Vol.72 災害時の早期の事業再開のために!~BCP(事業継続計画)策定をはじめよう~

近年、我が国では大規模な自然災害が多発しその被害が甚大であることから、事業を継続できずに廃業・休業に迫られる中小企業や小規模事業者が増加しています。
企業が自社の事業を継続していくためには、災害などの緊急事態に備えて自社の損害を最小限に抑え、早期復旧・復興を可能にするための行動を整理し取り決めておく「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)を策定することが重要になります。
今回は、その概要や策定することで得られるメリット、成果を得た企業の事例などを取り上げ、紹介します。
※本記事は、2018年9月4日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

事業継続計画(BCP)の概要

事業継続計画(BCP)とは

「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)(以下「BCP」という。)とは、自然現象や人為的原因により発生する災害などの緊急事態に備えて、災害時の対応や平常時に行うべき行動をあらかじめ整理し取り決めておく計画のことです。例えば、2011年3月11日に発生した東日本大震災においては、貴重な人材や設備を失った中小企業の多くが廃業に追い込まれました。また、被災の影響が少なかった企業の中でも、事業の復旧が遅れ自社の製品・サービスが供給できなくなり、事業縮小や従業員解雇などで対策せざるを得なかった企業もありました。

このような緊急事態が発生した際、さらなる被害を防ぐためには、緊急時の対応について綿密な計画を立てたり十分な訓練を行ったりと、普段から対策を取る必要があります。
中小企業庁では、中小企業や小規模事業者のBCP策定を支援するため、BCPの概要や策定方法、策定する上でのポイントや発動・運用の方法までを解説しています。

近年における企業のBCPの策定状況

BCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況

BCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況
(クリックすると拡大します)

規模別にみたBCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況

規模別にみたBCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況
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経済産業省「平成29年度ものづくり基盤技術の振興施策」第1章第2節によると、緊急時の対応を想定したBCPや社内規定、マニュアルなどの策定・整備状況について2017年12月に経済産業省がアンケート調査を実施した結果、図「BCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況」のとおり、4,366社の企業のうち6割以上の企業がまだ対応できておらず、全体の3割の企業は策定も検討も行っていないという結果になりました。特に、BCPを策定している企業は全体の2割にも達していません。

次に、図「規模別にみたBCPや社内規定・マニュアルなどの整備状況」をみると、大企業では8割の企業が対応済みであるのに対して中小企業は3割程度にとどまっており、企業規模による取組程度の差は極めて大きいことがわかります。特にBCPの策定率に注目すると、大企業は半分以上がBCPを策定しているのに対して、中小企業は13.7%しか策定しておらず、その差は歴然としています。これらのことから、我が国の中小企業のBCP策定状況は遅れており、企業存立を考える上で軽視できない問題であるといえます。

中小企業・小規模事業者におけるBCP策定の重要性

地震や豪雨などの大規模災害やテロ攻撃によって事業が中断されると、企業の存立のみならず地域経済にも深刻な影響が懸念されます。近年は大規模な災害が多発しているため、被災後に速やかに中核事業が再開できるよう、対応や方法などの計画を定めるBCPの必要性が高まっており、専門家派遣制度などを活用して策定を進める企業が増加しています。
今回、50社以上のBCP策定を支援している中小企業診断士の大石徹さんにお話を伺いました。

中小企業・小規模事業者のBCP策定はいまだ普及段階

中小企業診断士 大石徹さん

中小企業診断士 大石徹さん

現在の我が国における中小企業や小規模事業者のBCP普及状況は、まだまだ「普及途中」であるといえます。大きな災害があると注目されますが、時間が経過するにつれて急速に意識が風化してしまい、結局、手付かずで終わってしまうのが現状です。中小企業や小規模事業者にとっては、慢性的な人手不足により通常の業務を遂行するので精一杯であるため、なかなかBCP策定に手間と時間をかける余裕がないのだろうと考えています。
しかし近年は、台風や水害、地震といった自然災害が頻発しその被害が甚大であるため、世間でのBCPの必要性は徐々に高まっていると思います。

また、既にBCPを策定している企業も、さまざまな災害に備えて新たな対応策を検討する必要があります。例えば、猛暑もBCP策定で取り上げるべき課題として挙げられます。猛暑は、冷房を設置していない職場や工場で働く従業員にとって身体的負荷が大きく、労働災害に発展しかねない大きな問題です。実際に、厳しい暑さが原因で職場の環境に我慢できず退社した従業員もいるという事例もあります。
これらの状況を鑑み、従業員の安全確保や事業の早期復旧・復興に取り組み、企業存続を実現するためには、中小企業や小規模事業者のBCP策定は非常に重要であるといえます。

私は、静岡県全域にて商工会、商工会議所、地域金融機関と連携し、中小企業・小規模事業者のBCPの策定を支援しています。
静岡県は、ものづくりに係る企業が多く所在している他、以前から南海トラフ沿いで想定される大規模地震「東海地震」による影響が危惧されていたこともあり、他県よりもBCPや防災に対する意識が高い県でした。そのため、BCPの策定に関する支援制度は充実しており、静岡県では「静岡県事業継続計画モデルプラン」を定め、また、静岡県信用保証協会ではBCP特別保証予約という制度を設け、広く公開しています。静岡県のBCPモデルプランは3版まで公表されており、企業の策定事例なども紹介しています。

BCPを策定することで得られるメリット

BCPを策定する上で、災害時の対策だけではなく、平常時にもさまざまな効果が期待できます。
BCPを策定・運用することで得られる大きなメリットは以下の3点です。

  • (1)企業の信頼性が高まる
    BCPを策定することで、取引先や社外、市場からの信用が高まり業績向上や事業拡大が期待できます。例えば、取引先開拓を目的に、BCPに関する取組を公開して自社をPRする企業もいます。また、入札案件などの評価点において加点対象になる場合もあります。
  • (2)日々の経営管理が再確認できる
    BCPを策定するにあたり、業務フローの見直し、在庫水準の見直しや顧客構造の実態などが再確認でき、平常時の業務改善や生産性向上につながります。また、避難経路の確保や安全性を重視するために「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」を実施することで、日常の業務が効率化され生産性向上が見込めます。その他に、緊急時の代理人材や応援者の確保について検討することで、人材育成・技能伝承の重要性を意識し、今後の人材採用にも活かすことができます。
  • (3)自社の情報資産を守れる
    経営には、さまざまな情報資産やシステムが重要です。それらに対して、バックアップ策や二重化策(システムの2系統化)などについて検討することで、情報資産に係るリスクに対応することができます。

BCP策定によって成果を上げた企業事例

BCPを策定したことで、平常時の業務が見直され生産性向上に成功した他、企業の信頼性の向上につながった中小企業を2社紹介します。

事例1 BCP策定により生産性が向上、他企業との連携を目指す

金型製造の様子(イメージ)

金型製造の様子(イメージ)

静岡県内に立地するA社は従業員30人ほどの企業であり、連続プレス機用の金型製造を営んでいます。ある日、取引先からBCP策定状況を問うアンケートが届いたものの、BCPについて全く知見を持っていなかったA社社長は金融機関に相談。アンケートを機に静岡県産業振興財団の専門家派遣制度を活用して、BCPを策定しました。

特に力を入れたのは災害時における人材の問題です。緊急時に特定の工程を担う従業員が不在である場合、作業工程が進まず事業を再開できません。一方で、中小企業や小規模事業者は専門技術を有する人材が限られているという実態があり、A社も例外ではありませんでした。そのため、複数の作業を同時または短期間に並行して実行する多能工化を進めるための方法を検討しました。

これらの結果、人材育成や技能伝承について見直しを図れたとともに、平常時の業務改善につながりました。また、例えば冬季の夕刻以降に大規模地震が発生したケースを考えた場合、工場内は停電により、暗闇になってしまう事を想定し、それぞれの従業員の持ち場に懐中電灯を導入したことで避難経路や職場の安全性を確保できました。それだけでなく、「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」を実施したことで端材の処理や工場の物品整理がなされ、避難経路の確保や業務の効率化が実現しました。

事例2 BCP策定が従業員の意識向上に寄与

復旧作業の様子(イメージ)

復旧作業の様子(イメージ)

B社は従業員20人ほどの建設・土木工事業を営んでいます。受注先は民間の一般建設・土木や公共土木工事を主体としています。B社は地震や風水害など大規模災害が発生した際、行政との災害協定により、即時出動し、道路インフラの確保のための土砂や倒木、がれきの撤去作業などに対応しなければならず、その社会的優先度の高さから、適切かつ迅速な体制づくりが必要とされていました。そのため、BCPを策定することによって、自社の体制について見直しを図りました。BCPの普及に熱心な地元商工会の協力を得て、BCP策定に関するミラサポの専門家派遣制度を活用することができました。

B社が計画したBCPの大きな特徴は、「平常時」と「災害時」でそれぞれ優先するべき事業を分けた点です。災害時において、B社は上述した行政との災害協定により、公共土木を優先する必要があります。そのため、重機やそれを運搬するトラックの不備、燃料不足などを防ぐため、普段からメンテナンスや燃料の確保に取り組むことをBCPに定めました。
B社は、BCP策定を全社計画として取り上げ、社長と従業員が一丸となって行動しました。その結果、自社の事業に対して社会的優先度の高さを実感した従業員のモチベーションが向上しました。また、現場や資材倉庫の整理整頓を実施したことで業務効率化や安全性の確保も実現。建設・土木業は地域住民にとって重要な存在であり、B社は早急な復旧・復興対応に向けてさらなる検討を進めています。

BCPで終わることなくBCMに取り組み、見直しを図りましょう

中小企業診断士 大石徹さん

中小企業診断士 大石徹さん

緊急事態において、事業を早期復旧させることは、中小企業や小規模事業者の皆さまにとって自社の顧客や商圏を守ることになり、自身の「生活を守る」ことにつながります。また、BCPを知らない方や優先度が低いと感じている方が多いと思いますが、BCPを策定することは、災害対応だけではなく、日頃の業務改善や人材育成、技能・技術の伝承にもつながります。例えば、平常時の対応として5Sなどの整理整頓を常に行ったり、BCPを災害時に発動・運用できるように企業訓練を行ったりすることで、新たな問題点や課題を見つけることができます。

従業員を守るための社内体制づくりも重要です。私がBCP策定の支援をした企業の中には、従業員に対して家屋の安全確保に関する防災教育を行っている企業もあり、事業継続に欠かせない技術を持つ「ヒト」の存在を非常に大切にしています。
このように、BCP策定は自社の存続や安全確保の体制が構築されるだけでなく、経営戦略にもつながるのです。中小企業や小規模事業者の皆さまは、まずBCPを策定するところから始めてみましょう。

近年は、BCPを包含する形で「事業継続マネジメント」(BCM:Business Continuity Management)(以下「BCM」という。)という管理プロセスが登場しています。BCMは、BCPの策定や維持および更新、BCPを有効に機能させるための教育や訓練および点検、災害に対する事前対策や改善活動までを行う平常時のマネジメント活動です。BCMに取り組むことで、計画(プラン)を立てて終わりではなく、最新の情報を取り入れつつ継続的に見直しを図ることができ、BCPの効果がアップします。既にBCPを策定している企業の皆様も、支援機関や取引先と連携しながら、「防災」という土台をしっかり形成した上で、企業存続と従業員の安全確保に向けた戦略を立てていきましょう。

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