Vol.67 外部のアイデアを活用する~オープンイノベーション白書からみる、企業の課題解決~

近年、自社の技術やノウハウのみでイノベーションを起こすことが難しくなっている中、そのような資源を他企業や個人、大学などが持つ外部の資源と積極的に共有しあうことで、自社だけでは成し得ない新たなイノベーションを起こす「オープンイノベーション」への取組が活発化しつつあります。我が国の企業にとっては、新たな商品・サービスの開発や市場開拓につながる必須の戦略だと言えます。
今回は、「オープンイノベーション白書 第二版」より、オープンイノベーションの変遷や現状、オープンイノベーションを取り入れた企業の事例などを紹介し、その取組の重要性と留意点について解説します。
※本記事は、2018年7月19日時点の情報をもとに執筆・掲載しています。

自前主義(クローズドイノベーション)からオープンイノベーションへ

オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が編集した「オープンイノベーション白書 第二版」(2018年6月)では、統計データや2016年経済産業省が実施した各種アンケート調査、各種報告書、文献などから得られた定量データをもとに、我が国のオープンイノベーションの現状についてまとめています。

イノベーションの変遷と動向

イノベーションの変遷と動向
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オープンイノベーションは、2003年、当時、米・ハーバード大学経営大学院の教員であったヘンリー・チェスブロウ氏によって、その概念が発表され、注目されるようになりました。それまでイノベーションを牽引していたのは新商品・サービス開発や販路開拓などを全て自社で完結させる「自前主義」であり、自社内の経営資源や研究開発に依存し、徹底的に技術を保護する体制を取る企業が数多くありました。

しかし、1990年代以降、ITなどの技術が急速に発達・普及し、グローバル化が進展したことによって、企業は自前主義のような体制では対応できなくなってきました。ニーズの多様化や新興国企業も含めた競争の激化、ライフサイクルの短期化が進んだため、自社が持つリソースのみではイノベーションを起こすことが非常に困難なのが現状です。
チェスブロウ氏が発表した概念は、外部の技術の探索や組織との連携を効率的に行える環境が整備されつつあることから、今後、実効性の高い有効な選択肢として重要性を増しています。

オープンイノベーションの定義や概念は、環境整備や時代変遷に伴い徐々に変化しており、オープンイノベーションが適用される範囲や手法も以下のように変化を遂げています。

  • (1)オープンイノベーションが適用する対象領域の拡大
    当初は研究開発や技術領域のみに焦点を置いていましたが、消費者ニーズの多様化やライフサイクルの短縮化により、技術の商用化やビジネスモデル、サービス領域にまで対象領域が拡大しました。この結果、資源活用・組織連携によるイノベーションの創出や既存のビジネスモデル・体制の変革などの取組につながりました。
  • (2)オープンイノベーションの創出方法が多様化
    (1)のようにオープンイノベーションが研究開発から新事業創出まで広域に捉えられるようになったため、オープンイノベーションの創出方法が、以下の3つのタイプに分類されるようになりました。
    • a)「インバウンド型」:外部技術を社内に取り込むことでイノベーションを図る
    • b)「アウトバウンド型」:内部資源を、外部チャネルを活用し、開発および製品化につなげることでイノベーションを図る
    • c)「連携型」:社内外で幅広く連携して新製品や技術を共同開発することでイノベーションを図る
  • (3)大企業とベンチャー企業間の協業、連携の増加
    破壊的アイデアが生まれにくい企業体質や意思決定プロセスの煩雑化の問題を抱える大企業と、自社にない技術やイノベーションを生み出すことが可能な風土・環境を持つベンチャー企業が連携を行うなど、世界的な潮流として、急速に増加しています。特に、ここ近年加速していると言えます。
  • (4)欧州では「オープンイノベーション1.0」から「オープンイノベーション2.0」へ
    これまでの1対1の外部連携によるオープンイノベーション1.0から、産官学に一般市民を取り込んだユーザ中心の新たなモデルとして、複数の関係先が相互に混じりあう連携体制へと定義が変化しています。

オープンイノベーションの現状

オープンイノベーション関連データの全体像

オープンイノベーション関連データの全体像
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国内のオープンイノベーションの現状としては、3つの視点から状況を把握することができます。
第1に、我が国全体の研究に係る動向です。2015年度の我が国の研究費の総額のうち、負担者側、使用者側ともに、民間企業が大半を占めています。このうち、企業が負担している研究費は13.6兆円に及びますが、企業から大学への研究費は923億円に留まります。また、研究人材においては、民間企業から大学への転入は増加しているものの、全体的に流動性が低い傾向にあります。
よって、企業間、大学間の人材流動と比較して、企業と大学の間の人材流動は極めて少数に留まっていると言えます。

第2に、大学・公的機関に関する現状です。大学・公的機関と民間企業との共同研究および受託研究は近年、件数や金額ともに増加傾向にあります。しかし、企業の総研究費に対する大学への研究費拠出や1件あたりの研究費は規模が小さく、海外と比較すると低い水準にあります。
共同・受託研究費の算定方法が異なることも理由として考えられますが、企業にとって重要な研究活動となっていない可能性も考えられます。
また、大学の教官、学生または公的試験研究所の研究成果を技術シーズとして事業化・創業を行う「大学発ベンチャー」は、2017年に2,000社以上あり、2016年より増加したものの、黒字化した大学発ベンチャーの割合は2017年度調査では45.0%であり、2016年度調査時より低下しています。

第3に、日本の企業の現状です。オープンイノベーションに対する取組について、企業規模が大きいほど研究開発を実施しており、かつ社外研究開発を実施している割合が高まっている傾向が見られます。日本企業全体として、オープンイノベーションに取り組む企業が増加していますが、欧米企業と比べ、実施率がまだまだ低いのが現状です。
また、日本企業はパートナーとして起業家やスタートアップ企業を選択する傾向が低く、欧米企業と大きな差が見られます。

イノベーション活動全体においては、大企業における大学などとの連携実績、今後の連携意向は高い水準にあります。しかし、日本企業は、イノベーションの活動の協力先として大学などより企業を求める傾向があり、規模が大きい企業ほど大学などを協力先と考える傾向がみられます。また、欧米企業と比べて日本企業は問題・課題解決段階では大学・公的研究機関をパートナーと考えていない傾向があります。
総じて、我が国では、産学の連携不足がイノベーション創出において弱点となっていると言えます。このような現状から、文部科学省・経済産業省は、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定しています。

オープンイノベーションを活用する企業

オープンイノベーションは、大企業が取り組む傾向が高いですが、大学・公的機関と中小企業の連携によりオープンイノベーションで成果を上げた事例もあります。いずれも企業やベンチャー、起業家、研究機関が集積し、オープンイノベーションを実現するエコシステム(複数企業が共存共栄するような仕組み)を形成しつつあります。公的機関や地域におけるオープンイノベーションによる推進事例を以下に紹介します。

事例 産学官連携で地域活性化と人材育成に成功、ものづくり業界の活性化に貢献

電気自動車「HOKUSAI」

電気自動車「HOKUSAI」

株式会社浜野製作所(東京都墨田区)は1978年設立の町工場です。設立当初は金型製作・プレス加工から始まり、板金加工や産学連携による新しいものづくり、近年は地域連携や若者のスタートアップ支援などの活動にも励んでいます。
浜野製作所が掲げる経営理念は「お客様・スタッフ・地域に感謝・還元する」です。時代の流れにより町工場が減少する中、生き残りをかけて地域連携や産学官連携に取り組み、墨田区および早稲田大学とともに電気自動車「HOKUSAI」を開発しました。一人乗り用の自動車としてスカイツリーを周遊するのに活用。観光都市型の次世代モビリティとして区内中小企業の技術力の高さをPRすることに成功しました。

その他にも、海洋研究開発機構や芝浦工業大学、東京海洋大学、東京東信用金庫とともに、下町の中小企業と連携をとった「江戸っ子1号プロジェクト」を発足させ、水深8,000メートルの深海にも耐え得る無人探査艇の共同開発を行いました。その結果、2013年11月に深海約8,000メートルで世界初の3D撮影に成功し、大きな注目を浴びました。
これらの活動を行う中で、開発準備や人材集めに苦労しましたが、地域や町工場の活性化や将来の人材育成に繋がり、ものづくり業界の活性化に革新を起こすことができました。

オープンイノベーションの課題と留意点とは

我が国のオープンイノベーションにおける課題・阻害要因・成功要因

我が国のオープンイノベーションにおける
課題・阻害要因・成功要因
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これまでの現状や企業の成果事例から、我が国のオープンイノベーションに対する取組における課題や阻害要因は、大きく分けて以下の3つであり、このポイントを乗り越えることが成功要因であると言えます。

  • (1)組織戦略が立てられていない
    外部連携が全社的な取組となっていないことや、経営陣の関与が不十分であるなど、組織的にオープンイノベーション戦略の位置づけや判断基準を明確化していない、もしくは明確化されているが徹底されていないことが、課題・阻害要因であると言えます。
    課題解決のためには、全社戦略を策定し、一丸となってオープンイノベーションに取り組む体制づくりが必要です。オープンイノベーション戦略の位置づけを明確化したり、目標設定をしっかり行ったりすることなどが挙げられます。
  • (2)組織のオペレーションが不十分である
    オープンイノベーションに関する専門組織が設置されていなかったり、あるいは設置されていても機能していなかったりすると、全社的にオープンイノベーションを起こすことは困難です。また、外部とのネットワーク構築について適当な連携先が見つからない、連携先との目標やスピード感が合致しない、費用分担や知的財産権の取り扱いで合意できないなどの要因などもあります。
    内部とのネットワークにおいても、社内でオープンイノベーションに関する理解を得る必要があります。
    これらを解決するにあたって、オープンイノベーションに関する専門組織の設置はもちろんのこと、専門組織には明確なミッションを付与し、その遂行に向けて必要な権限や人材、予算などを配分することで機能回復を狙うことが重要です。
    また、外部・内部において、ネットワーク・コミュニティを形成していくことで、オープンイノベーションにおける取組を可能とする、組織体制を構築することができます。
  • (3)文化・風土などのソフト面の要素に対応しきれていない
    我が国では、深刻な人材不足が懸念されています。また、予算を充てられないなどの課題もあり、それをクリアしても社内の理解や外部連携先の探索が難しいのが現状です。また、企業・地域によって文化や風土が異なり、マインド面が課題となります。
    これらの課題を解決するためには、(2)でも述べたように、内部、特に経営陣の理解や関与が成功のカギとなります。また、社全体のオープンイノベーションに対する意識改革や気運向上を図ることで、イノベーションを起こす組織文化や風土を形成することが可能となります。

オープンイノベーションに対する取組を実現するにあたって、ユーザも含む多様な関係者との連携により、新商品・サービスを開発するというエコシステムを構築している企業もあります。
上記のような課題や解決方法を押さえ、オープンイノベーションに取り組むことで、海外企業も含めた競争環境に対応することができると言えます。




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