Vol.66 民泊新法が施行!中小ホテルや旅館による業務見直しの取組

2018年6月15日に、「民泊新法」とも呼ばれる「住宅宿泊事業法」が施行されました。一般に、中小ホテル・旅館が圧迫されるといった声もありますが、同法の施行により、増加する外国人観光客の受入効果や、地域の活性化、既存のホテル・旅館との連携による相乗効果などが期待されます。また、違法な宿泊事業者を一掃し健全な民泊サービスの普及を図る目的もあります。
今回は、住宅宿泊事業を担当する観光庁観光産業課の担当者の方々へのインタビュー結果から、同法の概要や中小ホテル・旅館が経営向上を図るためのポイントを事例などを交えて、ご紹介します。
※本記事は、2018年5月29日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

観光客のニーズの多様化に対応

住宅宿泊事業法が成立した背景は、訪日外国人が増加していることや、いわゆる「民泊」事業に対して特化したルールがないことを背景に、2017年6月に成立し、2018年6月15日に施行されました。

訪日外国人旅行者数の推移(平成30年版観光白書より)

訪日外国人旅行者数の推移(平成30年版観光白書より)
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平成30年版「観光白書」(国土交通省)によると、訪日外国人旅行者数は、2015年を境に急激に増加し、2016年には暦年で初めて2,000万人を突破、2017年には2,800万人を超え、今後も増加が見込まれています。また、近年は観光客のニーズが多様化しており、「日本人のライフスタイルを体験したい」「リーズナブルに宿泊したい」「地域に入り込んで滞在したい」といったさまざまな要望に対応するサービスの提供が求められています。
このようなニーズを簡易に取り込んだ宿泊形態、いわゆる「民泊」の人気が高まり、外国人観光客を中心として利用者が急増しているのが現状です。

一方で、これまで民泊経営に関する公衆衛生管理や災害対策、地域住民の生活環境に配慮したルール作りなどが確立されていなかったことで、本来は旅館業法に該当するような宿泊事業者が無許可のまま経営を行っていたり、民泊に対するクレームが寄せられたりと、いわゆる「ヤミ民泊」と呼ばれる違法事業者を取り締まる必要性が出てきていました。

これらを背景として、住宅宿泊事業法は多様化する観光ニーズに対応した健全な民泊サービスの提供を図るために成立に至りました。

住宅宿泊事業法の概要と届出に必要な要件

一般に「民泊」というと、「住宅(戸建住宅やマンションなどの共同住宅等)の全部又は一部を活用して、旅行者等に宿泊サービスを提供すること」を指します。
住宅宿泊事業法の施行以後は、日本国内で民泊を行う場合には、以下の方法から選択した上で、適正に事業を行う必要があります。

  • (1)旅館業法の許可を得る
  • (2)国家戦略特区法による特区民泊の認定を得る
  • (3)住宅宿泊事業法の届出を行う
住宅宿泊事業の提供の仕組み

住宅宿泊事業の提供の仕組み
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住宅宿泊事業法では、「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3つの役割と、その義務が定められています。この中で、「住宅宿泊事業者」が実際に住宅宿泊事業を営む方となります。
住宅宿泊事業は、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させ、その提供日数が180日を超えないものをいい、事業を行う際には都道府県知事等への届出が必要となります。届出に当たっては、対象となる家屋や設備が定められており、要件を満たす必要があります。

設備要件としては、「台所」「浴室」「便所」「洗面設備」が揃っていることが義務付けられています。対象となる家屋について、居住要件としては、以下のいずれかを満たすものが対象と規定されています。

  • (1)現に人の生活の本拠として使用されている家屋
  • (2)入居者の募集が行われている家屋
  • (3)随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋

詳しい要件などは、こちらから住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)を参照してください。

住宅宿泊事業の届出

住宅宿泊事業の届出の流れ

住宅宿泊事業の届出の流れ
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住宅宿泊事業を営もうとする人は、「住宅宿泊事業届出書」に必要事項を記入の上、必要な添付書類と合わせて、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届け出る必要があります。

なお、住宅宿泊事業の届出は、原則として「民泊制度運営システム」を利用して行うこととしています。「民泊制度運営システム」とは、住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者およびこれらの事業を営もうとする人が、住宅宿泊事業法に基づく届出や申請、報告などの手続きを電子的に行うことができるシステムです。

住宅宿泊事業者に係る監督は、都道府県知事等が実施します。地域の実情を反映できるよう、条例によって住宅宿泊事業の実施に制限を設けることができます。例えば、京都市では観光客が増加したり民泊の苦情が多かったりする時期(3月16日正午から翌年1月15日正午まで)の住宅宿泊事業を制限するという条例を定めています。また、大田区(東京都)、兵庫県および明石市などでは、年間全ての期間において一定のエリアで住宅宿泊事業の実施を制限する規制を行っています。

生産性向上にむけて業務改善・経営改善に取り組んだ企業をご紹介

観光庁観光産業課観光人材政策室 新倉課長補佐(総括)

観光庁観光産業課観光人材政策室
新倉課長補佐(総括)

民泊サービスを提供する住宅宿泊事業者が、今後は急増すると見込まれ、特に、中小のホテル・旅館業を営む皆さまは生産性の向上など、これまで以上に経営強化に取り組む必要があります。
ここでは、「平成28年度 宿泊業の生産性向上推進事業」(観光庁)による支援を受けた事業者の中から、生産性の向上により人手不足の解消やコスト削減を実現した、中小ホテル・旅館3社の事例を紹介します。

事例1 スキルマップやタブレット導入で、人材育成と業務効率化を両立

京の宿 綿善旅館

京の宿 綿善旅館

SNSを使用した、素早い情報伝達

SNSを使用した、素早い情報伝達

京都府京都市に立地する「京の宿 綿善旅館」は、少人数で一般客や修学旅行生を受け入れている老舗旅館です。人手が少ないため、ある時間帯に1つの業務が集中してしまっても応援できる従業員が限られており、特定の人に負担がかかっていました。また、業務連絡の伝達にも影響があり、例えば、フロント担当が業務に集中していると、客室の清掃担当者に連絡することが難しく、清掃担当者がフロントに足を運んで確認しなければならない状況が多くありました。

そこで、従業員に対するスキルアップ教育とIT機器を活用して改善に取り組みました。

どの社員がどんな業務をこなせるのかを把握するために、業務内容をリストアップしてスキルマップを作成、4段階評価ができるようにしました。4つのレベルのうち、自分がどの程度業務を実施できるのかを確認・共有できるようスキルマップで見える化することで、モチベーションにつながるとともに、応援依頼がしやすくなりました。1人ひとりがこなせる業務が増えることで、従業員同士の助け合いが実現。全体の労働時間を削減することができています。

また、従業員同士の連絡手段としてタブレットとSNSを活用。すばやく連絡をすることができ、労働時間を抑えることができました。タブレットは、業務マニュアルの共有や外国人観光客への対応にも活用できているため、人材育成と業務効率化の双方の改善に有効な手段となっています。

事例2 顧客価値を追求しムダを省くことで、効率化・労働生産性向上に取り組む

小豆島国際ホテル

小豆島国際ホテル

食器の写真を貼った食器棚

食器の写真を貼った食器棚

香川県小豆島に立地し、政府登録国際観光ホテルに登録している「小豆国際ホテル」では、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)と3定(定品、定位置、定量)に取り組み、生産性向上に成功しました。以前は、さほど使用されていない備品の準備や食器棚の出し入れなど、手間のかかる清掃作業によってムダが多くありました。また、食器の片付け方法についてもルールがなかったため、使用済み食器の破損もありました。

そこで、客室整備作業においては、急須の廃止やアメニティグッズの包装変更などを行い、ムダな清掃作業を削減。さらに、掃除ロボットや窓拭きロボットを導入したことで、従業員が効率的に整備作業を行うことが可能になりました。また、食器棚の大規模な整理整頓を行い、従業員の負担や手間を減らしました。
食器の片付け作業も統一させ、使用済み食器の破損が大幅に減りました。作業効率化のために従業員同士が互いに助け合うようになり、職場の雰囲気も良くなったといいます。

しかし、廃止や変更を行った場合のマイナス効果を検討しながら見直しをしなければ、サービス低下につながります。小豆島国際ホテルでは、顧客アンケートなどを参考にしながら、かつ顧客価値の向上につながらないものは廃止することで、質の変わらないサービスを提供しています。

事例3 情報共有でサービスが向上、手軽なデータベース化で作業効率アップ

湖楽 おんやど 富士吟景

湖楽 おんやど 富士吟景

Excelでデータ化した宿泊日報

Excelでデータ化した宿泊日報

富士五湖の1つ、河口湖の近くに構える「湖楽 おんやど 富士吟景」は、シフトの改善や作業のIT化を実施し、労働生産性を向上させる取組を行っています。改善策に取り組む以前は、顧客が集中する時間帯や手間のかかる作業時に対応が遅くなってしまったり、自主的に他業務へなかなか応援に行けなかったりするという課題がありました。しかし、対応が忙しくなる午後6時に向けて「5時半会議」というミーティングを行い、情報共有や応援要請の時間に充てました。そうすることで、応援できる従業員は、自身の業務を事前に把握し準備することが可能となり、導入以前に比べてより良いサービスを提供できるようになりました。

さらに、非効率な作業をIT化することで労働時間の短縮に成功しました。改善前は宿泊日報の記録は手書きでしたが、1日に30~40分かかるなど決して効率の良い作業ではなく、字が読みづらいというマイナス面もありました。そこで、日報をデータベースに落とし込みExcelで作成するというIT化により、メンテナンス効率の向上、見やすさなどの効果が実現し、現在は15分程度の作業時間で済んでいます。また、データを応用して、さまざまなリスト作成にも役立てています。
しかし、すべての業務をデータベース化するのではなく、年賀状や手紙などは手書きにこだわっており、心のこもったおもてなしに取り組んでいます。

中小ホテル・旅館の経営者へのメッセージ

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室 田口課長補佐

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室
田口課長補佐

住宅宿泊事業法の施行に当たってはさまざまな声が寄せられていますが、観光客のニーズによって求める滞在スタイルが異なるため、既存のホテル・旅館と住宅宿泊事業者が必ずしも競合になるとは限りません。ホテル・旅館を経営する方々は、プロのおもてなしなど独自の強みをお持ちだと思います。また、既存のホテル・旅館も、住宅宿泊事業の対象となる家屋を使用して、住宅宿泊事業の申請をすることは可能であり、民泊サービスの提供や管理業務の集約を行うこともできます。

中小ホテル・旅館の経営者自らが住宅宿泊事業を実施しない場合でも、住宅宿泊事業者と連携して実施できる事業があります。例えば、フロント業務など住宅宿泊事業における管理業務を旅館のフロントで代行するなど、さまざまな相乗効果が期待できます。
住宅宿泊事業について、自らの経営向上につながる新たな可能性として活用していただければと思います。

インタビューをした人

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室 課長補佐 田口壮一さん

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室
課長補佐 田口壮一さん

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室 係長 楠華枝さん

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室
係長 楠華枝さん

観光庁観光産業課観光人材政策室 課長補佐(総括) 新倉由健さん

観光庁観光産業課観光人材政策室
課長補佐(総括) 新倉由健さん

観光庁観光産業課観光人材政策室 係長 増田孝之さん

観光庁観光産業課観光人材政策室
係長 増田孝之さん

観光庁観光産業課観光人材政策室 主査 谷川陽子さん

観光庁観光産業課観光人材政策室
主査 谷川陽子さん




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