Vol.13

自己流経営からの卒業

『食卓に笑顔があれば、家庭は幸せになれる。』
そんな母からの教えを胸に、松本 千佳さんは2018年11月8日、山梨県北杜市の八ヶ岳に「フェリチタドレッシング研究所・八ヶ岳 工房兼ショップ」をオープンさせた。
山梨県の女性起業支援プロジェクトco+shegotoの支援、事業に共感する仲間たちのサポートを受け、八ヶ岳から「フェリチタ(イタリア語で幸せ)」を世界へ届ける。

関係者の相関図

働く母であるからこそ気づいた一品

松本 千佳さんは13年前、出産に立ち会った助産師さんも驚くほど大きな4500gの男の子を出産した。無事出産を終えはしたが産後のダメージは大きく、両親がリタイアメントで移住していた八ヶ岳へ向かった。送り出してくれた家族とは3か月休んだら家に戻るとの約束であったが、戻ることなく八ヶ岳で、一人で子育てをすることを決めた。

八ヶ岳は寒暖差が激しいため、甘みが強く味も香りも強い野菜が取れる。そこで友人たちへの土産物として、八ヶ岳の有機野菜を使ったドレッシングを作り始めたところ、「お肉でも野菜でも、冷蔵庫にあるものにかけるだけで、ちゃんと一品になる!」と好評を得る。

子供には添加物を使わず、安心できる食事を与えたいが、仕事をしながら全て手づくりで食事を作ることは難しい。スーパーを回っても何かしら添加物が入っており、自分が納得して子供に食べさせられる商品は見つからない。自分が母となり、仕事をしながら育児・家事を行うことで、添加物を使わず全て手づくりで食事を作り、家事の一切を怠らなかった自分の母の偉大さと、ありがたさを実感した。

しかし、ふと考えてみると、友人にプレゼントしていた手作りドレッシングはそのような悩みに答えてくれる一品であった。「私と同じ考え、悩みを持つお母さんがきっといるはずだと思ったのです。でも、欲しいものは売っていない。だったら自分で作ってしまおうと。」
こうして、自宅の一室でのドレッシング作りがスタートした。

課題の本質を見抜く理解者との出会い

はじめはパートタイムでの仕事の傍ら、マルシェの出店や地元スーパーへ卸などを行った。当然出店すれば売り切りたくなり、完売すれば次にはもっと多くを販売したくなる。次第に、顧客や卸先のニーズに自分のやり方だけでは応えられなくなってきた。子供も高学年となり、自分としてはもっと出来る、本気で取り組みたいと思うタイミングでもあった。

そのような思いを抱いていたタイミングに、友人のFacebookで山梨県の女性起業支援プロジェクト『co+shegoto(コーシゴト)』のセミナーを知り参加。3年ほど前のことだ。

このセミナーをきっかけに特定非営利活動法人bond placeの加藤 香さんと出会う。
「違う方に相談をしていた時に、通りかかった香さんが『これは違うよ!』と軌道修正をしてくれたのです。話をしても勝手に人の目標を決めて、自分の得意な分野での支援にもっていこうとする相談員が多い中、香さんは自分でも気づいてない本質的な課題を理解し、リスクも含めて必要な支援をちゃんと考えてくれました」。

ネットワークで女性起業家を支援

「co+shegoto」は、山梨県が主催し、県内市町村、県内金融機関、中小企業支援機関が参画する女性の起業支援プロジェクトである。経済産業省の女性起業家支援ネットワーク構築事業にも参画している。
起業に関心がある女性や先輩起業家がつながり、それぞれの未来を切り開くための場を提供し、セミナーや先輩の現場訪問、ワークショップなどを開催している。併せて、参画する企業・団体が主催するプロジェクトも並行して行われている。

特定非営利活動法人bond placeで加藤さんと一緒に活動を行う野口 雅美さんは、複数のセクターが連携し支援を行うことのメリットについて、「相談者は誰か1人に相談したとしても、その後ろには融資を行える金融機関、助成金などの支援策を持っている行政もついているので、相談者が必要とする支援をトータルで、チームで提供することができます」と。

また、参画企業の一つ山梨中央銀行が主催する「女性企業家応援プロジェクト」においては、相談者1人ずつに担当者がつく。当プロジェクトのセミナーでは相談者との面会後に「共有会議」が開催され、担当が全機関の関与者に相談者の課題を共有し、モデルケースの紹介や使える支援策のアドバイスをもらう。「担当者の質で、女性の人生が変わってしまっては大変です。目の前のこと、家族のことなど、女性が起業するためには、様々なことを検討していかなければなりません。無理をさせてしまえば、家庭を壊すか体を壊す、地元にいられなくなるなど、副作用も大きいのです。だからこそ共有会議を行いみんなでサポートを行います。担当者としてはなぜ自分の相談者がうまく進まないのかもみんなに知られてしまうので、緊張感がありますよ」(加藤さん)。

自己流経営の限界

人生、ビジネスの目的・目標は人それぞれである。たくさん売って、稼いで、ビジネスを大きくしたい人もいれば、もっと別の価値観を大切にしてビジネスを行っている人もいる。
松本さんは「幸せになりたいだけ。自分が幸せになり、周りもハッピーになればそれでよいと思っている。『食卓に笑顔があれば、家庭は幸せになれる』と母が教えてくれました。そのために私のドレッシングが役立てればうれしいです。だから、必要な人たちに商品を届けたいのです」。

松本さんが参加した「女性企業家応援プロジェクト」の担当、山梨中央銀行の武藤 拓路さんへ最初に伝えたことは「私、かけこみ寺をつくりたいです!」。当然、武藤さんは困惑した。そこで武藤さんは加藤さんの力を借りながら松本さんの話を丁寧に紐解き、その言葉の裏にある思いを整理し、一枚の絵にまとめた。
これまでも対処療法的に自己流で様々な課題に取り組んできたが、根本的な解決を目指す時に来ていると判断した武藤さんから「自己流経営の限界にきています。『自己流経営からの脱却』を図りましょう」と次ステップへ向けて、テーマが示された。

支援を受けた松本さんは「セミナーに参加しようと思ったときは、自分がビジネスのフェーズにおいてどこにいるかわからなくて、困っていました。今どの状況で、どこにいるかを整理してもらえたことに感謝しています。また、整理するために話を聞いてくれる人がいて、それを拾ってくれる人がいた。co+shegotoがチームで支援してくれたことでビジネスが動き初めました」。

本気度に見合ったサポートを

松本さんの具体的な事業課題は「時間と原材料のロス」。これらをいかに短縮するかを考えたとき、安定した原材料の仕入れ、さらに材料を運んで・加工して・その場で売れる環境を用意することが必要だった。

そこでまずは地元農家との新たな契約、第6次産業の加工場との契約を行い、仕入れ・加工・発送の体制を整えた。

それからは半年ほど経ち、加藤さんが知人の建築事務所から松本さんが物件を探していることを耳にした。「お金をかけて、ちゃんと拠点を作るという本気度を最初は感じていなかったので、まず加工場を紹介したのです。しかし、建築事務所に相談したということは、ついに本気になったなと。本気になったのであれば、手を貸さない理由はありません」。

加藤さんの紹介で三井さんの倉庫一角を借りられることとなり、「フェリチタドレッシング研究所・八ヶ岳 工房兼ショップ」はオープンへ向けて、大きく動き始めた。

弱さも見せられる仲間づくり

体制を整えることと合わせ、原価やコストの徹底的な管理を行い、事業計画書の充実を図れたことから、「公益財団法人山梨中銀地方創生基金」の採択も決まった。その資金を基にお店作りを始めたが、当然すべてを外部に委託をすれば赤字となる。やれることはすべて自分で行わなければならい。

物件も決まり、場の確保ができたタイミングで加藤さんは一度、松本さんと距離を取る。「この土地でビジネスを進める場合には、自分から『助けて!』と言えないと、うまくいきません。地元に応援者がいないと、この土地では難しいのです。だから、あえて距離をとり自分から『助けて』と言う環境に追い込みました」。

松本さんにとって八ヶ岳は移住した場所であり、弱音は言ってはいけない、また、言いづらい環境でもあった。しかし、そうは言っておられずFacebookに『ペンキを塗りにきて!(助けて)』と投稿。友人やボランティア仲間が「手伝うよ!」と次々に返事をくれた。

この投稿がきっかけとなり、事業に共感してくれる仲間を獲得できたのである。

何をやるかより、誰とやるか

事業における、最も重要なターニングポイントは、お店オープン前に借りていた加工場で石上 由希子さんと出会い、パートナーとしてフェリチタに迎え入れたこと。

「元々私は信頼関係が築けなければ、自分から助けてとか、話すことすらもできない人なのです。ですが、加工場で一緒に過ごしている中で、自問自答して悩んでいることに、さらりと『いいものだよ。いいと思うよ。』と、とってもストレートな表現で、私や商品を肯定してくれたのです」。

「松本さんの言っていること、やっていること、そして商品。本物を作る人の情熱を、たくさんの人に知ってほしいと感じました。知ってもらえれば、様々な人に良いインパクトを与えられると思ったのですよ。10年続いているのは、いいものだからだ。なのに、本人がそのことに気づいていない。ここだけではもったいないと思い、フェリチタに参画しました」。

石上さんは食の知識も豊富で、アイディアを伝えるとすぐに試作を作り、課題を整理し進めてくれる。二人で会話することで、不可能を可能にしていく策がどんどん浮かび、1人では勇気が出ないことも、やる気に変わる。

「何をやるかより、誰とやるかが大切だと思っています。彼女は理想を形にしてくれるパートナーです。
彼女と共に、全国規模でフェリチタの商品を知ってもらえるように、まずは東京に進出する交渉を広めています。そこから全国に波紋を広げていきます。
もっとフェリチタを必要としている方のもとに届けていけるように、これから二人で、どんどん良き方向へ変わっていけると信じています」。

女性起業家は語る

女性起業家は語る

本気でやっていると、賛同者は出てきます。ただ、自分が心を閉じてしまっていては、周りは入ってきてはくれません。「応援されます!」とオープンマインドを持つことも、女性の起業には大切だと思います。今は任せるところはお任せして、長々と仕事をするのはやめようと意識していています。心も時間にも余裕が持てたことで、息子から「ママ、怒らなくなったよね」と言われています。




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