Vol.64 平成30年度「税制改正」活用ガイド~事業承継編~

平成30年度の税制改正においては、中小企業の企業活動を幅広く支援する措置が講じられています。
「ミラサポ総研」では、改正の概要や措置の内容、適用要件などについて、中小企業の皆さま向けに分かりやすく解説したパンフレットから、特に「事業承継」と「設備投資・資産取得」に関する税制を取り上げ、紹介します。
後編となる今回は、「事業承継」に係る改正内容や新たに創設された税制について取り上げます。
また、税理士 佐藤昭一氏より、中小企業が活用するに当たってのポイントを解説していただきます。
※本記事は、2018年4月27日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

中小企業経営者の高齢化が進行し、事業承継が課題

中小企業の事業承継は喫緊の課題

中小企業の事業承継は喫緊の課題
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経済産業省 「平成30年度 経済産業関係 税制改正について」においては、中小企業経営者の高齢化の進行により、今後10年の間に70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人になると試算されています。その半数以上が事業承継の準備を終えていないとされ、中小企業の廃業の増加により地域経済に深刻な打撃を与える恐れがあります。
これを防ぎ、円滑な世代交代を通じた生産性向上を図るため、「事業承継税制」の対象を抜本的に拡充することにより、事業承継を強力に後押しすることが求められています。

事業承継税制とは、非上場会社の株式等を先代経営者から贈与・相続により取得した場合に、経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けたとき、贈与税・相続税の納税が猶予及び免除される特例制度のことです。
2018年度からは、中小企業の経営者の高齢化が急速に進展する中で集中的な代替わりを促すため、2018年から1月1日から2027年12月31日までの10年間、贈与税・相続税に関して、要件が見直され、効果が大幅に拡充された事業承継税制の特例措置(以下「特例措置」と言う。)が創設されることになりました。

特例措置の4つのポイント

特例措置において拡充された点は、主に以下の4点です。特に、(1)(2)では税制適用の入り口要件を緩和することで、事業承継に係る税負担軽減を図っており、(3)(4)では税制適用後のリスクを軽減することで税制をより活用してもらおうという取組が行われています。

  • (1)対象株式数上限の撤廃・猶予割合の拡大
  • (2)対象者の拡充
  • (3)雇用要件の弾力化
  • (4)経営環境変化に応じた減免

4つの改正内容のポイントについて、以下の項で詳しく紹介します。

(1)対象株式数上限の撤廃・猶予割合の拡大

対象株式数上限等の撤廃

対象株式数上限等の撤廃
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納税猶予の対象株式数の上限を撤廃し、全株式を適用可能とします。また、納税猶予割合も100%に拡大することで、後継者の承継時の税負担をゼロとします。

<佐藤税理士による解説>

誰に事業を継がせるのかは、先代経営者の最後の重要な仕事です。60歳以上の経営者の過半数が後継者未定となっている現状を見ても分かるように、事業を承継するのに最もふさわしい後継経営者を探すことは、事業承継における最大のポイントです。
事業承継税制は、以前から制度自体はありましたが、要件が厳しく使いにくいので適用法人数が伸び悩んでいると言われていました。創設された特例措置は、事業承継を考えている先代経営者の背中を後押しするものとなりました。
特例措置は、2018年1月1日から2027年12月31日までの間に贈与または相続もしくは遺贈により取得する財産に係る贈与税または相続税について適用されます。贈与税の納税猶予は、生前に株式を贈与した場合に、相続税の納税猶予は、亡くなった後に株式を相続または遺贈により取得した場合に適用されます。事業承継税制が使いやすくなり、先代経営者の最後の仕事を行う最適な環境が整ったと言えます。

(2)対象者の拡充

対象者の拡充

対象者の拡充
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これまでは1人の先代経営者から1人の後継者へ贈与・相続される場合のみを対象としていましたが、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となります。これにより、中小企業経営の実状に合わせた、多様な事業承継を支援します。

<佐藤税理士による解説>

経営を安定化するには、後継者が議決権の過半数以上を確保することが重要です。中小企業では、後継者を複数とするよりは、単独とするほうが望ましいと思いますが、複数後継者も選択できるようになったことで会社の状況によっては使いやすくなりました。
同族関係者や第三者から後継者に株式を贈与してもらうことが難しい場合には、売買で後継者が株式を取得することも可能です(ただし、そのような場合には、事業承継税制のメリットを受けることはできません)。
分散化してしまった株式を再び集約したいときも、事業承継税制で後継者に株式を贈与したタイミングは最適です。第三者株主からの株式の贈与は、先代経営者からの株式の贈与とタイミングを合わせる必要はなく、先代経営者からの贈与・相続の日以後、その贈与に係る贈与税申告期限又はその相続に係る相続税の申告期限から5年以内にその贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り、特例措置の対象となります。

(3)雇用要件の弾力化

雇用要件の実質的撤廃

雇用要件の実質的撤廃
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贈与税・相続税の納税猶予は、税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持することが要件でしたが、その要件を未達成の場合でも、理由報告をすることで猶予を継続可能としました。
なお、経営悪化が原因の場合には、認定支援機関による指導助言が必要となります。

<佐藤税理士による解説>

昨今の中小企業を取り巻く厳しい経営環境の中で、事業承継後5年間の雇用を平均8割以上維持するのは厳しい要件でした。要件未達の場合は猶予されていた贈与税または相続税を全額納付しなければなりませんでした。
改正後は、5年間の雇用の平均が8割未達でも納税猶予は継続されます。ただし、8割未達の場合には、その理由報告をし、経営悪化が原因である場合には、認定支援機関による指導助言を受ける必要があります。これにより、大きくなりすぎた事業規模を適正規模にしながら事業を承継していくという、「事業再生型」の事業承継が行いやすくなりました。
雇用要件は事業承継税制の普及が進まない一番の問題だっただけに、緩和されたことで事業承継税制適用のハードルが一段と低くなりました。

(4)経営環境変化に応じた減免

経営環境変化に応じた減免

経営環境変化に応じた減免
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後継者が自主廃業や売却を行う際、これまでは承継時の株価を基に贈与税・相続税が課税されるため、株価が下落した場合には過大な税負担が生じていました。改正後は、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を計算し、承継時の株価を基に計算された納税額との差額が減免されます。

<佐藤税理士による解説>

承継した事業が承継後にうまくいかなくなった場合には、会社を閉じたり売却したりすることは可能です。会社を閉じたり売却したりした場合には、納税猶予が取り消され、贈与税・相続税を納税する必要があります。事業がうまくいっていない場合には、会社の株価は下がっているはずですが、従前の制度では事業承継時の株価を基に計算された贈与税額・相続税額を納税する必要があり、事業がうまくいかない時の株の評価減が考慮されていませんでした。

特例措置においては、直近3年間のうち2年以上赤字であるなど経営環境の変化を示す一定の要件を満たしている場合には、売却額や廃業時の株価を基に計算することが可能となりました。業績が良くなって株価が上がった場合は、値上がり前の事業承継時の株価を使用し、一方で、業績が悪くなって一定の要件を満たす場合には、値下がりをした売却額や廃業時の株価を使用することができるようになりました。

特例適用にあたっての手続き

上述の事業承継税制の適用を受けるためには、今後5年以内に「特例承継計画」を都道府県に提出し、10年以内に実際に承継を行うことが必要です。特例承継計画の提出がなければ、従来の事業承継税制の適用となります。

<佐藤税理士による解説>

「特例承継計画」の策定には、後継者を決めることが最初にやるべきことになります。後継者が決まらない場合には計画を提出することができません。承継計画は、2023年3月31日までに提出が可能であり、特例事業承継税制の適用を受けることを検討している場合には、2023年3月31日までに後継者を決めておかなければなりません。

新たな事業承継税制は、10年間の期限のある制度ですが、上記計画の提出があるため、実質的には5年間の期限の制度となります。特例承継計画を提出した後に、実際に贈与の実行または相続開始があった場合には、都道府県知事の認定を受け、知事の認定書を贈与税または相続税の申告書に添付する必要があります。その後5年間は1年ごとに、都道府県知事と税務署長に対して報告をします。5年経過後は、納税猶予の確定事由(納税事由)や免除事由が発生するまで、3年ごとに税務署に届出書を提出します。
贈与税・相続税申告後の各種書類の提出漏れには注意をしましょう。

M&Aの際に発生する登録免許税・不動産取得税が軽減

制度の概要(2019年度末まで)

制度の概要(2019年度末まで)
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上述の事業承継税制の改正の他に、M&A(企業の合併と買収)を通じた事業承継についての支援措置の創設がなされています。経営力向上計画の認定を受けた事業者に対して、事業承継のために再編・統合を行った際に係る登録免許税・不動産取得税を軽減し、多様な事業引継ぎの形態に対応します。

<佐藤税理士による解説>

M&Aの諸費用の中で、登録免許税・不動産取得税はかなりの負担になります。事業譲渡で事業を引き継ぎたいとしても、不動産取得税の負担を考慮して会社分割にて事業を引き継ぐこともあります。
経営力向上計画の申請書類は分量が多いものではないため、不動産を多く有する企業をM&Aにより引継ぐ場合には、経営力向上計画の認定を受けておくと良いと思います。
不動産取得税は、不動産を取得した時に都道府県が課税する地方税です。不動産の取得後に納付書が届きます。登録免許税は、所有権の移転登記などのときに課税される国税です。登記をする際に納税します。

事業承継を契機として活用できる制度も

税制改正とは異なりますが、経営革新や事業転換を行う場合、設備投資や販路拡大に活用できる以下のような補助金や共済制度があります。こちらも活用を検討してください。

・事業承継補助金
事業承継を契機として経営革新等や事業転換を行う中小企業者に対して、その新たな取組に要する経費の一部を補助します。

・小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員の方が、廃業や退職時の生活資金や事業の再建などのために積み立てる制度。月1,000円から掛金の設定が可能(上限70,000円)で、その全額を課税対象所得から控除できるなど税制面のメリットもあります。

<佐藤税理士による解説>

平成29年度補正予算「事業承継補助金」には、「後継者承継支援型」と「事業再編・事業統合支援型」の2つの申請類型があります。どちらも、応募→審査→採択→交付申請→交付決定という流れとなり、補助金の交付決定後に契約・導入され発生した経費などが補助対象となります。それ以前に発生した経費などは補助対象とはならないため、注意してください。
公募期間が定められているため、希望する事業者は、期間に合わせて申請する必要があります(後継者承継支援型は4月27日から6月8日が公募期間。事業再編・事業統合支援型は7月上旬から公募開始予定)。補助金は借入と違い返済不要ですが、実施した事業内容の検査と経費内容の確認をしてから交付金額が確定します。そのため、経費の支払いから補助金の交付まで時間がかかるため、資金繰りにも注意が必要です。

小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員の退職金準備として使うことができる制度です。掛金は、全額所得控除となるため、税制メリットを受けながら退職金の準備ができます。また、掛金の範囲内で事業資金を借入することができるため、急に事業資金が必要となったときにも役立つ制度です。

インタビューをした人

佐藤昭一さん

佐藤 昭一さん

税理士。明治学院大学経済学部卒。
大学在学中からダブルスクールで税理士試験に挑戦し、卒業後は試験勉強と税理士事務所での仕事を両立させる。税理士事務所での仕事と並行してリサイクルショップを経営していたこともある。2つのことを同時並行させるために実践していたITを駆使した業務効率化、リサイクルショップ起業の経験を活かした経営支援を得意としている。最近は、体を動かすことに目覚めスポーツと仕事を同時並行させている。




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