Vol.70 企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!

中小企業の生産性向上を図るため、2018年4月に仕様策定された「中小企業共通EDI標準」。受発注業務のIT化に取り組むことで、あらゆる業種で生産性向上の効果が期待できます。
今回は、受発注業務のIT化によって中小企業の皆さまが得られるメリットや、実際に導入してコスト削減などの成果を上げた中小企業の事例などを紹介します。
※本記事は、2018年8月27日の中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)への取材および8月29日の特定非営利活動法人ITコーディネータ協会への取材をもとに執筆・掲載しています。

「多画面問題」や手入力が生産性低下の原因

日本公庫総研レポート「中小商業・サービス業におけるIT利活用の現状と課題」(No.2018-3、日本政策金融公庫 総合研究所)によると、中小企業におけるITツールごとの利活用状況は、一般オフィスシステムや電子メールが55%前後、給与・経理業務のパッケージソフトでは約40%の企業で利用されている一方で、「電子文書での商取引や受発注情報管理」では18.5%と、2割を下回る結果となりました。
これは、大半の中小企業では、受発注業務のIT化が進んでおらず、電話やFAXなどの従来の方法でやり取りをしていることを示す結果です。

受発注業務のIT化の実態

受発注業務のIT化の実態
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中小企業において受発注業務のIT化が進まない要因は、図「受発注業務のIT化の実態」にあるように、発注側企業が独自に構築したシステムを使っていることが挙げられます。
このため、Tier1(一次請け)、Tier2(二次請け)にあたる企業では、発注側企業それぞれに対応したシステムを導入しなければなりません。これらの企業では、複数企業からの受注に対応するため、パソコンの中で多数のウインドウを開いたり、多数のモニタを使用したりしなければならない「多画面問題」と呼ばれる事象が発生し、コスト面で大きな負担となっているのです。
そして、Tier3(三次請け)層から下の企業においては、複数システムへの対応の複雑さから、電話やFAXでやり取りをしている企業が多数となっています。ただ電話やFAXによる受発注は、経理システムに「手入力」で転記が必要であることから、ミスが起きたり書類の紛失リスクがあったりと、中小企業の生産性を低下させる原因となっています。

受発注システムが乱立し、中小企業の受発注のIT化が進まない状態を受け、中小企業庁では「中小企業共通EDI標準」の策定・普及を進めています。EDIとは、「電子データ交換(Electronic Data Interchange)」のことで、特に企業間においては受発注などの商取引をネットワークを通じて電子的に行うことを指します。
「中小企業共通EDI標準」の策定は、これまで取引先ごとにばらばらだったEDIのデータフォーマットを国際標準に準拠した形で共通化することで、EDI導入の手間やコストを大幅に削減することをめざすものです。受注側企業と発注側企業の双方が同標準に対応するプロバイダーと契約すれば、プロバイダーが必要な情報を変換してくれるため、同標準に対応する自社のアプリケーション(応用ソフト)を使用して統一したデータをやり取りすることが可能となります。これにより、中小企業の業務の効率化が進むと期待されています。

中小企業庁による仕様策定と普及の取組

「中小企業共通EDI標準」の概要や活用するメリットについて、同標準の普及を推進する中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)の八木美咲係長に伺いました。

業種の垣根を越えてデータ連携の仕様を策定

中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)八木美咲係長

中小企業庁経営支援部技術・経営革新課
(イノベーション課)八木美咲係長

業界内で共通するEDIの仕様を策定しようとする動きは、10年以上前から議論が重ねられてきました。技術的な課題も多く、これまでは具体的な話には至りませんでしたが、中小企業庁では、平成28年度補正「経営力向上・IT基盤整備支援事業(次世代企業間データ連携調査事業)」において初めて予算化し、本格的に「中小企業共通EDI標準」の策定に着手しました。

同事業は、電子商取引の国際標準化団体である「国連CEFACT」が定める共通辞書(EDIの世界共通語)に準拠したEDIの仕様を策定して公開することで、業種の垣根を越えた企業間のデータ連携が実現することをめざして実施したものです。

具体的には、以下の取組を行いました。

  • (1)12の実証プロジェクトを選定、実施
    プロバイダーとなるITベンダーの協力を得ながら、12のプロジェクトを選定し、EDI導入効果を測定するための実証事業を行いました。
    EDIを導入した企業には、総じて業務効率化の効果が見られました。また、大企業と比較すると中小企業のほうが業務時間の削減率が高く、平均して51.4%もの削減効果が得られました。これは、中小企業のほうがプロジェクトの限られた期間でも既存の業務フローを変更しやすく、データ連携に取り組みやすかったことが要因として挙げられます。
  • (2)「中小企業共通EDI標準」(初版)の公開
    実証プロジェクトの結果や有識者による検討結果を踏まえ、2018年4月、同事業の事務局を務めた特定非営利活動法人ITコーディネータ協会が中心となり、「中小企業共通EDI標準」(初版)を策定し公開しました。
    これは、「中小企業共通EDI標準仕様書」「中小企業共通EDIメッセージガイドライン」「中小企業共通EDI実装ガイドライン」の3つの文書で構成されます。このうち「中小企業共通EDI標準仕様書」が仕様にあたるもので、プロバイダーに対応を求める注文メッセージ全135項目を定めるとともに、業務アプリケーションに対応を求める最低限必要な13項目(注文書番号、注文書発行日など)を定めています。その他は、参考資料として位置づけられています。

EDI導入は、さまざまなメリットがある

中小企業共通EDI導入のメリット

中小企業共通EDI導入のメリット
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中小企業の皆さまが「中小企業共通EDI標準」に則ったEDIを導入することで、以下のようなメリットがあります。

  • (1)業務の効率化によるコスト削減
    取引先ごとに専用のシステムを用意せずとも、紙の帳票類をデータで一元的に管理ができるようになることで、手入力による人為的なミスがなくなり、業務効率化につながります。
  • (2)過去および現在の取引データの検索の簡素化
    取引先から「前回と同じ仕様の製品をお願い」といった発注があった場合でも、データで管理しておくことで容易に検索が可能で、意思の疎通がしやすくなり、取引の確実性が向上します。

受発注を行う全ての業種の皆さまが、これらのメリットが得られます。受注側企業が導入する場合は、同標準に対応したプロバイダーおよび業務アプリケーションを利用するだけで済み、大きな費用はかかりません。また、発注側企業も対応したプロバイダーと契約することで、共通辞書に従い注文情報の変換を行うため、独自に作ったシステムを継続して利用することができます。

現在、上述の実証プロジェクトに参加したITベンダーなどが有志で、「つなぐITコンソーシアム」という組織を結成しています。同コンソーシアムに参加するプロバイダーは全て「中小企業共通EDI標準」に対応しています。また、同標準は公開しているので、同コンソーシアムに限らず、今後、多くの民間プロバイダーに参入してもらうことを期待しています。

ITベンダーなど20機関がEDI導入を支援

つなぐITコンソーシアムの構成機関

つなぐITコンソーシアムの構成機関
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「つなぐITコンソーシアム」は、上述の実証プロジェクトに支援企業として参加したITベンダーを中心として、2018年4月に結成されました。現在、同コンソーシアムには、図「つなぐITコンソーシアムの構成機関」に記載のある20機関が参加しています。
同コンソーシアムの運営事務局を務める、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会の鈴木修主席研究員と野田和巳研究員にその活動内容を伺いました。

取引先企業と連携しながら、ぜひ導入を

ITコーディネータ協会 鈴木修主席研究員(左)、野田和巳研究員

ITコーディネータ協会
鈴木修主席研究員(左)、野田和巳研究員

ITコーディネータ協会では、ITコーディネータの育成や資格認定事業、中小企業のIT化促進に関する研究開発事業を行っています。
協会ではそのノウハウを活用し、「つなぐITコンソーシアム」の運営事務局として中小企業共通EDIの普及促進に向けた活動を開始しました。

具体的には、中小企業共通EDIの導入に関する相談対応を始め、導入を検討する企業とその関係企業との調整の支援、対応する製品やサービスおよびその提供者であるコンソーシアムメンバーの紹介、導入後の運用の支援まで行っています。
相談は無料で受け付けており、電話はもちろん、「つなぐITコンソーシアム」ホームページのお問い合わせフォームからも相談を受け付けています。

EDIは、1社だけが導入しても効果を得ることはできません。導入を検討する企業からの相談があった場合には、その企業だけでなく、取引先企業の状況や環境を考慮しながら、導入の要否を判断する必要があります。ぜひ取引先企業と共通認識を持って、連携を取りながら中小企業共通EDIの導入により、生産性の向上に取り組んでいただきたいと思います。まずはご相談ください。

実証プロジェクトで成果を上げた事例を紹介

上述の実証プロジェクトでは、自動車、水インフラ、農林水産、輸出、卸・小売、サービスの6つの業界、北海道、東京、静岡、愛知、大阪の5つの地域での取組がありました。
その中から成果を上げた2つの事例を紹介します。

新潟電子工業株式会社による導入事例

新潟電子工業株式会社による導入事例

有限会社杉文による導入事例

有限会社杉文による導入事例

チャンスを活用し、ぜひEDI導入を

EDI導入に活用できる支援施策がある

受発注業務のIT化にあたり、2018年9月現在利用できる、国などの支援施策は以下のようなものがあります。対象要件などをご確認の上、ぜひご活用ください。

  • (1)IT導入補助金(平成29年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業)
    中小企業の生産性向上に寄与するITツールの導入費用の一部を補助します。3次公募の申請受付が、2018年9月12日から11月19日の期間で実施されています。
  • (2)軽減税率対策補助金(中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助金)
    2019年10月からの消費税軽減税率制度の実施に伴い、対応が必要となる中小企業のレジ入れ替え費用や受発注システム改修費用などの一部を補助します。2016年4月から申請を受け付けており、申請期限は2019年12月16日です(2019年9月末までに改修などを完了した事業が対象)。ただし、日ごろから受発注システムを使用して軽減税率対象商品を取引している企業が対象で、新規に受発注システムを導入する場合には利用できませんので、ご注意ください。
  • (3)ミラサポ専門家派遣
    よろず支援拠点や地域プラットフォームが、中小企業の経営課題に応じた専門家を派遣します。ITにおいては、ITを活用した経営戦略の策定からIT導入に至るまでさまざまなステージの取組を専門的見地から支援します。
  • (4)株式会社日本政策金融公庫によるIT活用促進資金
    ITを活用した投資を行う場合、必要な設備資金および長期運転資金の融資が受けられる場合があります。

中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)からのメッセージ

技術・経営革新課(イノベーション課)(左から)小池明課長補佐、八木美咲係長、辻洋祐技術支援一係長

技術・経営革新課(イノベーション課)
(左から)小池明課長補佐、八木美咲係長、
辻洋祐技術支援一係長

受発注業務のIT化に関する今後の動きを紹介します。
2018年12月に、「全銀EDIシステム」(ZEDI)の運用開始が予定されています。これは、一般社団法人全国銀行協会が構築を進めているもので、企業間の総合振込時に使用する電文方式を、情報量や互換性などに優れた「XML電文」に移行することで、送金情報にさまざまな情報を添付することが可能となります。

現在、平成29年度補正「中小企業・小規模事業者決済情報管理支援事業」を実施中で、「中小企業共通EDI」と「全銀EDIシステム」の連携をめざし実証事業を行っています。これが実現すれば、受発注のみならず決済に至るまでの情報が連携され、売掛金の自動消込などが可能となり、さらなる業務効率化、生産性向上につながります。2018年度中には、実証事業の結果を取りまとめ、報告書として公表する予定です。

受発注業務のIT化に取り組んでいる中小企業は2割未満というデータがあるように、EDIはまだまだ普及が進んでいないのが現状です。一方で、実証プロジェクトの成果として中小企業で5割を超える業務効率化の効果が得られています。
人手不足が叫ばれる現在において、受発注業務のIT化は大きな可能性を秘めていると思います。中小企業の皆さまは、ぜひEDIの導入を前向きにお考えください。

IT導入にあたり非常に使い勝手の良い「IT導入補助金」は、2018年11月19日まで3次公募が行われています。同補助金は補正予算によるものなので、次年度も募集があるとは限りません。この機会を充分に活用し、受発注業務のIT化に取り組んでいただきたいと思います。中小企業の皆さまが、その新たな挑戦に一歩踏み出していただくことを期待しています。




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