Vol.7

『人の輪』活かしたジャムづくり 地元を巻き込み地域を元気に

瀬戸内海に浮かぶ人口1万7000人の山口県・周防大島。過疎・高齢化が進んだこの島で、にわかに注目されているのが瀬戸内ジャムズガーデン(山口県周防大島町、松嶋匡史社長)だ。この会社は、大手電力会社に勤めていた松嶋さんが脱サラして創業。地元の果物を使ったこだわりのジャムはもちろん、『島のジャム屋』として、たくさんの地元の人たちと縁を結んでジャムづくりに取り組み、地域に活気をもたらしていることでも知られている。

『人の輪』活かしたジャムづくり 地元を巻き込み地域を元気に

農家とともに歩む

瀬戸内ジャムズガーデンは地元の果物を使った手づくりジャムを少量多品種で販売する。それが売りだ。
原料となる果物については、その9割超を地元の契約農家と自社の農園から仕入れる。買入については数量と価格を契約農家と話し合ったうえで、安値での調達はせず、適正な価格をきちんと支払う。そこには地元の農家と一緒に成長していこうとする思いがある。社長の松嶋匡史さんは「地元の農家さんがきちんと利益を得られるようになって初めて、後を継ごうとする人たちが出てくる。農家さんなしではこの先、ジャムをつくり続けていけません」という。
7月にブルーベリー、8月にモモ、9月にいちじくといった具合に、四季折々の果物を使い、さまざまなジャムをつくる。価格は155グラムの瓶入りで700円など。スーパーで買える一般のジャムに比べて高価だが、それでも売れる。同じ果物でもその年ごと、さらに出荷してもらう農家ごとに果物の味が違うため、「ジャムの味も同じものが一つとしてありません」(松嶋さん)。これがジャムにプレミアム感をもたらし、その売上が適正価格で果物を仕入れられる背景にもなっている。
年商およそ1億円。2003年の創業以来、右肩上がりの業績だ。2015年に国の補助金を活用し、工房を拡張。ジャムの生産可能規模をこれまでの倍となる瓶20万本(年産)に引き上げた。だからといって、何でもよいからジャムをつくろうという考えはない。「ちゃんとしたジャムをつくるには、それに見合うだけの農産物、そして、それをつくってくれる人たちが増えないといけません」(同)。

起業につながった縁

起業のきっかけになったのは、夫人である智明さんとの縁だ。2001年に新婚旅行でフランスのパリを訪れたときのこと。たまたま立ち寄ったジャムの専門店で、松嶋さんはジャムのとりこになった。店内にズラリ並んだ品ぞろえはもちろん、瓶に書かれた原材料のあまりの多さに驚いた。自分だけのオリジナルのジャムをつくり、売ってみたいという思いが湧きあがる。
智明さんが果物栽培の盛んな周防大島の出身だったことも大きい。松嶋さんによると、「地元の人たちは採れた果物をジャムにすることはそれほど特別なことではなく、たいていの場合、幼い頃に体験しています」。さらに智明さんの実家が寺院で、お供え物を保存するために智明さんがジャムづくりを手伝っていたことも聞いていた。心の中でジャム屋の輪郭も見えてきた。

信用力が大切

智明さんを説得し、協力を得ながらジャムづくりを修行する中、さらに人との縁が広がる。周防大島の荘厳寺で住職を務める義父の白鳥文明さんを通じ、果物を栽培する農家をジャムの原料の仕入れ先として紹介してもらった。いずれも白鳥さんの門徒。松嶋さんは「お金が高いとか安いとか、そういったことではなくて、仲介してくれた人の信用力が、特に地域ではとても大切になることをあらためて実感しました」という。
創業時、8軒で始まった契約農家は現在、当時に比べて7倍超の58軒に増えた。知り合いの知り合いからの紹介など経緯はさまざま。ただ、智明さんとの縁がなければ、パリでジャム店に立ち寄ることもなく、義父・白鳥さんとの縁もなかったかもしれない。そうしたことを含めて松嶋さんは「それぞれがすべてありがたいお付き合いになっています」と話し、穏やかな表情を浮かべた。

周囲のアイデアを活かす

契約農家との付き合いは、単なる仕入れ先と納品先との関係にとどまらない。新たなジャムづくりのアイデアを与えてくれる農家もある。青みかんを使ったジャムが良い例だ。松嶋さんによると、あるみかん農家に教えてもらった「同じみかんでも収穫する時期や栽培の方法で味が変わる」という言葉がヒントになった。これまでとは酸味や香りが違うみかんジャムの開発につながった。
商品開発をめぐっては、社員の発想も取り込んでいる。その中の1つ、バラを使ったジャムは、かつて日比谷花壇(東京都港区)で働き、花について詳しい岡﨑真弓さんの発想をもとにした。地元のバラ農家の協力を得て、加熱しても香りが抜けないバラなど、さまざまな品種をコーディネートしてもらい、それを無農薬で栽培してもらいジャムにした。
「ハロウィーンの時期にかぼちゃを使ったジャムを売ろう」という社内の声も活かした。かぼちゃの苗をいくつか植え、品種ごとにどんな味付けがおいしいのか調べ、その翌年、一番おいしいかぼちゃの品種を選んで商品化した。農家とのつながり、社員とのつながり、さらに農家と社員のつながりを組み合わせた新たなつながり。こうした人の輪がこの会社の商品開発をもり立てている。

地元の人たちとウィン-ウィンの関係

農家以外の地域の人たちとのつながりも大事にしている。2007年に周防大島に移住して以降、ブルーベリー研究会という名称で、定年退職者を対象にブルーベリーを栽培してもらい、それを買い取ってジャムの原料にしている。「がっつり農業したくないが、小遣い稼ぎ程度に楽しみたい人たちとのスモールビジネスになっています」(松嶋さん)。
障がい者支援施設とも協同し、ブルーベリーの収穫を手伝ってもらっている。ブルーベリーを使ったジャムは季節のジャムの中でも人気があり、「収穫する量が増えて助かっています」(松嶋さん)とのことだ。一方、支援施設の関係者にはレクリエーションの一環として楽しまれているようだ。こうしたウィン-ウィンの関係が地元に元気をもたらしている。

コラボレーションで新商品

瀬戸内ジャムズガーデンの取り組みを見聞きし、一緒に仕事をしてみたい、あるいは起業のアドバイスを受けたいという人たちも続々と出始めた。瀬戸内海でとれた海の幸を活かしてオイルサーディンなどをつくるオイシーフーズ(山口県周防大島町)の代表・新村一成さん(写真の右の人物)もその一人だ。
新商品のトマト&バジル風味のオイルサーディンは、新村さんが松嶋さんや地元の主婦たちの意見を参考にして完成した一品。ほかにも、周防大島にある川田餅本舗、生田豆腐店と商品開発でコラボレーションした。それぞれ「ジャム大福」「ジャム豆腐プリン」をつくり、瀬戸内ジャムズガーデンのカフェで販売している。
こうした取り組みが政府や自治体の目に留まり、さまざまな役割を任されている。内閣府地域活性化伝道師、山口県キャリア教育推進会議委員、同県活力創出推進会議委員、周防大島UIターンを応援する「島くらす」の会長など。地元の人にとどまらず、さまざまな人たちとの縁も紡いでいる。今後、新たな人の輪を活かし、地元を、そして日本のさまざまな地域をますます元気にするアイデア、取り組みが期待されている。

松嶋さんは語る

田舎にしかできない事業があります。それを実践することで、地域の価値をあらためて認めてもらえるようにしていきます。そうすれば、お年寄りが元気になり、若者も戻りたくなるはずです。周防大島は年間の日照時間が長く、果物栽培に適した土地柄です。「島のジャム屋」としてこれを最大限に活かし、この土地と作り手の魂が感じられるジャムをつくっていきます。




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