Vol.60 製品開発で中小企業はいかにデザインに取り組むべきか

製品を世の中に送り出すうえでデザインは大きな役割を担いますが、中小企業のデザインへの取り組みはまだまだ十分といえる状況にはありません。そこで今回は、中小企業がデザインに取り組むうえで何が必要で、どこから取り組めばいいのかを、日本で唯一の総合デザインプロモーションの専門機関であり、「グッドデザイン賞」などの振興事業を手掛ける公益財団法人日本デザイン振興会の秋元淳事業部課長に伺いました。
※本記事は、2018年1月26日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

中小企業がデザインに取り組むべき2つの理由

中小企業がデザインに取り組む重要性を語る、日本デザイン振興会の秋元課長

中小企業がデザインに取り組む重要性を語る、
日本デザイン振興会の秋元課長

「グッドデザイン賞」の展示場

「グッドデザイン賞」の展示場

中小企業にとって、デザインが大切な理由は2つあります。
1つは、企業の独自性を確立するために有効だということです。中小企業の場合、大手企業の下請けを担ったり、OEM(相手先ブランドでの製造)で製品を供給したりする事業者が多いため、いざオリジナル製品をつくって事業を拡張しようとする時に、どんなステップを踏めばいいのかで悩んでしまうことが多いのです。

そこでオリジナル製品をつくるにあたっては、まず技術や伝統など、その企業が持っている資源や独自の資産について考えてみる必要があります。ただ、そうした資源、資産という財産は、はっきり目に見えるわけでもなく、わかりにくいことが多いため、製品開発にデザインが関与することで、わかりやすく見せることができるのです。つまり、企業の財産を具体的にアピールする方法がデザインと言えるのです。

デザインが大切なもう1つの理由は、企業規模の大小に関係なく、デザインは企業がユーザーのことを第一に考えているという意思表明になるということです。
そして、デザインに取り組むためには、ユーザーの側に立って考えることが重要になります。というのも、大手のメーカーでもエンドユーザーがはっきり見えなくなることがあり、特に下請け事業者からすると、エンドユーザーが発注企業のさらに先にいるため、その姿を想像することが難しくなってしまうのです。そのため、新たにオリジナル製品を手掛けようとしても、誰に向けたものであるのかを考える際、開発側の自己本位に陥ってしまい、エンドユーザーを忘れがちになってしまいかねません。

従って、製品のデザインとは、それを必要とするエンドユーザーのためのものであり、故にエンドユーザーにメリットをもたらすデザインを考えなくてはならないということです。それに対し、中小企業は経営者が大きな指導力を持っていますので、経営者がデザインを重視する方針を出せば、経営の方向もクリアになり、また、ぶれにくくなります。

中小企業がデザインに取り組むことは、社会に対して何を貢献できるのかを考えることにもなります。
一般的にデザインというと、形や色彩の決定など目を引く部分ばかりを捉えられがちですが、そうしたエステティックな部分ばかりではありません。企業固有の誇れるものを形にし、外部に示すことで、企業が社会やユーザーとコミュニケーションするためにもデザインが必要なのです。
商品開発は、なぜこの商品が社会やユーザーに必要なのかを考えることから始まります。それを企業として打ち出すことの意義を考えなくてはなりません。
製品をつくるので手いっぱいという中小企業も多いとは思いますが、デザインは外観だけではなく、製品の本質を表現するためにも必要になるのです。

経営者の認識をデザインにあてはめてくれる担い手が必要

自社の製品をデザインするということは、その製品が具体的にどのように使われるのかを考えなくてはならないため、製品をつくり、流通させるというシナリオに沿った作業になります。

具体的にデザインに取り組むためには、自社の経営とデザインとがどのような関わりを持つのかを、経営者がまず理解する必要があります。20年前にはそのような認識がなく、ただ、デザイナーの言うことをそのまま実行してうまくいかなかったという例も見られました。しかし、今は中小企業の経営者の中にもデザインへの認識を持っている方が増えています。特に、中小企業はトップの理解や意思で企業全体が動くことが多いため、経営者の理解はより重要になります。

しかし、経営者はデザインが重要だと認識することはできても、自らデザインを製品開発に絡めていくことは難しいでしょう。そこで、デザインを専門とする担い手と一緒に動く必要があります。企業内にデザイン部門を持っていればいいのですが、中小企業ではなかなか難しいため、外部の専門家に依頼する必要があります。これを担当してくれるのが、デザイナーやクリエイティブディレクターといった職業の人です。特に、クリエイティブディレクターは、デザインと経営のプロセス全体を共に考えてくれる知識と経験を有しています。

兼業・副業を通じた創業に向けてパイロット事業を実施

自社製品の開発において、デザインが重要なファクターであることは、ご理解いただけたと思います。さて、次にそれを実現するためにはどうしたらいいのかです。ある程度の規模の都市であれば、デザインを支援してくれるような公的なデザインセンターなどがあります。また、そのような組織は最近ずいぶんと増えてもいます。そうした所には、デザインについての人材情報や事例が用意され、相談会やセミナーなども実施されているので、初めてデザインに取り組もうとする中小企業も安心して活用できると思います。
日本デザイン振興会のホームページにもデザイン関連機関のリストを掲載していますので、それらの機関や地元の自治体などに尋ねてみるのもいいでしょう。

東京ビジネスデザインアワード

また、公的機関が、中小企業とデザイナーのマッチングを支援するような取り組みもあります。例えば、日本デザイン振興会では、東京都が2012年に創設した「東京ビジネスデザインアワード」の企画・運営を担当しています。これは、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーが協働することで、新たな事業の創出を目指すものです。デザインやデザイナーとの接点がない中小企業でも、同アワードに参加することでデザイナーとのマッチングを図ってもらえます。
このように中小企業とデザインの接点は、いろいろな形で増え続けていますので、デザインに取り組む上で、その最初の一歩を、しり込みすることなく挑戦してほしいと思います。

デザインを重視して自社製品の開発に取り組む中小企業の事例

独自の金属加工法を駆使し、既存製品との差別化を図った自社製品を開発した中小企業があります。その開発では、ユーザーニーズにマッチさせるための要になったのがデザインでした。

小さな金属加工メーカーが独自技術を活かしてオリジナル製品を開発

新潟県燕市の一菱金属は、従業員10名の小さな金属加工メーカーです。1977年に金属製品の磨き加工で設立し、やがて現在の主事業である、外食店舗用の計量カップや油ひき用品といったステンレス製の業務用厨房製品を受託製造するようになりました。近年は、職人の高齢化により、品質を確保しながら大量生産するのが困難になっています。そのため、大量生産しなくても利益を確保できる製品を開発しなければならないと考えました。

そこで考え至ったのが、一般家庭用製品でした。業務用厨房製品に比べてロット数を小さく、利益の確保も狙えます。ただし、競合相手も多いことから、こだわりのある製品でなければ勝負にならず、市場で埋没してしまいます。また、販路もネット通販サイトは取り組みやすいものの、出店しても類似製品も多いため、価格競争に巻き込まれてしまいます。直接、小売店で扱ってもらえれば、価格を決める交渉もでき、いたずらに価格競争を引き起こすことを回避できます。そんな考えから、2014年、同社は一般家庭向け調理用製品の開発構想に着手しました。

また、その前年2013年の出来事も、一般家庭向け調理用製品の開発に向けて大きな機会となりました。それは、展示会場でクラフト関係の個人バイヤーの日野明子さんに出会ったことでした。同社は、日野さんと話す中にマーケットニーズを知る機会を得たのです。
それについて、同社で自社製品の開発を担ったデザインディレクターの江口広哲さんは次のように語ります。
「日野さんとコンシューマー向け製品について話し合っているうち、当社の金属加工技術を活かして調理道具をつくれば、既存の他社製品と差別化できることがわかってきました」
それにより、自社製品は一般家庭向け調理道具としてボウルを開発するという方向性が見出せたのです。

「conte(コンテ)」の開発を担ったデザインディレクターの江口さん

「conte(コンテ)」の開発を担ったデザインディレクターの江口さん

同社は、スピニング加工(素材を回転させながら成形する加工法)とプレス加工を組み合わせた独自加工を得意としています。そうした独自技術を駆使すれば、ステンレス板を任意の厚みに自在に加工でき、他社にはない製品をつくり出せます。ただし、それを活かした製品を開発するためにもデザイナーが必要でした。独自技術により、ユーザーニーズにマッチした製品を生み出すためです。そこで日野さんの紹介により、デザイナーの小野里奈さんをパートナーとして迎えました。
「地元色がなく、日常的に料理をするデザイナーさんを希望しました。料理をする人なら、ユーザーが調理道具に求める微細なこともわかると思ったからです」(江口さん)
2014年に開発構想を練り上げ、2015年からデザイナーの小野さんとアドバイザーとして日野さんを迎え、一般家庭向けのボウルの開発をスタートさせました。

小野さんによれば、既存のボウルは、小さいサイズのものがなく、底面の厚みも薄いため、菓子などの生地をこねる際にボウルが微動して不安定になり使い勝手が悪いといいます。しかし、同社の独自加工技術を用いれば、ボウルの底面の厚みを任意に成形でき、それにより、ボウルの底面に重心を持たせて安定させられます。この独自加工技術を活かせば、底面積が小さく、形状が深くてコンパクトで、さらに表面の淵が巻かない形状といった、これまでにないボウルをつくれると小野さんは考えました。生地をこねる際にボウルが安定し、使い勝手が良く、さらに表面の淵の巻き形状の隙間から汚れや水分が入ることで発生する腐食の進行や細菌の発生といったリスクを解消できる、といったメリットのあるボウルです。独自技術を活かせば、ユーザーニーズにマッチした製品を生み出せる。それを体現するのがデザインだったのです。

底が小さく深い形状といった従来にないスタイルの「conte(コンテ)」のステンレスボウル。安定した使い心地であり、表面の淵の部分が巻いていない形状のため、衛生的にも優れている

底が小さく深い形状といった従来にないスタイルの「conte(コンテ)」のステンレスボウル。安定した使い心地であり、表面の淵の部分が巻いていない形状のため、衛生的にも優れている

「機能や使い勝手などは製品デザインの根幹」(江口さん)との観点から、2016年6月に自社ブランド「conte(コンテ)」を立ち上げ、同年12月に3サイズのボウルを「まかないシリーズ」として発売しました。また、2016年度の「グッドデザイン賞」を受賞しました。
現在、「conte(コンテ)」は、ボウル、バット、ザルの3アイテムを揃え、全国の25の小売店で販売されています。販路開拓について江口さんは、「展示会に日野さんのお知り合いの店舗経営者が訪れ、その場から販路開拓が始まりました」といいます。最初は東京の6店のセレクトショップなどの小売店で販売してもらえるようになり、展示会に出展するごとに取引先の小売店を増やしていきました。

業務用厨房製品が主事業であり、新規事業としての家庭用調理道具も順調に成長してはいるものの、売上としての貢献はこれからに期待しています。まずは、自社ブランドのオリジナル製品を認知してもらえていることに、大きなメリットを見出しています。また、小売店と直接取引しているため、価格と生産量を制御できることが、請負製造にはないメリットと実感しています。
「機能と使いやすさを理解いただけると、価格が多少高めでもエンドユーザーの方に納得していただけます」(江口さん)
独自の加工技術で生み出した機能と形状、さらに使い勝手の良さを製品としてデザインしたことで、小さな企業が自社ブランドのオリジナル製品を世に問うことができ、取引店舗と販売数量を堅実に増やしているのです。

インタビューをした人

公益財団法人日本デザイン振興会 事業部課長 秋元淳さん

公益財団法人日本デザイン振興会
事業部課長
秋元淳さん

1998年に財団法人日本産業デザイン振興会(現日本デザイン振興会)に入社。雑誌「デザインニュース」や「グッドデザイン賞年鑑」などの編集業務に携わり、以降はグッドデザイン賞(Gマーク)事業の企画運営とともに、組織広報の統括を主に担当する。




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