Vol.73 災害時の早期の事業再開のために!~BCP(事業継続計画)策定をはじめよう~

超高齢社会を迎えた我が国では、人口の減少局面に入りました。生産年齢人口はピークである1995年の8,716万人から減少を続けて現在は7,600万人を割り込み、2018年(上半期)の人手不足倒産は過去最悪のペースといわれています。
では、2030年にはどのくらいの働き手が不足するのでしょうか。そして、中小企業の皆さまにとってより深刻な「働き手がいない」状況を防ぐには、どんな対策を取るべきでしょうか。
2018年10月に株式会社パーソル総合研究所および学校法人中央大学の共同研究により発表された「労働市場の未来推計2030」をもとに、そのヒントを探ります。
※本記事は、2018年10月23日の中央大学経済学部の阿部正浩教授への取材をもとに執筆・掲載しています。
※本文中の図は、全て「労働市場の未来推計2030」から引用しています。

2030年にどのくらい人が足りなくなるのか

2018年10月23日、総合人材サービス大手のパーソルグループのシンクタンクおよびコンサルティングファームである株式会社パーソル総合研究所(東京都渋谷区)と学校法人中央大学経済学部 安部正浩教授は、共同研究として取り組んできた「労働市場の未来推計2030」の成果を発表しました。
同研究は、2016年にパーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計2025」の推計結果の精度を上げることを目指して行われました。今回の「労働市場の未来推計2030」は少し先の未来を見通すべく、前回の5年後である2030年を推計対象にするとともに、前回より高度化した手法で推計したといいます。前回とは別の手法を用いて推計しているため、その値を引き継いではいません。

「労働市場の未来推計2025」では、2025年に「583万人の人手不足」を掲げていましたが、2030年にはどのくらいの人が不足するとされているのでしょうか。その推計結果を、以下に紹介します。

2030年には644万人の人手不足と推計

報道発表する中央大学経済学部 安部正浩教授

報道発表する中央大学経済学部 安部正浩教授

2018年10月23日、パーソル総合研究所および中央大学により、同研究の報道発表が行われました。同研究によると、2030年に見込まれる労働需要7,073万人に対し、労働供給(就業者数)は6,429万人で、差し引き644万人の人手不足が見込まれるとしています。併せて、2020年の人手不足は384万人、2025年は505万人と年々、人手不足が深刻になっていくと予測しています。

阿部教授による推計方法の説明によれば、実質GDPや消費者物価指数、時間あたり所定内給与により導出される「労働需要」の値と、将来推計人口や時間あたり賃金、消費者物価指数などにより導出される「労働供給」の値をもとに、消費者物価指数や交易条件を考慮して算出したといいます。また、同研究のため設定された、主な前提条件は以下のとおりです。

前提条件としての実質GDP成長率

前提条件としての実質GDP成長率
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(1)2019年以降の「実質GDP成長率」を一律に年1.2%と設定。これは、政府による「中長期の経済財政に関する試算」(2018年1月、内閣府)で掲げられた2つの試算のうち、「ベースラインケース」(低成長ケース)にあたる成長率です。

(2)人手不足の進行に伴い、賃金(実質時給)が高まっていくことを条件としています。パーソル総合研究所と中央大学によると、2017年に1,835円であった賃金が、2030年には2,096円になると試算しています。

(3)今回の推計では、あくまで従来の技術トレンドで発展した場合としていて、AIやロボットなどによる加速度的な技術革新が起こる場合を想定していません。

阿部教授は「前提条件が変われば推計結果も変わります。この前提のもとでは、644万人は妥当な数字」と説明しました。

足元の人手不足の状況が、悪化すると予想

足元の人手不足の状況

足元の人手不足の状況
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ここで、報道発表でも示された、足元の人手不足の状況を紹介します。
人手不足はよりいっそう深刻化しており、2018年5月の有効求人倍率(季節調整値)は44年4ヵ月ぶりに1.6倍台に達しました。2007年から2008年にかけて起こった世界金融危機の以後から右肩上がりに上昇を続けています。また、株式会社帝国データバンク(東京都港区)の調査によると、従業員の離職や採用難などにより収益が悪化したことなどを要因とする「人手不足倒産」の件数が、2018年は上半期に70件発生し、過去最悪のペースであるという結果も示されています。

産業別、職業別、都道府県別の数値

産業別の人手不足の状況

産業別の人手不足の状況
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今回の推計で示された「644万人」の数字を産業別にみると、特に人手不足感が強いのが「サービス」「医療・福祉」の分野で、サービス業では実に400万人の人手が不足。一方で、建設業などでは労働需要が増えず、「人余り」の状態になると予測されました。
職業別では不足感が強い順に、研究者や製造技術者、医師など「専門的・技術的職業従事者」の212万人、「事務従事者」の167万人と推計しています。専門的でレベルの高い職業で不足の度合いが高い結果となりました。 都道府県別の数値では、東京・神奈川をはじめとする首都圏や中部、近畿地方といった都市圏で深刻な人手不足が起こるとみています。これらの地域には特に人手不足感の強い産業とされた、「サービス」「医療・福祉」の事業所が多く立地していることも理由として挙げています。

人手不足を解消し得る4つの対策

同研究では、この644万人もの人手不足を解決するための対策案も示されています。それは以下の4点です。

(1)働く女性を増やす

対策:働く女性を増やす

対策:働く女性を増やす
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女性の労働力率(就業率)は、「25-29歳」に結婚・出産をきっかけとして仕事を辞め、育児などが落ち着く「45-49歳」に再び就業する「M字カーブ」とよばれる現象が、縮小傾向にあるものの残っているのが現状です。そこで、「25-29歳」の労働力率88.0%が「45-49歳」までそのまま継続すると仮定した場合、102万人の労働力が確保できる計算になります。実現するには、389.7万人の児童を受け入れる保育サービスの受け皿が必要となります。2017年4月時点に存在する保育の受け皿(273.5万人)を差し引いても、追加で116.2万人分の受け皿が必要だと指摘しています。

(2)働くシニアを増やす
2030年のシニア(60歳以上の男女)の労働力率の推計は、男性では「60-64歳」の80.9%を境に、女性では「60-64歳」の70.0%を境に大きく減少することが見込まれています。このとき、男性は64歳の労働力率80.9%が69歳まで続くと仮定、女性は60~69歳のうち70%の人が働くと仮定すると、合わせて163万人の人手が確保できる計算になります。

(3)働く外国人を増やす

対策:働く外国人を増やす

対策:働く外国人を増やす
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外国人労働者の受け入れ拡大に向けて新たな在留資格の創設に取り組む政府(2018年6月の経済財政運営の基本方針)では、「2025年ごろまでに50万人超の受け入れを目指す」と表明していました。仮にこれと同様のペースで2030年まで外国人労働者が増えた場合、2017年現在の外国人労働者数と比べると81万人が増加する計算になります。

(4)生産性を上げる

対策:生産性を上げる

対策:生産性を上げる
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同研究では、上述の(1)-(3)までの対策が有効に作用すれば、計346万人の人手が確保できるとしています。そして、644万人に対する残り298万人を補うためには、生産性向上が必要であるとしています。
2030年に見込まれる労働需要7,073万人のうち、298万人分を削減するには、少なくとも4.2%の生産性向上が必要となります。経済協力開発機構(OECD)が2016年に発表した調査結果によると、自動化可能性が70%を超える労働者の割合は日本において7%。よって2030年までに自動化が十分進むと仮定すると、4.9%の工数が削減できることになります。したがって、同研究では生産性向上により298万人分の労働需要をカバーすることは可能としています。

国や企業はこれまで以上の賃上げの努力を

前提条件としての賃金の上昇カーブ

前提条件としての賃金の上昇カーブ
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推計結果の締めくくりとして、阿部教授は以下のように提言しています。

――「644万人」は、実質賃金が時給換算で2017年時点と比較して261円上昇した状態における不足人数であり、もし賃金の上昇がここまで到達しないと、不足はさらに大きくなります。国や企業はこれまで以上に賃上げの努力をすべきといえます。また、実際には労働市場が求めるスキルと労働者が持つスキルとの間にミスマッチが生じる可能性が高いため、国や企業は労働者に対する教育訓練の実施などで継続的な能力開発の支援を行うことが求められます。

働くシニアを増やすには、女性の労働力率を上げられるかどうかが重要なポイントとなりますが、「介護を必要とする人の増加」が、女性の労働参加を妨げる可能性があります。国や企業は、介護をしながら働くことが可能な社会を作っていくべきであるとともに、シニアの雇用には精神的・身体的なさまざまな課題があることから、これへの対策も必要です。
人材不足の担い手として外国人労働者には期待が寄せられる一方で、外国人労働者が増加することで平均賃金を大きく低下させる懸念もあります。働く場所として外国人に選ばれる国となるべく、労働条件の改善も並行して行っていくべきと考えます。

人手不足に悩む中小企業へのメッセージ

報道発表後の阿部教授に、中小企業に見られがちな課題とその対策として取り組んでほしいことを伺いました。

中小企業へのメッセージを語る阿部教授

中小企業へのメッセージを語る阿部教授

――中小企業の人手不足を解消するためには、単に「大企業と比べて賃金が低い」という問題だけでなく、従業員の働く環境や処遇を変えることが必要です。また、「機械化」による生産性向上も有効です。機械化は、AIやロボットなどの先進的なものである必要はありません。それまで手で行っていた作業をパソコンで代替するというのも、立派な生産性向上の手法といえます。

本研究では企業規模別の推計は行っていませんが、大企業と中小企業とを比較すると、同じ条件であっても、後者のほうがより人手不足感が強まっている印象です。私がこれまで研究してきた中では、オンリーワンの企業になるためには「普通じゃないこと」に挑戦することが打開策になると考えています。従来の慣行を打破してでも、新しいことをやっている会社が成長していると思います。
数年前に公益財団法人日本生産性本部とともに、企業を対象とするコンサルティング事業を行いました。人手不足を課題に挙げる企業の経営者の中には、「賃金を上げてみては」「福利厚生を良くしてみては」というアドバイスを聞いても、「今までやったことがないから」と否定から入る方が多くいました。何事もやる前からうまくいくかどうかは分かりません。はっきりと分からなくても「やってみよう」という精神が大事だと思います。

例えば医療・福祉のような、多くの人手を必要とする労働集約型の産業では賃金が上がっておらず、現在でも厳しい人手不足の状況にあります。このような産業で賃金上昇が実現できれば、市場全体の賃金が上がることになります。それによって増加する人件費は、サービス価格に反映させればよいのです。
一方で、例えば製造業が生産性を大きく向上させ、それほど人手を必要としなくなれば、その分の人材は医療・福祉の産業に流入すると思われます。市場全体のためにも生産性向上が求められています。

本研究は、政府がベースラインケースとして定める実質GDP成長率(年1.2%)を前提に推計しました。裏を返せば、人手不足を解消し、生産性を向上させなければ経済成長が見込めないということになろうかと思います。経済成長のためには、例えば生産性を上げる企業には補助金を支給するなど政府の対応がますます求められてくると考えています。また、女性やシニアのさらなる就業が実現するためには、所得税の配偶者控除や在職老齢年金の仕組みなど、税制や年金制度における課題もあります。賃金が上昇したとしても、働いたら働いた分だけ報われる制度でなければ、女性やシニアの働く時間は減ってしまう一方になります。

中小企業の皆さまに繰り返しお伝えしたいのは、「従来のやり方に固執せずにやってみる」ということです。ただし、他の会社でうまくいっているからといって、そのまま取り入れたらいいというものでもありません。たとえ下請事業者であっても「生産性向上は見込めない」と諦めてしまうのではなく、その技術を活かし、新たな事業にチャレンジするなど、自社に合ったやり方でやってみることで、生産性の向上などが期待できるのではないでしょうか。




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