Vol.50 ダイバーシティ経営、中小企業が取り組む意義とは?

多様な人材を活用することで多面的な意見を経営に反映する「ダイバーシティ経営」。今回は、そのダイバーシティ経営に中小企業が取り組むべき意義を、経済産業省が主導する表彰制度「新・ダイバーシティ経営企業100選」及び「100選プライム」の運営委員会委員長である、中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール)の佐藤博樹教授に伺いました。
※本記事は、平成29年9月20日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

ダイバーシティ経営とはなにか

ダイバーシティ経営とは

「ダイバーシティ経営」とは、女性、外国人、チャレンジド(障がい者)、高齢者を含め、多様な人材が活躍できる働き方や職場風土のもとで人材を適材適所に配置することで、経営上の成果につなげることをめざすものです。
経済のグローバル化や少子高齢化が進み、また「第四次産業革命」と呼ばれる急速な製造業の産業構造の変化が生じている中、「人材」こそが新たな付加価値の根幹となりつつあり、このダイバーシティ経営の推進が競争力向上のための有効な戦略といえます。

ダイバーシティ経営とはなにか

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ダイバーシティ1.0からダイバーシティ2.0へ

ダイバーシティの導入には当初はコストが掛かり、特に中小企業はその取り組みに価値を見出せないかもしれません。このステップアップを図るため、経済産業省が設けた検討会では、中長期的に企業価値を生み出し続ける経営上の取組を「ダイバーシティ2.0」と位置づけ、企業がダイバーシティ2.0を実践するにあたって取るべきアクションを整理した「行動ガイドライン」を平成29年3月に取りまとめました。

ダイバーシティ経営企業100選とその事例

※平成29年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」「100選プライム」の公募は、平成29年9月13日に締め切りました。

ダイバーシティ経営企業100選とは

経済産業省は平成24年度より、ダイバーシティ経営に取り組む企業のすそ野拡大を目的に、多様な人材の能力を活かし、価値創造につなげている企業を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」を実施しています。
平成27年度からは、今後、広がりが期待される分野として重点テーマを設定した「新・ダイバーシティ経営企業100選」(以下「新100選」という。)として実施しています。

過去5年間のダイバーシティ経営企業100選及び新100選では205社が表彰され、そのうち約半数に当たる99社が中小企業(従業員数300人以下)でした。
また、平成29年度からは、より中長期的に企業価値を生み出し続ける取り組みとしてステップアップするべく、ダイバーシティ2.0に取り組む企業を表彰する「100選プライム」が新設されました。これは過去に表彰された企業、または平成29年度新たに新100選にエントリーする企業が応募することができます。
「新100選及び100選プライムの平成29年度の公募は、去る9月13日にエントリーが締め切られたところです。中小企業を含め多数の応募があると聞いています」(佐藤教授)

これらは企業規模により応募要件に一部違いがあるものの、評価基準においては大企業も中小企業も同じ項目で審査されます。だからといって難しく考える必要はありません。
「これまでの傾向としては、むしろ大企業よりも中小企業のほうが個性的な取り組みが多く見受けられると私は思っています。新100選については、今年度も従来と比べて評価基準に変わりはありませんが、ダイバーシティ経営の取り組み内容が浸透してきたこともあり、応募企業のレベルが全体的に上がっているので、相対的に表彰のハードルも高くなってきていると思われます」(佐藤教授)

ダイバーシティ経営企業100選における中小企業の事例

前述のとおり、ダイバーシティ経営企業100選及び新100選ではこれまでに99もの中小企業の選定があります。その中にはダイバーシティの推進により大きく成果を上げている企業も数多く存在します。その中から2社の事例を紹介いたします。

事例紹介1:人材不足を解消、スムーズな技能継承を実現(平成27年度選定)

女性クラフトマンが活躍

女性クラフトマンが活躍

㈱KMユナイテッド(大阪府大阪市)は、塗装業界における人材不足と技能継承ができなくなる危機に対応するため、人材育成に特化した会社として設立されました。建築工事における現場施工、改修工事、塗料販売を行っています。
設立後、まず親会社の職人の作業内容を分析したところ、少し訓練すれば未経験者でも対応できる作業が数多くあることが分かりました。そこで工程を切り分け、各工程を集中的に習得させる人材育成システムの確立を目指しました。

親会社は日雇い勤務が中心の環境でしたが、KMユナイテッドでは職人らをすべて正社員として雇用し、週休2日制や時短勤務制度を整備するなど、現場の働きやすさを第一としました。
また、未経験者も積極的に雇用し、トップクラスの技術を持つ職人がマンツーマンで指導した結果、工程全体を一人で対応していた状況では習熟するのに10年かかっていた業務も、平均18か月で技能伝承できるようになった事例もあります。

こうした取り組みにより、親会社からの下請け業務だけでなく、難易度の高い高付加価値な塗装業務も受注できるようになり、これが前年度比売上げ30%向上に寄与する結果となりました。
また、女性職人がもつ裁断の技術を耐火被服事業の受注につなげたり、高齢の職人でも作業しやすいよう重い塗料缶の荷姿を段ボールに代替したりと、多様な人材が活躍しやすい職場環境整備に努めており、業界でも注目が集まっています。

事例紹介2:老舗旅館が既成概念にとらわれないサービスを提供し、収益拡大を実現(平成28年度選定)

総立ちで効率的に行う週次シフト会議

総立ちで効率的に行う週次シフト会議

㈱ホテル佐勘(宮城県仙台市)は、平安時代より続き、昭和8年に法人化された老舗温泉旅館。34代目となる現社長は計3軒の旅館・ホテルを経営しています。
旅館数の減少が止まらない厳しい経営環境の中、社長は、従業員1人ひとりが経営に必要な要素を担う「全社員経営」が不可欠と認識し、昭和63年の就任間もない頃から、人材の育成と最適な業務や人材配置の転換に注力してきました。

人材育成の面では、公平で透明性の高い人事評価制度を新たに導入することで全社員が新たなことにチャレンジしやすい環境を整えています。また、社長自らが選定した社員が宿泊プランの開発や価格設定、サービス内容など具体的テーマに対して提案できるようにすることで、次期管理職としての勘所を養う機会となっています。
業務・人材配置の効率化の面では、「短時間正社員制度」を創設して子育て中の女性社員も働きやすい職場作りをしたり、需給ギャップを埋めて余剰人員を効率的に配置するための「貸し借りミーティング」を実施したりといった取り組みが挙げられます。

これらの取り組みを進める中で、若手社員が自ら積極的な業務改善や新サービスの提案が行われるようになりました。また、人員を最適配置する取り組みが奏功し、接客はグループ制により前年比75%の人員で対応可能にするなど、生産性向上が進んでいます。
こうした成果が世間に発信されることで、大卒や短大卒の入社希望者が増加し、平成25年には12人だった新卒採用が平成27年には22人となりました。

中小企業がダイバーシティ経営に取り組む意義

佐藤教授

佐藤教授

<佐藤教授は語る>
ダイバーシティ経営とは、簡潔に言うと「適材適所」ということです。社内にいる人材で、生かしきれていない人がいないようにするということであり、それは女性や外国人などに限らず、男性社員でも同じことです。無理に社内制度を変えようとする必要はなく、あくまで能力がある人を受け入れるために、働き方と職場風土を変えるという意識が重要です。また「適材」の考え方を変え、例えば時間外労働をしない人など、経営者が一般的に「使い勝手がよくない」と思うような人でも、その能力を十分に活かすための場をめざしてみましょう。その意味では、中小企業の場合は経営者と現場との距離が近いため、取り掛かりやすい面が多いのではないでしょうか。

中小企業がダイバーシティ経営に取り組むにあたってのポイントは、以下のようなことが挙げられます。

  • (1)多様な人材活用によってどんな成果が出るのか、ということを意識してください。多様な人材をただ何人雇用すればよい、というわけではありません。高齢者の能力・ノウハウを生かすことでアイデア商品を開発するなど、経営にプラスとなることが必要です。
  • (2)自社の売りが何か、ということを意識し、明確にすることが大事です。他社の真似をしたからといって上手くいくわけではありません。企業事例からは、取り組みの進め方を学ぶことがポイントです。
  • (3)最も重要なのは、経営者のコミットメントです。例えば男性の多いモノづくり企業で、女性従業員を現場に増員する場合、現場の管理職が多様な人材をマネジメントしていくには、非常に時間が掛かるものです。また、経営者が現場の管理職の理解を得られない限り、取り組みは進みません。じっくり進める必要があるという意味では、経営資源が限られている中小企業にとっては若干不利な面はあるかもしれません。それをやれるかどうかがカギとなります。

新100選及び100選プライムに選定される一番のメリットは、社内のモチベーションアップにつながるということです。また、地元新聞に取り上げられるなどにより、社会的な評価も向上します。それが新卒社員の採用につながるなど、付随する効果は様々です。新規取引につながるかどうかはひとまず置いて考えても、間違いなく企業のイメージアップの効果はあります。
取り掛かりは「ダイバーシティ」という言葉を特段難しく考える必要はありません。いろいろな社員が意欲的に働ける経営をめざし、マネジメントする。それができていれば、エントリーすればよいのです。




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