Vol.62 成長の核となる人材獲得のために!地方の中小企業の人材採用

人材不足が叫ばれる昨今、特に中小企業においてその傾向は顕著に見られます。地域外の人材に目を向けてみることで、必要とする人材に出会える可能性は高まります。
今回は、地方の中堅・中小企業と専門能力を持つ人材とのマッチングを支援する「プロフェッショナル人材事業」の活動と、地方への移住を支援する組織の活動から、中小企業における人材採用の手法を見つめ直します。
※本記事は、2018年2月20日の内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の佐合達矢内閣参事官への取材、3月22日の株式会社日本人材機構の矢野俊介社長室長への取材及び2月28日の認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの高橋公理事長への取材をもとに執筆・掲載しています。

中小企業の人材不足はより深刻に

業種別従業員数過不足DIの推移

業種別従業員数過不足DIの推移
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2017年版「中小企業白書」第1部第3章「中小企業の雇用環境と人手不足の現状」により、中小企業の従業員過不足の状況を業種ごとに確認すると、建設業及びサービス業を代表として、2013年以降、全業種で人手不足となっており、不足感は年々強まっています。

事業展開の方針別に見た、人材の過不足状況

事業展開の方針別に見た、人材の過不足状況
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また、同白書第2部第4章「人手不足の克服」によると、中小企業の事業展開の方針別に見た人材の過不足状況では、「成長・拡大」と「安定・維持」の2類型について見ると、成長・拡大を方針とする企業にとっては、中核人材、労働人材共に過半数の企業が不足を感じており、人材不足が成長への制約要因となっていることがうかがえます。

さらに、2017年5月に中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業アンケート調査報告『人手不足に関する中小企業への影響と対応状況』」によると、中小企業の約74%が「人手不足を感じている」と回答し、そのうち約半数が「人手不足が深刻」だと回答しています。

いずれの調査結果からも、中小企業における人材不足が深刻な課題であることがうかがえます。

都市部の優秀な人材を地域企業とマッチング

内閣府は、地域の潜在的な成長力のある企業に対し、人材の活用支援を行う「プロフェッショナル人材事業」を推進しています。積極的な事業展開に取り組もうとする地方の中堅・中小企業に対し、都市圏などから経営人材、経営サポート人材、専門人材、販路開拓人材などの「プロフェッショナル人材」の採用支援を行う事業です。

プロフェッショナル人材事業の事業スキーム

プロフェッショナル人材事業の事業スキーム(クリックすると拡大します)

全国のプロフェッショナル人材戦略拠点の一覧

全国のプロフェッショナル人材戦略拠点の一覧(クリックすると拡大します)

同事業では、各道府県が「プロフェッショナル人材戦略拠点」を2015年10月から順次整備し、本格的な活動を開始してから約2年間で、延べ21,356件の地域企業からの相談を受け、これにより2,572名の人材採用につながっています(2018年1月末時点)。

現在は、東京都と沖縄県を除く全国45の道府県に拠点を設置し、各拠点には企業経営に深い知見を持つマネージャー1人と、3~4人のサブマネージャーなどが在籍し、支援にあたります。マネージャーやサブマネージャーは、金融機関や地域の有力企業、行政機関の経験者が多く、また、マネージャーは知事の面接を経て選任しています。

同事業を開始した背景は、「地域に良い『しごと』を創り、『ひと』を呼び込む」という好循環を創り出すことで持続可能な地域づくりを目指す上で、潜在的成長力や海外競争力を秘めた地域企業が新販路の開拓や新商品の開発などに取り組む「攻めの経営」に転身し、経験豊富なプロフェッショナル人材を活用することで、成長を具現化することが重要である、という観点からのものです。

一方で、地域企業は、欲しい人材に向けた情報発信がうまくいっていないケースや、経営課題の解決に当たり真に必要とする人材が見出せていないケースもあり、雇用のミスマッチが起こりがちです。求職者側としても、地域企業の情報が不足していたり、大企業の就業経験を持つ人は中小企業への就業に二の足を踏んでしまったりすることも見受けられます。
こうした状況を改善するために、地域企業とプロフェッショナル人材とのマッチングを支援するのが同事業です。

経験豊富なマネージャーたちが親身に相談

マネージャー及びサブマネージャーは、相談者である企業の経営者とひざ詰めでヒアリングを行い、その企業の経営戦略と必要な人材像(例えば、工場の生産管理の経験や、都市部での営業責任者の経験など)を明確化し、それらを民間人材ビジネス事業者(人材紹介会社)に提供します。各拠点によるヒアリングはすべて無料で何回でも受けられるため、成長に向けた経営課題の深堀りを十分に行い、真に欲しい人材の姿を明らかにすることができます。
各拠点が連携する民間人材ビジネス事業者は、公募による登録制が多いです。また、民間人材ビジネス事業者の紹介による人材採用に至った時点で、民間人材ビジネス事業者に対し、成約手数料が必要となります。

2018年1月末時点の成約案件の内訳は、受入企業は製造業が6割以上であり、従業員規模では300人以下の企業が8割以上を占め、中規模の企業が大半です。
一方のプロフェッショナル人材の内訳は、生産性向上や販路拡大、経営管理のミッションを有して採用されるケースが目立ちます。採用時の年代では40歳代以下が約7割と、働き盛りの方が多く、大企業からの転職の場合は年収が下がることも多いですが、求職者としてはミッションややりがいがはっきりすることで、マッチングがうまくいくケースが多いのです。

プロフェッショナル人材戦略拠点の利用方法と支援事例

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 佐合達矢内閣参事官

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
佐合達矢内閣参事官

プロフェッショナル人材を求める地域企業は、全国の拠点にまずはご連絡ください。プロフェッショナル人材の採用に当たっては、企業がどんな成長戦略を持ち、それを実現するためにどんな人材が必要なのか、を明らかにすることがポイントになります。経験や専門知識が豊富な拠点のマネージャーたちが、親身に相談に乗りますので、まずは、無料の経営コンサルティングを受けるつもりでご相談いただければと思います。

また、各拠点からも企業へのアプローチを積極的に行っています。成長力を持った地域企業をリストアップして、経営戦略や人材採用計画などへのアドバイスを行ったり、各種セミナーを開催して拠点の活動内容を紹介したりする活動も行っています。
さらに、マッチングの質や量をより高めるべく、従来のスキームに加え、同意を得た地域企業の情報を連携する大企業の人事部などにも提供し、兼業・副業などの可能性も含めて、プロフェッショナル人材の地方への還流を促進しています。

なお、プロフェッショナル人材を採用する地域企業へ補助金などの優遇制度を設けている自治体もあります。各自治体で個別の施策があるため、所在地の拠点にご相談ください。

拠点を活用してキーパーソンを迎えた中小企業の事例

大企業から地方の成長企業への人材還流が実現し、地域の活性化につながっている事例を紹介します。新事業の展開などをお考えの企業の皆様は、参考にしてください。

(1)生産マネジメントのプロの採用により、生産性向上に取り組む事例

東光株式会社

東光株式会社(徳島県徳島市)は、従業員数147名で、1946年の創業以来、女性用ストッキングや健康肌着などの製造販売を主力としてきた企業。近年は医療分野での製品開発を強化し、医療用弾性ストッキングなどで医療機関から高い評価を得ています。海外メーカーとの競合も多い業界において、生産性向上に向けたオペレーターやエンジニアのさらなる意識改革が必要と感じ、マネジメント人材を外部から迎え入れようと考えました。そこで、徳島県プロフェッショナル人材戦略拠点に相談し、工場長もしくは生産部長クラスの経験者に的を絞り、募集したのです。
その結果、大手電機メーカーで国内外の海外の多数の拠点で経営管理など幅広い職種を経験してきた中須正敏さんと出会い、生産部長として迎えることになりました。中須さんは徳島県出身で地元へのUターンを希望していましたが、なかなかキャリアを生かせる仕事を見つけられなかったところ、優れた製品を製造する同社と巡り合ったそうです。
現在は、生産性向上に向けたPDCAサイクル確立に向けて、予算計画や行動計画を作っているところで、現場スタッフとのコミュニケーションを図り、意識改革にも取り組んでいます。

(2)「キーパーソン」の採用で、販路拡大や社内変革に取り組む事例

株式会社クリーン・マット

株式会社クリーン・マット(長崎県長崎市)は、従業員数271名で、1975年の創業以来、マットやモップ、芳香消臭剤などの環境衛生商品の開発、販売、レンタル事業で発展してきました。従来は長崎県を中心に北部九州を商圏としていましたが、東京支店の立ち上げを機に販路拡大や新規事業開拓を目指し、変革を実現できる人材の採用を考えました。そこで、社業全体のアドバイザーとなり得る人材を求め、長崎県プロフェッショナル人材戦略拠点に相談したのです。「全国に採用の目を向けるべき」との助言を得て活動を開始したところ、長崎県出身で大手総合商社に勤務していた網谷育夫さんと出会い、執行役員・東京支店長として迎えることになりました。
同社は、現地経験のある網谷さんの助言を受けながら、中国・青島市への販路拡大に取り組み始めました。また、福祉器具のレンタルを中心とする介護ビジネスにも、網谷さんを中心として進出の方針を固めるなど、事業展開におけるキーパーソンになっています。網谷さんは、コンプライアンス強化にも前職の経験を活かして力を尽くしています。

「経営幹部人材」の発掘とマッチングを専門とする組織

都市部の人材を地方へ還流するための活動を行う政府系企業を紹介します。他の民間企業へモデルケースを提供するために設立された企業です。

ワンストップで伴走型支援を実施

伴走型サービスの概要

伴走型サービスの概要
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日本人材機構(東京都中央区)は、地方創生を目的として、政府主導で2015年8月に設立された株式会社。官民ファンドである株式会社地域活性化支援機構(REVIC)の100%子会社で、親会社の法律上の終期である2023年3月末までに解散する予定です。
同社の事業内容は、主に大都市から地方企業へ「経営幹部人材」を紹介・マッチングし、生産性向上を図ることです。また、経営課題によっては、有料のコンサルティングに移行する場合もあります。これら一連のサービスを同社は「伴走型支援サービス」とよびます。

約40名のコンサルタントが在籍し、東京を除く全国の企業の相談に応じます。経営者とのひざ詰めのヒアリングにより、企業の経営課題を整理し、解決策を提案します。「外部人材招聘」の相談は無料で、人材成約に至った場合にのみ成約手数料が掛かります。また、紹介人材の就業後も6カ月程度のフォローアップを実施し、定着化を図ります。

プロフェッショナル人材事業の活動と違う点は、企業とのヒアリングや人材紹介をワンストップで行えることです。そのため、多くの企業の支援を行うことはできず、先進的な事例を作り、他の民間企業のモデルとなるための活動をメインとしています。
設立から2018年2月末までの実績は、人材紹介が52人です。そのほとんどが地方の中小企業へ就業しています。この実績には、常勤のほかにミッションごとの業務委託契約での成約も3割程度含みます。

潜在的・長期的な悩みを抱えることの多い中小企業などの経営者の相談に応じます。伴走的な支援を行いながら、成長に寄与していきたいと考えていますので、ぜひご相談ください。

地方への移住を考える求職者・創業予定者の方へ

首都圏から地方への移住を希望する方向けに、相談を受け付ける非営利団体を紹介します。地方への移住を考える求職者や創業予定者の方は、地域の現状を十分に理解し、「失敗しない移住」を検討してみてはいかがでしょうか。

移住希望者からの相談に無料で対応

ふるさと回帰支援センター 高橋公理事長

ふるさと回帰支援センター
高橋公理事長

60余名の専属相談員が移住相談に対応

60余名の専属相談員が移住相談に対応

ふるさと回帰支援センター(東京都千代田区)は、2002年設立の認定NPO法人。2005年から本格的に地方移住希望者への相談業務を開始しました。全国330の自治体(東京都、大阪府を除くすべての道府県と、市町村)が会員として加盟しており、移住希望者向けの情報発信やセミナーなどのイベント開催を行っています。

同センターへの2017年の来訪・問い合わせ者は延べ33,165名で、前年と比べ7,000名増加しました。開設間もない頃は「第2の暮らし」を求める高齢者からの相談が大半でしたが、最近は40歳代までの移住希望者が7割を超え、「地方に移住して就労したい」という方が多くなっています。移住地域として人気があるのは首都圏近郊の地域では長野県や山梨県、静岡県などです。また、広島県や福岡県、岡山県なども毎年人気の高い県となっています。

同センターは、各道府県の出身者や県からの出向者、60余名の専属相談員を有しており、日々、相談者に移住予定先の実情を踏まえた情報提供を行っています。相談はすべて無料です。また、同センター内にはハローワーク品川の分室も設けていますので、移住して就労したい、という相談者のニーズにも即座に対応することができます。
自治体ごとに移住者向けの支援制度を設けているところもありますので、まずはお気軽にお電話いただければと思います。同センター内では移住相談会やセミナーも年間500件近く開催しており、同センターのホームページからご覧いただけます。

インタビューをした人

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣参事官 佐合達矢さん

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
内閣参事官
佐合達矢さん

株式会社日本人材機構
社長室長
矢野俊介さん

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター 理事長 高橋公さん

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター
理事長
高橋公さん




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