Vol.8

小水力発電装置の開発を支えた人の縁、ミャンマーへの本格展開も後押し

自社製品をつくりメーカーになる。そんな思いから小水力発電装置の開発をスタートした角野製作所(岐阜県恵那市、角野秀哉社長)。同社にとっては、これが初めての再生可能エネルギー分野での取り組みだった。開発当初は右も左もわからなかったが、さまざまな人と縁を結んで協力を得ながら懸命に取り組みを進めた。
そしてこのほど、毎秒100リットルの水量があれば、家一軒分の使用電力量を賄える小水力発電装置を開発し、2017年12月に実証実験に着手。今後、国内や海外(ミャンマー)での本格展開を視野に入れている。

小水力発電装置の開発を支えた人の縁、ミャンマーへの本格展開も後押し

自動車、航空機向けに部品を加工

角野製作所は、2018年で創業100周年を迎える金属加工の老舗会社。鍛冶屋として始まった同社は、時代の変化に対応しながら、現在、主にチタンやインコネルといった難削材の加工を手がけている。

会社の規模は大きくないものの、自動車向け、航空機向けのエンジン周り部品に強く、年商1億円のほとんどをそれらの売上が占める。

金属加工が主事業の角野製作所。ゴルフのパターをテスト加工

金属加工が主事業の角野製作所。ゴルフのパターをテスト加工

再生可能エネルギー分野への参入

小水力発電装置の開発を始めたきっかけは、同社が恵那市にあることに由来する。同市は木曽川、阿木川、矢作川が流れるなど水が豊かだ。「この水を使って、たくさんの人に役立つオリジナル製品をつくりたい、と思っていました。そうして小水力発電装置がひらめいたのです」と、角野さんはいう。

いろいろ調べていくうちに、恵那市には小水力発電装置を置くのに適した場所が多いことがわかった。モノづくりには自信がある。条件はそろった。周囲の勧めがあり、中小企業庁の2009年度「ものづくり中小企業製品開発支援補助金(試作開発等支援事業)」に応募し、採択された。

ここで角野製作所は再生可能エネルギー分野に参入し、具体的な取り組みが始まる。

わずかな水量でも発電する小水力発電装置

わずかな水量でも発電する小水力発電装置

直面した課題

しかし、ここで同社は壁にぶつかる。補助金事業に採択されたものの、主事業が忙しくなり、人手が足りなくなった。さらに、同社にとっては小水力発電装置の開発について文字通りゼロからのスタート。角野社長によると、「この装置をどんな理論で設計し、どんな仕組みにし、どんな目的で動かすかといったことがわからず、装置の開発にまったく手がつきませんでした。何か手を講じなければと気がはやるばかりでした」という状況だった。

そこで当時、工作機械大手のヤマザキマザックに勤めていた長男・雅哉さん(現・角野製作所新事業グループ主任、写真左)を自社に呼び戻した。雅哉さんは「大きな会社でもっと経験を積みたい気持ちもありましたが、社長(父)の自社でオリジナル製品を開発してメーカーになりたいという長年の夢も知っていましたから」と、角野さんの思いに応えた理由を振り返る。こうして人手不足の問題をクリアする。

角野雅哉さん(左)、裕哉さん兄弟

角野雅哉さん(左)、裕哉さん兄弟

見えてきた輪郭

一方、小水力発電装置の開発をめぐっては、取引先や金融機関、中小企業支援団体の関係者らに、この分野に精通した人物がいないか尋ねて回った。この分野について学びたい一心で懸命だった。こうした中、紹介を受けたのがNPO法人・地域再生機構の駒宮博男理事長だった。

駒宮さんは流体力学などに詳しく、角野さんによると、自分がわからなかったところに駒宮さんがすべてピースをはめてくれたという。「(現在、同社の小水力発電装置に採用している)らせん状の水車の羽根は駒宮さんなしでは考えられません」(角野さん)。こうして小水力発電装置の輪郭が見えてきた。

小水力発電装置の開発ではらせん状の水車の羽根がポイントとる

小水力発電装置の開発ではらせん状の水車の羽根がポイントとなる

東日本大震災の被災地に無償提供

雅哉さんのネットワークも生きた。雅哉さんの母校である中津川工業高校の和田正行教諭、中部大学工学部の加藤章教授から、それぞれ発電した電力の使い方、装置のパーツに適した材料などについて適切なアドバイスをもらった。こうしてさまざまな人の協力を得ながら、角野製作所の小水力発電装置が完成した。

2011年に発生した東日本大震災では、被災地の宮城県気仙沼市に小水力発電装置20台を無償提供し、電力供給を絶たれた地域に住む人たちに装置が生みだす光を届けた。角野さんは「実証実験が完全に終わっていない段階だったので、ためらいもありました。ただ、被災地の関係者からお礼の電話や手紙を頂いた時には役に立てて良かったと心から思いました」と話す。

次代を担う子供たちにも小水力発電装置を通じて再生可能エネルギーの大切さを伝える

次代を担う子供たちにも小水力発電装置を通じて再生可能エネルギーの大切さを伝える

手応えあり

ところが、喜んでばかりもいられない。当時開発した小水力発電装置の発電量はわずか5ワット。乾電池3個分に過ぎなかった。国内ではあまり需要がないかもしれない、との指摘もあった。そこで周囲から海外市場を視野に入れることを勧められ、早速、日本貿易振興機構(ジェトロ)を訪れた。雅哉さんは、「対応してくれたものづくり産業部の大橋敏二郎アドバイザーはじっくり話を聞いてくれ、そのうえで海外展開について、いろいろな助言をいただきました」と話す。

大橋さんに勧められるままにアフリカや日本のビジネス情報を発信する見本市「アフリカン・フェア2013」に参加。ここでの経験が大きかった。直接ビジネスにつながらなかったものの、この装置が海外で必要とされている手応えを得た。「視野が広がりましたね。これまで当社のような規模の会社が海外に出ても良いのか負い目を感じていましたが、行っても良いんだという確信を得ました」(雅哉さん)。

アフリカや日本のビジネス情報を発信する見本市「アフリカン・フェア2013」に参加

アフリカや日本のビジネス情報を発信する見本市「アフリカン・フェア2013」に参加

子どもたちにもっと光を

こうした中、駒宮さんのネットワークを通じて、この装置をミャンマーで使ってみないか、という誘いが舞い込んできた。アウン・サン・スーチー氏から日本の小水力発電を提供してもらいたい、という依頼があるという。そこで、この依頼を通じて紹介を受けた川端鐵工(富山県黒部市)などと連合体を組み、2014年にミャンマーを訪れ、現地調査を行った。日本に比べてミャンマーの水路は幅が大きかったり、水に細かな砂の粒が多く含まれていたりするなど、さまざまな課題も見つかった。

2017年4月、川端鉄工と2社の現地企業とともに、この装置のメンテナンスや活用を促す合弁会社「カワバタ・スミノ・リミテッド」をヤンゴンに設立。また、浮上した課題の解消に着手し、従来の100倍となる500ワットの電力を生む小水力発電装置を開発した。

こうした取り組みに関心を持った日光市、今市工業高校、協和コンサルタンツ(東京都渋谷区)と協力し、2017年12月に実証実験をスタート。角野さんは「この装置で電力供給が不十分な地域に暮らす世界中の子どもたちに、水の流れが生んだ光を届けたい」とし、実験後のその先を見ている。

ミャンマーの河川で小水力発電装置の実証実験

ミャンマーの河川で小水力発電装置の実証実験

角野さんは語る

角野秀哉社長

小水力発電装置でアドバイスを受けた先生たちにこう言われたんです。「発展途上国では電気がなく、ろうそく1本で勉強している子どもたちがいる。そんな子どもたちにもっと勉強しやすい環境をつくってあげられれば、将来、その国に大きな成長をもたらしてくれるはず」。その言葉に触発されて、この装置を海外に持って行こうと決めました。

角野製作所が開発した小水力発電装置のミャンマーでの実験の動画




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