Vol.56 EPA税率を利用するために!「第一種特定原産地証明書」取得のイロハ

米国を除く11カ国によるTPPが大筋合意し、日EU・EPAが交渉妥結するなど、多国間の経済連携の枠組みが大きく変化しようとしています。
現在でも日本とのEPA(経済連携協定)を結んでいる国や地域は多数あり、「第一種特定原産地証明書」を取得することによって低い関税でそれらの国や地域に輸出することが可能となるメリットがあります。
EPAをめぐる動きと、特に中小企業が第一種特定原産地証明書を取得する際の留意点について、指定発給機関である日本商工会議所国際部課長補佐の天野永氏に伺いました。
※本記事は、平成29年12月27日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

日本のEPAの現状について

EPAの発効状況

日本は現在、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴルの15の国や地域とEPAを締結しています。日本商工会議所では、日シンガポール協定を除く全てのEPAにおいて、第一種特定原産地証明書を発給しています。
※日シンガポール協定については、各地商工会議所が原産地証明書を発給しています。

EPAとは、輸出入にかかる関税の削減・撤廃、サービス業についての規制の緩和・撤廃、投資環境の整備、ビジネス環境の整備などを取り決めている協定です。

日本は平成14年発効のシンガポールとのEPAに始まり、平成28年のモンゴルとのEPAに至るまで、十数年にわたりEPA対象国を増やしてきました。EPA対象国に企業が輸出をする場合、日本の「原産品」であることを証明する「第一種特定原産地証明書」を申請・取得することで、関税減免のメリットを享受することが可能です。

第一種特定原産地証明書の発給状況

第一種特定原産地証明書の発給状況

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第一種特定原産地証明書の発給件数は、メキシコとのEPAが始まった当初は年間5,000件弱でしたが、平成28年度には全体で約27万件に増加し、近年では毎年10%程度の伸びを見せています。
日系企業が多く進出している国や地域において、証明書が多く利用されています。特に、タイやインドネシアは我が国とのEPAの歴史が長く、関税引き下げのメリットが大きいため、とても多くの証明書が発給されています。

第一種特定原産地証明書は、これまで、商社や大手メーカーなどが申請するケースが多かったのですが、最近では中小企業が自ら申請するケースも増加しています。
また、これまでは関税減免の恩恵が大きい産品を中心に利用されるケースが多かったのですが、最近では我が国にEPAが浸透してきたこともあり、小さな部品などにも幅広く利用されるようになってきました。

第一種特定原産地証明書 取得の流れ

初めて第一種特定原産地証明書を利用しようとする場合、貿易実務の経験などがないと、申請のための手続きなどが難解に感じられるかもしれません。
日本商工会議所では、 本事業の特設サイトを設け、パンフレット 「あなたもできる第一種特定原産地証明書の取得ガイド」「特定原産地証明書発給申請マニュアル」などを提供していますのでご活用ください。
申請内容に不備がなければ、2週間程度で証明書を取得できます。しかし、不慣れな場合には、審査に必要な情報を入手するために予想以上に時間がかかることがありますので、準備も含めて1カ月程度の期間を見込んでおくとよいでしょう。事前の準備は通関士や貿易コンサルタントと相談しながら行っている企業もあります。

証明書取得の7つのステップ

証明書取得の7つのステップ

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第一種特定原産地証明書の取得には7つのステップを実行する必要があります。日本商工会議所ではEPA利用について全国でセミナーを行っていますが、この取得のための7つのステップは重要ですので、毎回説明しています。ステップの1~4は、申請の前に企業が行わなくてはならない確認作業で、5~7が実際の申請手続きになります。以下、順を追って説明します。

ステップ1は輸出産品のHSコードを調べることです。HSコードとは、全ての貿易品目の分類に用いられる世界的に統一された番号です。EPAではHSコード別に原産品判定のルールや税率が定められています。HSコードについては日本の税関と輸入締約国の税関の判断が異なる場合、輸入締約国税関の判断が優先されるため、輸入者を通じて輸入締約国の税関に問い合わせることをお勧めします。

ステップ2はEPA税率を調べることです。EPAの附属書の「譲許表」(EPA附属書における関税率の削減・撤廃等の取り決め)や、日本貿易振興機構(JETRO)のホームページから登録すれば誰でも見られる「WorldTariff」(世界の関税率情報データベース)で、EPA税率などを調べることができます。EPA税率は、一般税率と同じ税率の場合や、逆転している場合もあります。EPA税率が低い時だけ、コストをかけて第一種特定原産地証明書を取得するメリットがありますので、念のため確認をお願いします。

ステップ3は「原産地規則」や「品目別規則」等を調べることです。どんな条件を満たせば「原産品」と認められるか、EPAの原産地規則や品目別規則等で確認します。原産品でなければ輸出に際してEPA税率の適用は受けられないため、非常に重要なステップです。特定原産地証明書発給申請マニュアルにも規則の確認方法や留意点が記載されていますのでご一読ください。

ステップ4は原産性を確認することです。農産物のようにすべて日本で作られている「完全生産品」や原産材料のみから生産される産品に加え、非原産材料を使用して生産される産品なども一定の基準を満たせば、EPA税率が適用されます。
第一種特定原産地証明書は輸出する産品が原産品であることを証明する書類なので、例えば、非原産材料を使用して生産される産品の場合には、「CTCルール」(関税分類変更基準。「実質的な製造・加工」が行われたことを原産品判定の基準とする)や「VAルール」(付加価値基準。「付加価値の割合」が大きいことを原産品判定の基準とする)などに照らし、原産性を確認することになります。
仮に、A国から30円で輸入した魚を、日本で加工して干物にして、B国に100円で輸出したとしましょう。この場合、70円分(全体の70%)の付加価値が生じていますが、この「付加価値の割合」を基準に原産性を判断するのが「付加価値基準」です。ただし、その申請のためには、仕入れ価格や販売価格、加工に使用した塩やみりんなどがどの国で生産されたものかなど、さまざまな情報を書類で確認する必要があります。
以上が、申請の前に企業が行わなくてはならない確認作業です。

さて、ステップ5からは具体的な登録手続きです。
ステップ5では「第一種特定原産地証明書発給システム」を利用するための企業登録を行います。対象者は、原産品判定や発給申請を行う生産者や輸出者です。登録申請書をシステム上で作成し、必要書類と合わせて日本商工会議所に提出します。原則7営業日以内に、第一種特定原産地証明書発給システムのURLや、ログインするためのID・パスワードをお知らせする書類が郵送で届きます。なお、企業登録の有効期間は2年間です。

ステップ6では、第一種特定原産地証明書発給システムを利用して原産品判定依頼を行います。システム上で必要事項を入力する前に、対比表や計算ワークシートなどの資料を通じて、輸出産品の原産性を必ずご確認ください。申請が受理されてから原則3営業日以内に審査が完了します。進捗状況はシステム上で確認できますし、審査完了時に通知メールが発信されるよう設定することも可能です。

最後の ステップ7では証明書の発給申請を行います。ステップ6で原産品と判定された産品について、原則として輸出者が証明書の発給申請を行います。あらかじめ生産者が「原産品同意通知書」を提出しておけば、輸出者が原産品判定番号を使用して発給申請できます。申請が受理されてから原則2営業日以内に審査が完了し、ここではじめて手数料が発生します。

以上が、第一種特定原産地証明書の取得までの流れになります。

証明書取得にあたって中小企業が留意すべきこと

天野課長補佐

天野課長補佐

第一種特定原産地証明書の取得にあたって、ステップ1のHSコードの確認は特に慎重に行ってください。ステップ2以降にも影響が及びますので、念のため、輸入者等を通じて輸入締約国の税関に確認することをお勧めします。

他には、根本的な問題として、そもそも日本で作られたものかどうかという点の確認が重要です。例えば、中国にある自社工場で生産したものを日本で検品し、タイに輸出するとしましょう。この場合、生産場所は中国であり日本国内では加工していないため、我が国の原産品とは言えません。また、当初は国内で生産していても、生産拠点が海外に移転した結果、我が国の原産品でなくなってしまうこともあります。原産性のない産品について、EPA税率の適用を受けていた場合には、輸入締約国に対して修正申告が必要になります。追徴課税や加算税の対象となる場合もありますので、十分ご注意ください。また、このような違反があった場合は、日本商工会議所に書面で通知する義務もあります。

さらに、原産地規則や品目別規則等は、協定によって異なりますので注意が必要です。例えば、日インドネシア協定では原産品として認められるものが、日フィリピン協定では認められないということも起こり得ます。

証明書取得を考える中小企業へのメッセージ

EPAは知っているが利用を躊躇されている、という中小企業の方も、ぜひ申請にチャレンジしてみてください。2回、3回と繰り返しご利用いただければ、申請手続きをスムーズに行えるようになり、大きなメリットを実感できると思います。今後、TPP11や日EU・EPAなど大型EPAの発効が見込まれていますので、EPAを利用するチャンスはますます拡大していくことでしょう。

また、中小製造業者の中には、自社で輸出していないのでEPAは関係ない、という意識をお持ちの方もいるかと思いますが、取引先の商社などからステップ1~6までの過程で書類作成などの協力を求められるケースが増加すると思われます。

もし、第一種特定原産地証明書の取得にあたって、お困りのことがありましたら、ぜひ日本商工会議所までお問い合わせください。全国25カ所の商工会議所の中に発給事務所を設けていますので、お気軽にご相談いただければと存じます。受講無料のセミナーも、全国で随時開催しています。




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