Vol.40 中小企業が抱える課題解決のカギ! 今こそ、健康経営を始めよう!!

新聞やテレビ、雑誌などのメディアで見聞きすることも増えた「健康経営」。 健康経営とは、企業において従業員が健康で気持ちよく働くことが会社の成長にプラスになるという視点に立ち、従業員の健康を経営課題と捉え、戦略的に実践することを意味します。

今回のミラサポ総研では、中小企業が健康経営に取り組むメリットや、何から取り組むとよいのか、さらに取り組みに成功している企業の秘訣などについて、東京商工会議所中小企業健康投資・経営推進委員会座長でいらっしゃる医学博士の古井祐司 東京大学 政策ビジョン研究センター特任助教に伺いました。
※本記事は2016年5月23日時点の取材を基に執筆・掲載しています。

健康経営が、職場を変える!

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ミラサポ事務局:なぜ中小企業が健康経営に取り組むべきなのか、その理由をお聞かせいただけますか。

古井先生:ミラサポ読者の中小企業・小規模事業者のみなさんの会社でも
・人材不足である
・平均年齢が上昇する
・離職率が高い
・社員の仕事に対するモチベーションが低い
・残業時間が多い
・交代制・夜間勤務であるが、ローテーションが安定しない
いずれかの悩みを抱えているのではないでしょうか。

特に、少子高齢化で労働力人口が減少していく状況において、最初に挙げた「人材不足=人が採れない」「平均年齢が高い」という悩みを抱える企業は多いと思います。

中小企業はあらゆる職種で人材不足の状況です。中小企業白書などからも、最近の学生たちは、賃金や知名度よりも、労働時間や職場環境を重視して、就職先を選ぶ傾向がうかがえます。就職活動は売り手市場で、労働・職場環境が良くなければ、人材は集まりません。
学生たちにとって「健康経営にきちんと取り組んでいる企業」は、俗にいう「ブラックでない企業」と等しい価値としてとらえられています。就職活動において、健康経営に取り組んでいる企業は、「ホワイト企業」に見えるのです。
つまり、求職者から「健康経営」が求められている時代なのです。

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続いて「平均年齢が高い」という悩みについてですが、少子高齢社会においては、高齢者も活用していかなければならない状況であり、必然的に企業の平均年齢も上がっていきます。
これまでの企業による社員の健康管理は、就業に支障を出さない、突然死させないなどリスク管理に主眼が置かれていましたが、リスク管理という「守り」の取り組みだけでは、平均年齢上昇に伴う生産性低下には対応できません。そこで、「病気にならなければよい」だけではなく、生産性を落とさない「攻め」の取り組みである「健康経営」が求められているのです。


健康経営で成果を上げた、2つの事例をご紹介します。


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東京都福祉保健局作成リーフレット(抜粋)
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1つ目はビル管理会社です。若手の確保が難しく、平均年齢が上昇を続ける中で、夜間勤務明けの社員が現場で怪我をしてしまいました。そこで社長さんは、社員の健康と安全が第一と考え、健康管理に努めることに加え、夜間勤務を外注ました。経費はそれまでの1.1~1.2倍に増えてしまいましたが、社員が落ち着いて丁寧に仕事を進めるようになり、お客様からの信頼が上がり、結果的に経費増以上に、売り上げが上がりました。
さらに経営者が健康経営に頑張って取り組むことに対して社員が前向きに評価し、健康に関する研修などにも積極的に出席するようになり、それぞれが自身の健康管理・改善に努めたことで、健康文化が醸成されつつあります。
このように、「攻めの健康投資=健康経営」を行うことで、生産性は向上します。


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2つ目は20代の社員を多く抱える美容室です。社員の平均年齢は20代にもかかわらず、血糖値は50代の平均値と大変高いことがわかりました。そこで、職場におかれた自動販売機のエナジードリンクやジュース類を水やお茶に変え、朝礼では店長が健康啓発を行い、忙しくて欠食しがちだったお昼ご飯を交代できちんと食べるようにしました。そうしたところ、翌年の血糖値は20代平均の値となり、欠勤するスタッフが激減しました。そのことで、これまで急な欠勤で代わりに出る人を探すことが大変だったローテーションも安定しました。また、健康に関する知識、そして自らの経験が、お客さまとのコミュニケーションにも活かされているようです。

このように、自社の抱える課題、その背景をしっかり見極め対処することで、比較的社員数が少なく、経営者と社員の距離が近い中小企業・小規模事業者では、効果が早く、さらに高くでる傾向にあります。

自社の健康課題を知ることが健康経営の第一歩

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ミラサポ事務局:中小企業・小規模事業者が健康経営に取り組むには、どのようなことから始めればよいのでしょうか。

古井先生:職種・働き方によって健康問題は異なります。まずは自社の健康課題や健康状況の特徴を把握することから始めましょう。 健康診断の結果は個人情報だから見てはいけないと思っている経営者もいるかもしれませんが、労働安全衛生法では「使用者は、健康診断結果を記録し、健康診断個人票を作成し、5年間保存しなければならない」としていますので、経営者や人事部門の方などは、社員の健康診断の結果(以下、健診データ)を知っていなければならないのです。

大きな傾向として、職場ごとに陥りやすい罠もあります。
例えば、タクシードライバーや営業、販売系の職場は、缶コーヒーやジュース、接待や同僚との付き合い、不規則な食事等で血糖値が高い傾向があります。システム会社は、同じ姿勢でパソコンに向かっているため、緊張感が続き、肩が凝り、血圧が高い傾向があります。
このように、職種・働き方によって健康課題の傾向がありますので、同じ業種が集まる機会に、課題や対応を共有されるとよいと思います。

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生活習慣のレーダーチャート
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また、中小企業の7割が加入している全国健康保険協会(以下協会けんぽ)の都道府県支部によっては、社員の健診データを協会けんぽへ提出していれば、社員全員の健診データを集合データとして分析し、健康課題のレーダーチャートを送ってくれる取組をしています。自社と業界のチャートを見比べると、自社課題が見えてきますので、ぜひ加入している協会けんぽへ問い合わせてみてください。

一歩進んだ取り組みに「健康宣言」があります。名称の通り、社内外に健康経営を行うことを宣言する取り組みです。
加入している協会けんぽなどへ連絡をすると、「健康宣言」のチェックリストを送ってくれる支部もありますので、そのチェックリストを活用することも、自社の健康課題を知ることに役立つと思います。

協会けんぽや健康保険組合に社員の健診データを提出することで、レーダーチャートや「健康宣言」のチェックリストの提供をしてくれる他にも
・健康診断・人間ドックの費用補助が受けられる
・保健指導を受けられる
・健康講座・セミナーに参加できる
など、福利厚生から健康経営のサポートまで、健診データを提出するメリットはたくさんありますので、協会けんぽや健康保険組合に健診データを提出することをお勧めします。
詳しくは所属している協会けんぽや健康保険組合にお問い合わせをしてください。

成功のカギは健康経営のリーダーが握っている

ミラサポ事務局:健康経営の取り組みで結果が出ている、成功している企業の共通点はありますか。

古井先生:社内に健康経営の旗振り役、リーダーがいることです。 リーダーが、自社の健康課題を自分事としてとらえ、どうして健康経営が必要なのか、なぜやりたいのか、会社の文化や課題を踏まえて社員たちに語れなければ、成功しません。
リーダーには2パターンあり、社長自身がリーダーになる場合と、社長がリーダーを決めて任せる場合があります。リーダーを決める場合、会社のことをよく知っている方が適任です。

リーダーが、社の健康課題を自分ごと化するためにも、まずは自社の健康状況の特徴を把握することが、何よりも大切です。
そして、早急に無理して始めてもうまくはいきません。リーダーが自身で試して実感・納得してから始めなければ、社員たちは付いて来てはくれません。 ですので、自社課題を把握したら、その課題に近い先行事例を調べてみることや、協会けんぽや健康保険組合に相談し、対策を試してみて、必要性や重要性を感じてから、自身の言葉で社員に伝え、全社的に取り組みましょう。

また、無理な取り組みも続きません。各職場の動線やイベントに、健康経営の考えを少し加えると何ができるのかと考え、その策を講じることも成功のポイントです。
努力しないで、自然に取り組める策が理想であり、究極の健康経営だと思います。

例えば、大手運送会社は競合他社と比べメタボリックシンドロームの値が高いとわかりました。そこで、普段から仕事前に行っている「点呼」の前に、体重計に乗ってもらうこととしました。「点呼」というこれまでの職場の動線に、「体重計に乗る」という行動を1つ加えたのでした。
その結果、社員たちは微糖のコーヒーを選ぶ、階段を使うなど、毎日の体重測定に加えてほんの少し、健康に気づかうように変化していきました。

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最後にもう1つ事例をご紹介します。大手電機メーカーが職場のコミュニケーションの活性化、メンタルヘルス不調の早期発見を目指して導入した「玉入れ」を、毎年行っている「家族見学会」に取り入れた中小企業があります。子どもたちも一緒に玉入れを行い、イベントは大いに盛り上がり、その後の社内コミュニケーションも活性化しました。
他社の成功事例を取り入れる場合にも、そのまま自社に当てはめても必ずしもうまくはいきません。自社の状況に照らし合わせ、それぞれの職場の動線やイベントに組み込んでみましょう。

取り組みの成果を一定期間でチェックし、思っていた効果が出ていない場合には違う策をまた考えてみましょう。効果が出ているとしても、常に振り返り、見直すことは大切です。
自社に合った健康経営の取り組みがきっとあるはずですので、気負わずに小さなことから始めてみてください。

健康経営を目指す中小企業の先行事例や健康経営の始め方ガイドなど、健康経営へのヒントが満載です。




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