Vol.71 外食・中食産業における中小企業の「生産性向上」に向けた手引きを解説!

我が国におけるサービス業の労働生産性は、欧米と比較すると低い傾向にあり、その中でも外食・中食をはじめとする飲食業の労働生産性の低さは特に顕著です。
そのような現状を鑑み、労働生産性向上のヒントになる手法をまとめた「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」が公表されています。投資力が乏しく、人手不足に課題を抱える中小の外食・中食企業の皆さまにとって取り組みやすい内容となっています。
今回は、同手引きの概要や活用のポイント、成果を得た企業の事例などを取り上げ、ご紹介します。
※本記事は、2018年8月21日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

近年における外食・中食産業の動向

日本を100としたときの、各分野における日本と主要国の労働生産性水準

日本を100としたときの、
各分野における日本と主要国の労働生産性水準
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2018年4月に、公益財団法人日本生産性本部が発表した「産業別労働生産性水準(2015年)の国際比較」によると、図「日本を100としたときの、各分野における日本と主要国の労働生産性水準」にあるとおり、日本、米国、ドイツ、イギリス、フランスの5カ国の中で、日本の労働生産性は全体的に低い傾向にあります。特に、日本の宿泊・飲食業の労働生産性水準は、5カ国の中で最も低く、トップである米国と比較すると2倍以上の差があることがわかります。

労働生産性と労働構成比(規模別、業種別)

労働生産性と労働構成比(規模別、業種別)
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また、中小企業の生産性を分析している2016年版中小企業白書第1部第3章によると、中小企業と大企業の労働生産性の業種別平均(縦軸)と業種別従業者割合(横軸)を示した図「労働生産性と労働構成比(規模別、業種別)」に見られるよう、我が国の労働力の約7割を占める中小企業の労働生産性の平均値は、大企業と比べ下回っています。特に、「宿泊・飲食サービス業」をはじめとしたサービス業については、労働生産性の平均値が1人あたり300万円を下回っており、他業種と比較しても低い結果となっています。

これらの結果から、我が国のサービス業、とりわけ中小規模のサービス業の労働生産性は低い水準にあり、これを向上させることが重要であることが分かります。

「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」とは

農林水産省は、2017年4月に「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」を発行しました。本手引きの目的や活用方法について、農林水産省食料産業局の新藤光明外食産業室長に伺いました。

労働生産性向上のきっかけとして手引きが誕生

農林水産省食料産業局 新藤光明外食産業室長

農林水産省食料産業局
新藤光明外食産業室長

統計データからわかるように、我が国のサービス業における労働生産性(付加価値額を労働者数(又は労働時間)で除したもの)は、非常に低い状況にあり、なかでも中小企業での生産性が低くなっています。理由の1つとして、長期間にわたるデフレ経済の中で、高品質なサービスの提供に対して十分な収益を獲得できていないことが挙げられます。
近年、値上げ策を講じる飲食店が増加していますが、値上げは客離れを引き起こすリスクもあり、各企業は慎重に対応を取っています。また、人手を要する工程が多い外食・中食産業は、深刻な人手不足問題にも直面しています。これらの課題を解決するために、外食・中食企業が労働生産性向上に取り組めるようなきっかけが必要でした。

そこで、作成したのが「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」です。本手引きは、中小の外食・中食企業の労働生産性向上を図るため、付加価値向上や効率化、人材育成・衛生管理に効果的な手法や事例などを紹介しています。
「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」では、労働生産性を上げるために必要な2つの方法を紹介しています。

生産性をあげるには、分子と分母の両方が大事

生産性向上における分子と分母の関係性

生産性向上における分子と分母の関係性
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本手引きでは、図「生産性向上における分子と分母の関係性」の考えに基づき、労働生産性を上げるには、分子である付加価値額を高める方法としての「新規需要開拓、付加価値向上」と、分母である労働者数(又は労働時間)を減少させる方法としての「効率化、合理化」の2つをバランスよく進めていくことの重要性を解説しています。
分子を増加させる取組として、顧客拡大や値上げ、メニューの工夫や接客サービス向上などの対応が挙げられます。一方、分母を減少させる取組としては、機械化やIT化、その他の工夫を通じて、同じ作業内容でもより少ないリソース(資源)や人数で作業することなどが挙げられます。

本手引きは、主に「基礎知識編」と「生産性向上事例編」で構成されており、「基礎知識編」においては付加価値向上、効率化推進、それ以外の知識や手法は人材管理・衛生管理にまとめられています。また、「生産性向上事例編」では、外食事例と中食事例をまとめて紹介しています。

「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」の注目ポイント

本手引きは、中小企業の皆さま、特に外食・中食企業の経営者やマネージャーといった役職の人を対象としており、労働生産性向上に向けた活動の進め方を見つけてもらうことを目的としています。
本手引きのポイントは以下の2つです。

  • (1)設備投資よりムダを見直す手法で過剰投資を防ぐ
    本手引きでは、大型設備投資やITツール導入などの手法に力を入れるのではなく、今の業務内容を見直し、ムダを改善する手法を紹介しています。機械化やIT化に向けて設備投資に力を入れても、現状の作業に潜むムダを省かなければ逆に過剰投資になりかねません。投資力の乏しい中小企業でも取り組みやすい、手軽に実施できる手法が豊富に掲載されています。
  • (2)生産性向上の成果を上げた企業事例を紹介
    本手引きは、労働生産性向上に役立つ知識や手法とともに、実際にそれらに取り組み、成果を上げた企業の事例を紹介しています。これらの事例は外食企業12社と中食企業9社に対して、国の予算を投じてコンサルティングを実施し、その成果をまとめたものです。「基礎知識編」と「生産性向上事例編」が連動しているため、一冊で課題解決に向けた有益な情報を得ることができます。

本手引きは、農林水産省のホームページでも公開されています。

外食・中食産業の労働生産性向上の成果事例

今回は、外食企業と中食企業からそれぞれ1事例ずつご紹介します。

事例1 <外食事例>低コストで実施できる4つの取組で13%労働生産性がアップ

外食・秋田乃瀧の取組事例

外食・秋田乃瀧の取組事例
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秋田県秋田市に位置する居酒屋「秋田乃瀧」は、秋田の郷土料理、地酒などの提供を行っています。競合店の進出などにより売上が低下している中、顧客の特徴や各メニューの販売動向などを分析できるような情報はなく、具体的な対策方法が見出せずにいました。そこでコンサルタントとともに、4つの取組を実施しました。

第1に、注文伝票から見直しを図りました。注文伝票に、入店時刻や男女別人数、常連・非常連区分、退店時刻といった基礎データを記録し、売上実績などの分析および顧客分析に役立つ情報を取得できるようにしました。第2に、メニューの見直しを図りました。注文数と売上がともに大きいメニューは主力メニューとして宣伝を強化したり、注文数が多いものの売上が少ないメニューは値上げを実施したりするなど、現行メニューを注文数や売上の観点から、絞り込みをしました。第3の取組は、それらの絞り込みをもとにメニュー表の見直しを実施。主力メニューの宣伝強化やメニューの補足などで顧客の目に止まりやすいような工夫をしました。第4の取組では、顧客アンケートを実施し新規メニューの開発と店頭での宣伝強化を図りました。
これらの取組により、売上が伸び、実に13%の労働生産性向上に成功しました。

事例2 <中食事例>不良品発生の原因分析と器具導入で33%労働生産性がアップ

中食みすずコーポレーションの取組事例

中食みすずコーポレーションの取組事例
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1902年創業の株式会社みすずコーポレーションは、明治から続く食品メーカーであり、長野県長野市を拠点にこうや豆腐や油揚げなどの製造を行っています。
中食産業は、人手を要する工程が多く、労働生産性が低いのが現状です。同社も、毎日発生する不良品による廃棄ロスや作業工程の非効率性などの課題を抱えており、労働生産性の改善を検討していました。そこで、コンサルタントとともに不良品防止と作業効率アップに向けた対応に乗り出しました。

はじめに、毎日油揚げの不良品が発生する理由を追及するべく、原因分析を行いました。すると、油揚げ製造に使用する撹拌機に原因があると判明。撹拌機に付着した凝固物が油揚げに混入すると、生地がボコボコと固くなってしまい良品が製造できないことがわかりました。この凝固物を取り除くために吸引器を導入し凝固物を除去したところ、固くなった生地の不良品が減り、42%もの廃棄ロスの低減につながりました。
また、油揚げを入れたコンテナを運搬する際、作業時間がかかっていたため、スムーズに作業工程が進行するようコンテナを滑らせて移動させる器具を導入し、効率化を図りました。その結果、33%の労働生産性向上につながり、作業員数や作業時間の削減に成功しました。

関心のある手法から少しずつ実践してみてください

中小企業に向けたメッセージを語る新藤光明外食産業室長

中小企業に向けたメッセージを語る
新藤光明外食産業室長

「外食・中食の生産性向上に向けた手引き」は、大型設備投資や自費でコンサルティング依頼をするのが難しい中小の外食・中食企業の皆さまにおすすめです。
また、大手企業であっても、フランチャイズ展開しているようなところであれば、労働生産性向上について検討している店長やマネージャークラスの方もいらっしゃるかと思います。そのような役職の方にも役立つ一冊となっているほか、担当領域外の方でもわかるように、用語集なども掲載しています。生産性向上に向けて活動の進め方が分からない方は、本手引きで関心のある内容や取り組みやすそうなものから挑戦していただき、少しでも改善に向けて取り組んでいただきたいと思います。

外食・中食産業の競争は激しく、近年は人手不足問題が深刻です。ITツールや大型設備も効果的ですが、それらを導入する前に現状の業務内容や作業工程を見直すことで、コストをかけなくても労働生産性を上げることも可能です。本手引きはもちろんのこと、さまざまな支援制度を活用し、労働生産性の向上に向けて取り組んでいただくことで、「稼ぐ力」を伸ばしていただければと思います。




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