事業である。 「申請書は分量もあり、かなりハードルが高いものでしたが、公的資金を頂ける価値はその負担に勝ると思います。助成金を頂くからにはしっかり事業化して、税金としてお返しすることが恩返しだと思っています」(津野さん)
助成事業の運営事務局である福島県産業振興センター技術支援部の齋藤浩一さんは、こう語る。「外部審査委員による審査を経ての採択となりましたが、海外製と比較しても遜色なく、日本の医師のニーズにできるだけ応えようとする製品コンセプトが評価されたのだと思います」

また、この製品開発とは別だが、「平成28年度第2次補正予算 小規模事業者持続化補助金<追加公募>」を活用して3Dプリンタを導入し、製品開発前のモックアップ作成などに役立てている。

福島県産業振興センター技術支援部の齋藤さん

福島県産業振興センター技術支援部の齋藤さん

課題を解決、市場へ

資金的な助けもあり、脊椎手術用開創器システムを「MT-LINE レトラクターシステム」として2017年1月に商品化を果たした。
「今回、開創器システムの開発とともに、オプション品としてこれまで扱ったことのないLED光源装置の開発にも取り組みました。要件や規格に関しては、医療機器の開発や事業化を支援している、ふくしま医療機器産業推進機構に相談してアドバイスをいただきました。安全性確認のためのEMC試験では、県の公設試験研究機関などの設備を活用してテストを行いました。このような支援機関のおかげで商品化を実現し、感謝しています。やっと一人前の企業として踏み出しました」(金井社長)
製品開発における課題を、企業間連携と公的機関からのサポートにより解決したのである。
「複雑な機構を有する器具で、途中で仕様変更もあったため、開発期間は当初の予定より1年ほど延び、3年がかりになりました」(津野さん)
医療機器は実績が重んじられる傾向にあり、完成したらすぐ売れるというわけではないというが、すでに販売実績があり、全国の5つの病院に納入。金額として約1,200万円の売上となった。
「これを足がかりに、販売拡大していきたい」と金井社長は意気込んでいる。

開発した脊椎手術用開創器システム

開発した脊椎手術用開創器システム

新たなプロジェクトへ

金井社長の今後の展望は、「ふくしま版RENG(レン)プロジェクト」の推進だという。これは親会社の開発モデルを福島県版に落としこんだものだ。RENGとは「連」に由来しており、連携する各社が最強の技を持って連なる、という開発モデルを指している。
同社の第2弾開発製品として、椎間板ヘルニアの治療などに使う脊椎固定用インプラントの開発にすでに着手している。福島県内の製造業者4社とチームを組み、企画会議を重ねるなど、製品開発にまい進している。
「製品開発を『オールふくしま』で行うということを強みにしていきたいと思います。福島県には高度な技術を有するモノづくり企業がたくさんあり、彼らとともに協力し、そこに日本人医師が必要とする機能やスペックを反映させることで、『工業用技術を医療に転用した国産の整形インプラント製品の開発』というイノベーションが起こせるものと期待しています」(金井社長)
最強の技を持つ、ちいさな複数の企業が力を合わせることで、思いがけない相乗効果で良いモノを作り出すことができる――。それが企業間連携による製品開発の重要性である、と金井社長は強調する。

複数のモノづくり企業が連携する「RENGプロジェクト」

複数のモノづくり企業が連携する
「RENGプロジェクト」
(クリックすると拡大します)

金井さんは語る

金井克也社長

福島県は、医療機器産業集積の地を目指しています。それについていけるように、「Made in Japan」、さらには「Made in Fukushima」の製品をリリースしていくことが使命と考えています。医療機器産業を通じて震災復興や雇用確保に貢献できればと思います。福島の医療機器産業発展に力を尽くしていきます。




すべての特集を見る