Vol.6

"兄の一言が一歩を踏み出させた"夢へ向かって起業 ゼロから生まれた高品質リュック

2017年4月14日17時、クラウドファンディングを通じてある女性用リュックの先行販売が開始された。開始からわずか12時間で目標達成されるほど注目度の高いそのリュックを企画・制作したのは、都内のIT企業に勤める女性、横山加代子さん。ものづくりの経験がまったくない横山さんだが、手探りながらも高品質のリュックを商品化できた原動力は、自身と同じ"働く女性"の悩みを解決したいという強い思いだった。

欲しいバッグがどこにも売っていない

企業でITコンサルタントとして活躍する傍ら、中小企業診断士としても精力的に活動している横山さん。毎日ノートパソコンや仕事の資料、勉強のための書籍などを手提げ鞄に入れて持ち歩いていた。重い鞄は横山さんの手にまめをつくり、肩こりや腰痛を悪化させた。
リュックタイプの鞄であれば身体への負担が軽くなることはわかっていたが、市販されているビジネス用リュックは男性用のものばかり。30代の女性が持つにはいささか無骨すぎた。
「2年ほど探しても欲しいリュックは見つかりませんでした」
その頃から自分で理想のリュックをつくる、ということを考え始めた。

ぐさりと刺さる兄の言葉

横山さんの両親と兄弟はそれぞれ事業を経営しており、「リュックをつくる」というビジネスを相談すると賛成をしてくれた。だが、横山さんにはものづくりのノウハウも人脈もなく、何をしたらよいのかがまったくわからなかった。理想のリュックをつくりたい、そう思い始めてから2年、横山さんはまだ行動を起こせないでいた。
「いつまでたってもリュックづくりを始めずにいたら、兄に"できない理由ばかり並べて、そのままどうせやらないんだろ"と言われました。ぐさりときました」
兄の誠一郎さんは、やりたいことや目標に対して努力を惜しまない、行動力のある人だった。実際に事業を起こして継続している兄からの言葉は、事業に対する心構えの差という気付きを横山さんに与え、リュックづくりへの一歩を踏み出させた。

「ひとりぼっち」で自分に向き合う

「リュックをつくろうと決めたとき、その覚悟が本物なのかどうか自分でもわかりませんでした」と横山さんは振り返る。
「本当に自分が欲しいリュックをつくるために1人でプロジェクトを始めました。人の意見を聞いてしまうと、自分の欲しいリュックのイメージがあいまいになってしまうように思えたからです」
横山さんは、1人でリュックのコンセプトを考え、イメージをスケッチし、仕様を検討するなど、理想のリュックの実現化に向けて準備を進めていった。

ラフスケッチが「欲しいリュック」に

次に、出来上がった企画書を形にするため、横山さんはインターネットで見つけた「丸ヨ片野製鞄所」の片野一徳さんのもとを訪れる。
「"仕事をがんばる女性のためのリュック"という企画書と、リュックのラフスケッチを持ち込み、私のやりたいことをお伝えしました」
片野さんと鞄職人の増田卓哉さんに話を聞いてもらい、プロである2人からアドバイスを受けながら、与えられる課題を1つひとつ解決して仕様を決めていった。「細かい仕様をすべて決めていかなければならないのがとても大変でした。このパーツは何センチ、位置は何ミリ、と。すべてです。それまで大まかなイメージでしか仕様を決めていなかったので本当に大変でした」と、横山さんは振りかえる。
一方、増田さんはその高い技術力とこれまでの経験から、横山さんの想いを汲み取りつつ、ビジネスでのハードな使用に耐えられるように工夫を施した。例えば、摩擦が起きやすい個所には強度の高い素材を選定したり、縁の縫い方を工夫することで型崩れを防止したり、リュックには技術者のこだわりが多く盛り込まれている。
こうして最初のサンプル品が完成したのは2016年4月。横山さんがリュックを探し始めてから5年が経っていた。

広がる支援の輪

「1人で始めたプロジェクトでしたが、形になるにつれだんだんと協力してくださる方が集まってきました」
リュックの仕様を決める際に意見を聞いた同世代の友人、ブログの執筆やツイッターの投稿などの販売促進を進めてくれるプロジェクトのメンバーたち。
「嬉しいことを共有する仲間ができたことで、ポジティブにプロジェクトを進めていくことができました」
販売チャネルについては、支援者から提案のあったクラウドファンディングを選択した。クラウドファンディングのプラットフォームを利用し、アイデアへの賛同や支援を得ることができる点と、製作開始前に販売数が確保できるという点が魅力だった。
クラウドファンディングの開始にあたっては、ミラサポ登録専門家である株式会社にぎわい研究所の村上知也さんのアドバイスを受けた。村上さんはWebマーケティングの専門家だが、インターネット以外のイベントでのプロモーションを提案するなど、横山さんに親身かつ的確な助言をした。ターゲットとなる人たちに直接リュックの魅力を伝え、ファンを増やす活動の機会をつくるなど、村上さんのアドバイスはその後の販売促進活動の軸ともなった。
リュックは「be with you(貴女とともに)」という意味の「biz+u(ビズユー)」と名づけられた。頑張る女性の相棒として寄り添いたいという横山さんの想いが込められている。biz+uリュックは多くの女性や働く人々の共感を得て、瞬く間に目標金額の300%以上にのぼる資金を獲得することができた。

「かばん屋さんになりたいわけではないんです」

自身や同じ立場の女性の悩みを解決するためにリュックを製作した横山さんだが、リュックが売れるのがゴールではない、と語る。
「私が本当にやりたいことは"働く女性の新しい価値観"をつくることです。このリュックは"新しい価値観"のうちの1つです」
女性の社会進出が進み、男女平等も世の中に浸透したが、人々は無意識に"○○らしさ"や"こうあるべき"という枠組みにとらわれてしまっているのでは、と横山さんは感じている。"私らしく仕事をする"という価値観を体現するために何ができるか―横山さんはすでに次のアクションを模索している。

横山さんは語る

現在の状況を富士登山に例えるとまだ5合目。富士山に行ったとは言えるけど、登ったとは言えない位置です。まずはbiz+uリュックを本当に必要としているすべての人に届けていかなくてはなりません。その後、何ができるかは今考えているところです。
進みは遅いですが、やめない粘り強さが取り柄なので長期的な視点で根気よく取り組んでいきたいと思っています。




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