Vol.61 JISが変わる!サービス分野にも拡大、中小企業のビジネスチャンスへ

日本工業規格を定める「工業標準化法」の一部改正案が閣議決定し、今国会で審議される見通しです。JISの対象をこれまでの鉱工業品のみからデータやサービス、経営管理も含む形に広げ、名称もこれまでの「日本工業規格」から「日本産業規格」に変わります。新しいJISで何が変わり、特に中小企業にどんなメリットがもたらされるのでしょうか。今回は、JISの刷新が中小企業へ与える影響を、経済産業省産業技術環境局基準認証政策課の高木美香総括補佐に伺いました。
※本記事は平成30年3月6日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

JIS法の概要と改正の背景

JIS認証の流れの図

JIS認証の流れ
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工業標準化法は、通称JIS法と呼ばれ、1949年に施行されました。日本工業規格(以下「JIS」という。)は、この法に基づいて制定される、我が国の鉱工業品に関する国家規格です。
「標準化」とは、製品の品質や安全性について一定の水準を確保するため、多様で複雑なモノや事柄を「統一」または「単純化」することをいいます。そして、標準化によって定められたルールを「規格」といい、規格には、企業が定める社内規格や業界団体が定める団体規格、国が定める国家規格及びISO(国際標準化機構)などの国際標準化機関が定める国際規格などがあります。

JISは国家規格に当たり、経済産業省に設置されている日本工業標準調査会(JISC)による調査・審議を経て、それぞれのJISが対象とする品目を担当する主務大臣によって制定されます。制定されたJISについて、企業は民間の第三者機関(登録認証機関)による認証を受けることで、JISマークを製品に表示することができます。

JISの制定数はこれまでに、約1万件あります。また、制定されたJISの認証を受けている事業所は、現時点で約8,500あります。JISの認証をする登録認証機関は、JQA(日本品質保証機構)などが24機関あります。

諸外国でも我が国と同時期に、JISと同様の標準化に関する制度が整備されました。やがて発足したWTO(世界貿易機構)がTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)を発効し、輸出入の促進のため、各国の国家規格を国際規格へ整合化していくことを義務化しました。これを受け、WTOに加盟している我が国も、これに従う形で国家規格を国際標準に準拠するようになったのです。
もし国家規格が、ISOやIEC(国際電気標準会議)などの国際規格として制定されれば、貿易などにおいて非常に有利になります。各国では、自国の国家規格が国際規格として制定されるよう、国際競争が盛んに行われているのです。

国際標準化プロセスは迅速化されてきています。例えば、EUの場合は、EU加盟28カ国の賛成票を得た「EU標準」の規格を国際標準の場に提案してくるので、各国が1票をもつ多数決制をとっているISOやIECの審議では採用されやすいのです。
一方で、米国では各国の企業を集めたフォーラムを形成するなどして、囲い込みによるデファクトスタンダード(事実上の標準化)を戦略としてきています。

従来、日本では日本工業標準調査会の審議による、比較的慎重な制定プロセスをとっており、年間約500件が審議に上げられ、1つのJISの制定までに約2年かかっていました。
国際標準獲得のためのスピード競争が繰り広げられている中、審議の迅速化を図ることが大きな課題でした。

JIS法の3つの改正点

取引のグローバル化の流れと、第4次産業革命など新しい動きの中で、IoTやビッグデータといったあらゆる分野での国際標準化がなされています。実際に、ISOでは国際標準の範囲がマネジメント・サービス分野にも拡大され、サービス分野では約700の制定数があります。
このような流れの下、我が国では工業標準化法を一部改正する見込みです。データや知的財産を企業が戦略的に利活用するための制度整備として、不正競争防止法や特許法の一部改正案とともに、今国会で議論される予定です。
JIS法の改正内容は、大きく分けて以下の3点があります。

(1)「工業標準化法」から「産業標準化法」へ

JISの対象拡大の図

JISの対象拡大
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標準化の対象をデータ、サービス、経営管理にまで拡大するとともに、法の名称を「産業標準化法」に改めます。これにより、今後、新しいJIS規格が制定される機会が増加すると思われます。これまで対象ではなかった品目を扱っている企業についても、新たなJISが制定されることで、自社の製品やサービスにJISの認証を受け、JISマークを表示できます。

(2)JIS制定の迅速化

JISの制定の迅速化の図

JISの制定の迅速化
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JIS制定のスピードアップを図ります。
今回の法改正により、これまでの審議プロセスの他に、より迅速な制定プロセスを設けます。JISの原案を作成する約300ある業界団体のうち、これまでに十分な実績があって、適正な合意形成プロセスを持つ団体については、「認定機関」として認定します。これらからの原案については、審議会での審議を省くことでスピードアップを図ります。これによって、主務大臣は原案の申出を受けてすぐに制定することが可能となります。

(3)罰則の強化

近年、相次いで起きた製造業者の品質不正の問題などを受けて、罰則規定を強化します。認証を取得せずにJISマークを表示した場合や、認証取得事業者が主務大臣による販売停止などの命令に従わなかった場合は、これまで行為者である個人と法人への罰金の上限は、いずれも同額の100万円でしたが、これは、類似であるJAS(日本農林規格)法の規定で、法人重科が導入され、法人は1億円以下の罰金と定められていることと比べても、低い水準となっていました。
このため、JISについての罰則も同様に、法人への罰金を上限1億円まで科すことができるよう改正する予定です。これまで同様、不法行為には注意してください。

JIS法改正は中小企業にもビジネスチャンス

改正JIS法は、「成立から1年半を超えない日」に施行されるものとしており、今国会で成立すれば、2019年中に施行されます。法の施行前であっても、「準備行為」として定められているものがあり、「認定機関」の申請や新たな分野でのJIS制定に向けた申出を開始できる予定です。

JIS認証を取得しよう

中小企業の多くを占めるサービス業の分野が、JISの対象に含まれる見通しであるため、JIS利用のチャンスが広がります。インターネットを通じて自社のサービスを口コミなどで認知させるミーム戦略をとっている企業も多いですが、こうした広報が難しい場合でも、JISマークの表示によって自社サービスの品質の良さを消費者に伝えることが可能になります。
例えば、新たな業態として広がりつつある「シェアリング・エコノミー」でもJIS化が期待されます。「シェアリング・エコノミー」のサービスを利用するときに、そのサービスにJISマークがあれば消費者も安心して利用することができます。

新たなJISを制定しよう

全国のパートナー機関一覧表

全国のパートナー機関一覧
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JIS認証の利用だけでなく、新しいJISを制定することで、データやサービスの分野での標準が作れるようになります。自社が提供するサービスを標準化できれば、経営戦略上の大きな強みとなります。
自社のサービスなどをJISとして制定したいと考える中堅・中小企業は、「標準化活用支援パートナーシップ制度」を利用することができます。
これは、日本規格協会(JSA)と連携したパートナー機関が、標準化に向けた相談や、標準化を活用した技術の事業化に係る支援を一体的に行うものです。現在、全国の商工会議所や振興公社など143の機関がパートナー機関として参加しています(平成30年3月16日現在)。

JIS原案の作成については、日本規格協会の「新市場創造型標準化制度」による迅速な提案に向けた支援が受けられますので、ご利用ください。2014年の制度開始以来、32件の支援を行っており、そのうちの10件が現在までにJISとして制定されています。

新市場創造型標準化制度について、詳しくはこちら

自社の製品やアイディアを戦略的に活用するためには、標準化による普及以外に、特許取得による技術の独占も考えられますが、これらは両立が可能です。研究開発の成果を特許権により保護する一方で、市場の拡大のため、取得した特許権を含めて標準化し、安価なライセンスを行うという、いわゆる「オープン・クローズ戦略」をとる企業が増えてきています。

中小企業も「ルール・メーカー」を目指そう

経済産業省産業技術環境局基準認証政策課 高木美香総括補佐

経済産業省産業技術環境局基準認証政策課
高木美香総括補佐

中小企業にとって、JISやISO・IEC規格に基づく認証の取得は大きな強みになります。我が国の中小企業は従来、親会社などとの信用取引が多いですが、ビジネスの状況は大きく変革し、グローバル展開は避けられないものとなりつつあります。既存の取引に止まらない販路拡大を目指す場合、JISやISO・IEC規格に基づく認証を取得することによって大企業とのOEM取引が実現できるなど、戦略的に使えるツールとなります。
日本の企業は、あらかじめ決められたルールに従うのは得意で、自らルールを作るのが得意でないと言われています。標準を作る側に回ることができれば、より大きなメリットが享受できることもあります。規格の認証取得はもちろん、規格の制定のための活動にもぜひ主体的に参加してください。海外展開への後ろ盾にもなります。ルールの利用者=ルール・テイカーに甘んじるのではなく、ルールの作成者=ルール・メーカーを目指してください。

インタビューをした人

経済産業省産業技術環境局基準認証政策課 総括補佐 高木美香さん

経済産業省産業技術環境局基準認証政策課
総括補佐
高木美香さん




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