Vol.59 これから注目される、起業・創業のあり方「兼業・副業を通じた創業」

国際的に開業率の低い日本ですが、政府も米国、英国並みの10%台を目指しています。日本において開業率を上げるためには、まず創業することへの不安を打破することが重要です。そして、それに効果的と思われるのが「兼業・副業を通じた創業」です。そこで今回は、兼業・副業を通じた創業のメリットや国の支援の方向性を中小企業庁 創業・新事業促進課の古川雄一課長補佐に紹介いただき、併せて中小企業庁が全国8カ所で実施したパイロット事業のうち3つの事例として、東京都目黒区、東京都中央区、岐阜県各務原市の取り組みを紹介します。
※本記事は、平成30年1月19日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

兼業・副業を通じた創業は日本経済の活性化に繋がると共に、個人にとってもメリットがある

中小企業庁 創業・新事業促進課の古川雄一課長補佐

中小企業庁 創業・新事業促進課の
古川雄一課長補佐

創業は雇用を生み出すと共に、産業の新陳代謝を促すことから、国としても創業を支援しています。ただ、日本の開業率は諸外国と比較して低いため、米国、英国並みの10%台を目指すことを政策目標としています。
日本の場合、創業に関心のない人の割合が77.3%と諸外国に比べて高いため(「中小企業白書」より)、まずは創業に関心を持つ人を増やすことが必要です。

ところで、多くの人が創業に一歩を踏み出せない要因の1つとして、「収入が減少しないか」「生活が不安定にならないか」といった金銭的不安があるようです。それを打破する効果的な方法として、「兼業・副業を通じた創業」に注目をしています。なぜなら、兼業・副業であれば、一定の収入基盤を持ちながら創業の準備や創業自体を行え、失敗時の金銭的なリスクを軽減できます。また、兼業・副業が軌道に乗った段階で現在の仕事を離れるか、仮にうまく行かなくても撤退して現在の仕事を続けるかという選択ができるのですから、創業に対する金銭的不安を一定程度軽減できると思います。

つまり、兼業・副業を通じた創業が増えることは、日本全体として経済の活性化につながると共に、働きながら創業に向けた準備や試行ができるので、個人にとってもメリットがあると言えます。しかし、企業に勤務しながら兼業や副業を通じて創業する割合は、「中小企業白書」によるとまだまだ少ない状況です。なぜなら、兼業・副業を通じた創業には、現状で解決すべき課題も多くあるからです。そして、その解決に向けて国は支援に動き始めています。

例えば、兼業や副業を通じた創業が少ないことの大きな要因として、勤務先の企業が就業規則によって兼業・副業を原則禁止しているケースが多いことが挙げられます。そのため、平成29年3月に働き方実行計画で、企業が就業規則の作成の際に参考にする厚生労働省のモデル就業規則を改訂して、兼業・副業を認める方向にすることを示しました。平成29年10月より厚労省が開催した「柔軟な働き方に関する検討会」を経て、平成30年1月中に、労働者の勤務時間外の他業務への従事を原則的に認めるモデル就業規則の改訂案と、兼業・副業の促進に関するガイドラインが示される予定です。

ここまで主に、経済的・金銭的メリットを伝えてきましたが、「兼業・副業」、「創業」は、働く個人が自らの働き方を主体的に選択することにつながると考えています。今回のモデル就業規則の改定により、少しでも個人にとって働き方の選択肢が増えることを期待しています。

中小企業庁としても、兼業・副業を通じた創業を促進するため、平成29年5月に兼業・副業を通じた創業・新事業創出の事例集(「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」)を公表しました。また、平成30年2月には、「アントレプレナージャパンキャンペーン」において、地域社会で兼業・副業の認知度を高める独自性のある取り組みを「パラレルキャリア賞」として表彰しました。
さらに平成29年度には、兼業・副業を通じた創業に必要な知識・ノウハウを学ぶためのパイロット事業を全国8カ所で実施しました。また、平成30年度は、主に大企業の人材を兼業・副業という形で中小企業やスタートアップ企業に派遣するモデル事業も検討しています。

兼業・副業を通じた創業に向けてパイロット事業を実施

平成29年度に中小企業庁が、兼業・副業を通じた創業を推進するため、東京都目黒区、東京都中央区、東京都小金井市、岐阜県高山市、岐阜県各務原市、石川県小松市、京都市、北九州市の全国8カ所でパイロット事業を実施しました。そのうち3つのパイロット事業を紹介します。

東京都目黒区でのパイロット事業

兼業・副業型として実施した東京都目黒区の創業塾

兼業・副業型として実施した
東京都目黒区の創業塾

平成29年度目黒区特定創業支援事業・平成29年度特定創業支援事業者補助金(地域需要創造事業)採択事業として「実践めぐろ創業塾(兼業・副業型)」(主催:一般社団法人東京都中小企業診断士協会城南支部、後援:目黒区、協力:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社)が、平成29年10~11月の2カ月間開催されました。

目黒区は、平成29年度に2回の「実践めぐろ創業塾」を開催しています。経営に必要な基礎知識をワークショップ形式で、6回のカリキュラムで習得するセミナーです。平成29年度は、2回目に実施した「実践めぐろ創業塾(兼業・副業型)」で、初めて兼業・創業型の創業ニーズに応えるカリキュラムを実施しました。それについては、「これまでに実施してきた既存の創業塾に兼業・副業型を加えることで、兼業・副業を通じた創業を考える潜在的予備軍を掘り起こすことにつながり、より多くの人材を集めることを目的としました」(目黒区 産業経済部産業経済・消費生活課 中小企業振興係 和賀勉係長)と言います。

そのため、3回目のカリキュラムでは、兼業・副業を通じて創業した先輩起業家が体験談を披露するとともに、企業の立場から、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの経営トップに兼業・副業を通じた創業の留意点等を語っていただきました。
今回の「実践めぐろ創業塾(兼業・副業型)」については、「受講者のアンケート調査結果では高評価をいただき、兼業・副業型の創業に関して非常に関心が高く、積極的な受講生が多かったと思います」(一般社団法人東京都中小企業診断士協会城南支部支部長 溝口晃子氏)と言います。

東京都中央区でのパイロット事業

兼業・副業を通じた創業を目指す人も対象とした東京都中央区の創業セミナー

兼業・副業を通じた創業を目指す人も
対象とした東京都中央区の創業セミナー

「平成29年度 中央区 創業支援セミナー」(主催:東京商工会議所中央支部、協力:中央区・日本政策金融公庫東京中央支店)が、平成29年10~11月の2カ月間実施されました。
今回の「創業支援セミナー」は、兼業・副業を通じた創業を目指す受講者も対象にして実施されました。新規開業に必要な基礎知識を6回の研修で習得するセミナーであり、初回に「兼業・副業による創業のポイント」や兼業・副業を通じて創業した2名の先輩起業家の体験談を受講者に伝えました。
定員30名の受講者のうち、20代女性のAさんは、兼業・副業を通じての創業を希望して受講しました。
「実家が農業を営んでいるのですが、生産物である米の販売で手助けしたいと思い、平成30年秋のネットショップ開設を目指して受講をしました」(Aさん)
Aさんは中小のビジネスコンサルタント事務所に勤務していますが、農産物のネット販売という兼業・副業を通じて創業することを考えたのです。
「当初、実家を手助けするために兼業・副業でネット通販を始めようと思っていたものの、事業内容を漠然としか考えていなかったのです。それではダメだということが創業支援セミナーを受講してよくわかりました。6回の研修を通して、改めて事業プランを策定する重要性に気づきました」(Aさん)
創業支援セミナーの受講を通してビジネスプランを完成させたAさんは、今年の秋にネットショップを開設すべく準備を進めています。また、「現在の本業は辞めずに、ネットショップを始めるつもりだ」と言います。
「今の仕事は好きですし、それを辞めてまでとなると収入の面などで不安がありますから」(Aさん)
Aさんにとっての兼業・副業を通じての創業は、本業での収入で生活を安定させながら、実家の手助けもできるということから一石二鳥のビジネス展開といえるようです。

岐阜県各務原市でのパイロット事業

各務原商工会議所が実施したパイロット事業の成果報告会

各務原商工会議所が実施した
パイロット事業の成果報告会

目黒区、中央区の2つの自治体の取り組みと少し異なるアプローチを試みたのが岐阜県各務原市の各務原商工会議所でした。平成29年10~12月の3カ月間、「Co-CSV型プログラム『シェアプロ』」(主催:各務原商工会議所、事務局:NPO法人G-net)を実施しました。
「シェアプロ」は、セミナー型の研修ではなく、企業に勤務する人が、各務原市内の中小企業、小規模事業者が抱える事業の課題を解決するために実際にプロジェクトに参画するプログラムです。同プログラムでは、「木材関連企業が手がける森林業界の採用支援事業の立ち上げ」「銭湯運営企業の新規サービス・事業開発」「農業生産法人による規格外野菜を用いた新商品開発」「川漁師とともに川文化継承の仕組みづくり」という4つの課題でプロジェクトを設定しました。

同プログラムは、(1)企業に勤務している参加者が、実践を通じて兼業・副業の可能性を模索できる、(2)プログラム参加者の属する企業が、社員の人材育成や多様な働き方の推進など企業ブランドの向上につなげることができる、(3)人材不足に悩む中小企業が、課題解決に兼業・副業の可能性を模索する社外人材のノウハウを活用できる、三方よしを目指し、兼業・副業を通じた創業への土壌づくりを目的としました。

シェアプロでは、各務原市内の4つの中小企業、小規模事業者が抱えるそれぞれの事業課題に対して、企業に勤務する人たちが自らのスキルを実践で活かし、4つのプロジェクトのいずれか1つに参加し、3カ月間かけて課題の解決に取り組みました。また、自らのスキルを兼業・副業を通じた創業に活かせる可能性も体験してもらいました。

そのうち、「木材関連企業が手がける森林業界の採用支援事業の立ち上げ」のプロジェクトに参加した30代女性の宮田ゆかり氏は、「現職で培ったスキルを事業の課題解決に発揮できたので、参加したことの満足度は高く、今後、兼業・副業を通じた創業につながる可能性を感じた」と言います。
また、「農業生産法人による規格外野菜を用いた新商品開発」のプロジェクトに参加した30代男性の山下直人氏は、「近い将来、地域活性化に向けて自らプロジェクトを運営・支援したいと思っており、それに際して新商品を売れるようにすることをゼロベースから築くという体験を得るため参加をした。このプログラムに参加して、普段の業務で身につけたスキルの棚卸しはもちろん、業務だけでは得られない人脈やノウハウなど得られたので満足をしている」と言います。
シェアプロは、兼業・副業を通じた創業を目指す参加者にとって貴重な体験の場になったようです。

パイロット事業の紹介でインタビューした人

<東京・目黒区>
目黒区 産業経済部産業経済・消費生活課 中小企業振興係 係長 和賀勉さん
一般社団法人東京都中小企業診断士協会城南支部支部長 溝口晃子さん

<東京・中央区>
東京商工会議所 ビジネスサポートデスク(東京南)課長 豊留秀一さん
東京商工会議所 中央支部 事務局次長 津田裕紀子さん
アールズフィールド株式会社 代表取締役 福島律子さん(中小企業診断士)

<岐阜・各務原市>
各務原商工会議所 中小企業相談所 経営支援課 課長補佐 磯谷和彦さん
宮田ゆかりさん
山下直人さん

兼業・副業を通じて創業した多数の先輩起業家を紹介

中小企業庁が、兼業・副業を通じた創業を推進するために全国で実施したパイロット事業のうち、3つのパイロット事業の概要と参加者の声を紹介しました。
いずれの参加者も、これから兼業・副業を通じて創業を目指す人々です。また、中小企業庁では、すでに兼業・副業を通じて創業した人々の事例も、「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」として多数紹介しています。これから兼業・副業を通じて創業を目指す方、もしくは考えようという方は、ぜひ参考にしてください。




すべての特集を見る