「まちゼミ」の伝道師が語る、小規模店舗を活性化する極意

商店街にある店舗の店主やスタッフが講師となって、店内で無料講座を行う「まちゼミ」による個店、地域および商店街の活性化の取組は、2003年に愛知県岡崎市で始まり、現在は全国の約370地域に広がっています。
まちゼミをはじめとする「小規模店舗の活性化策」について、その取組のコツや効果的な始め方を岡崎まちゼミの会 代表の松井洋一郎さんに伺いました。
※本記事は、2019年1月15日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

商売につながる商店街の活性化策

地域や商店街にある店舗内で無料講座を行う「まちゼミ」が、全国で行われています。
なぜ、まちゼミは全国に広がったのでしょうか。その経緯や現在の取組などを、2003年に愛知県岡崎市でこの活動を始めて全国にまで広めた、岡崎まちゼミの会 代表の松井洋一郎さんに伺いました。

店主やスタッフが講師となる

松井さん

松井さん

「得する街のゼミナール」、通称「まちゼミ」は、商店街の店舗の店主やスタッフが講師となり、プロならではの専門的な知識や情報、コツを受講者である来店客に伝える少人数制の講座です。地域住民に店舗の存在や特長を知ってもらうとともに、店舗や店主のファンになってもらうことで、個店と商店街の活性化を図ります。
現在、全国約370の地域でまちづくりの事業として実施され、成功しています。

岡崎まちゼミの会は、約100名の会員を有し、その事務局はまちゼミで成果を収めた商業者を中心に10名で活動しています。同会では、まちゼミの実施を目指す全国の商店街などから依頼を受け、まちゼミの実施に向けた指導や普及の活動に取り組んでいます。

家業の活性化のため、まちゼミを実施

まちゼミの開講風景(簡単ラッピング講座)

まちゼミの開講風景(簡単ラッピング講座)

私はOA機器販売会社で5年間勤務した後、家業である化粧品専門店の株式会社みどりや(愛知県岡崎市)に入社しました。同地で生まれ育ちましたが、家業に戻った時は「これほどまでに街は衰退してしまったのか」と驚きました。
それまでにも、商店街主催で仲間らによるイベントや祭りは行われていましたが、なかなか個店の商売繁盛にはつながらない状況でした。そこで個店が客を増やすための手法として、商工会議所の担当者らの提案で、まちゼミを2003年に岡崎市の10軒の商店とともに全国で初めて実施しました。
それ以来、少しずつ成果が見えてきて認知度も高まり、参加店舗も増えていきました。商売につながる商店街の活性化策として住民にも定着し、その評判から全国にも広がってきています。

現在のまちゼミの実施ノウハウは、PDCAサイクルを回す活動を繰り返す中で、徐々に確立されてきたものです。他の地域でも展開していくために、全国で研修活動などを行っています。

ノウハウを継承して信頼を守る

三方よしの活性化事業

三方よしの活性化事業
(クリックすると拡大します)

まちゼミの良さは、「個店」「来店客」「街」のどれもが良い結果となる、「三方よし」の事業であることです。実際に、受講者の満足度はアンケート調査でも97%以上であり、参加した店舗の実に84%は売上につながった、というデータも得られています。
この満足度を保つ秘訣は、クオリティの維持を重視していることです。受講者の信頼を守るため、参加店のメンバーに「参加説明会」や「事前説明会」を行い、また、終わった後には「結果検証会」を毎回実施し、参加店同士が学び合う機会を作っています。

全国のノウハウを提供

参加説明会の様子

参加説明会の様子

初めて参加する店舗の人にも、参加説明会の中で「まちゼミ」がどのような事業かをしっかり理解してもらいます。また、受講者に喜んで参加したくなるような内容やタイトルなどを、参加店の皆で検討します。
まちゼミのロゴを付けて実施してもらうからには、岡崎まちゼミの会ができる限りのノウハウは提供します。他の地域のアンケート結果などを参考にすることで、たとえ初めて実施する地域であっても、店舗ごとの格差がなく、安心して参加できるイベントになるのです。
このように、まちゼミは過去の積み重ねで精度を高めてきています。

他にも、1回当たりのゼミの参加者を3~10人程度に抑えること、1時間の講座なら店主の話は20分以内にして、残りは参加者同士のグループワークや感想を話し合う時間とすることなど、参加者の満足度を上げるポイントはたくさんあります。
受講料は無料で、支払ってもらうのは材料費などのみとしている他、ゼミの間は決して商品の宣伝をしないことをルールとしています。受講者に店主や店舗のファンになってもらうことで、自然と「この店で買いたい」と顧客のほうから来てもらえるのです。

全国の地域で効果を上げるには、良い事例を共有することが重要と考えています。全国で同じアンケートを使って効果を測定することで、成功するノウハウがよく分かります。このような事例やノウハウは、数年に1度の「全国まちゼミサミット」の他、県や商工会議所主催の交流会などで、全国約370地域の事務局やリーダーと共有しています。

新規客の増加と離店客の防止に有効

まちゼミに参加した店舗の成功事例を、「新規客の増加」「離店客の防止」の2つの視点から以下に紹介します。

新規客の増加事例(1):粘り強く参加して受注につなげ、新規事業も

補聴器のデコ講座

補聴器のデコ講座

用途ごとにカスタムした補聴器を提供する、株式会社あいち補聴器センター(愛知県岡崎市)。代表取締役の天野慎介さんは、2010年から「初めての補聴器講座」を実施しています。
大勢が参加しましたが、高価な商品で購入になかなか繋がりません。「他店では来店が増え、売上が上がったと聞き、お礼状を出したり、他店のまちゼミを訪問したりとできることは何でもしました」と天野さん。

まちゼミ参加から3年目、「あなたから補聴器を買いたい」という人が訪れました。それは初回の受講者で、以降、受講者らから次々と注文がありました。
天野さんは手応えを感じ、新たに補聴器「デコ講座」を開講。携帯電話のデコレーションのように、難聴の子など向けに補聴器をきれいに飾る講座です。
売上はまちゼミ前の倍になり、スタッフも3人増員。年5,000件の相談やメンテナンスに応じています。現在はスタッフがまちゼミ講師も務め、人材育成にも役立っています。

新規客の増加事例(2):親密なコミュニケーションで、利益伸長

みどりや 店舗外観

みどりや 店舗外観

松井さん自身も、まちゼミで成果を上げた店主の1人です。かつては名古屋に次ぐ商業集積地だった愛知県岡崎市の商店街で90年以上続く化粧品店、株式会社みどりやを営みます。市内の商店街では量販店の進出やネット通販の影響で、最盛期の半数まで商店が減少しました。
そのような中でも、松井さんは小規模店舗の強みを、次のように語ります。
「例えば、通販で『私の肌にはジェルかクリームどちらが合いますか』と聞いても答えてくれません。けれど、私たちは喜んで知識を伝え、相談に乗り、あれこれ世話を焼いてしまいます。商人にはお客さまに喜んでもらいたいプライドがあるのです」

まちゼミでは、このような親密なコミュニケーション体験が得られます。これにより、受講者の2割は得意客になるといいます。2003年からまちゼミを実施する松井さんの店舗には延べ2,400人が訪れ、売上、利益ともに伸長しました。また、岡崎市ではまちゼミの1年間当たりの累計参加者が、今では4,500人にまで増え、着実に成果を上げています。

離店客の防止事例:売上減少部門の顧客を深耕し、上得意に

ハトヤ 店舗外観

ハトヤ 店舗外観

化粧品やペット関連商品を提供する有限会社ハトヤ(福岡県久留米市)は、当地では入手しづらい高価格帯の化粧品を扱い、ネット通販で多くの顧客を有していました。
ネット通販は深夜対応が求められて費用がかさむとともに、メーカーとの関係性が次第に弱まり、一時は店売りの半分に売上が落ちていました。
ペット部門では毎回まちゼミに参加していた代表取締役の瀧井明さん。この環境変化を受け、2017年からは化粧品部門でも「お肌悩み簡単解決マスク美容法」を開講しました。

これが好評となり新規客が増えた一方で、既存客との信頼を深め、上得意作りや離店客防止に奏功しました。以降の化粧品部門の展開を「提案型」「課題解決型」に定め、既存客との強い関係性が、知人の紹介などにも繋がっています。次の展開として有料制の美容教室など、「既存客の固定化」の実現を目指しています。

小規模店舗のためのメッセージ

活性化に取り組もうとする商店街や小規模店舗に向けたメッセージを、松井さんに伺いました。

マーケティングの実証実験の場

小規模店舗向けの支援は、地域創生のために重要な事業だと思っています。一軒一軒の店舗がその地域にしかない魅力を持ち、街としての機能を担っています。対策を取らないでいたら、街から全ての商店が消えてしまうのも大げさなことではありません。
店舗が残る条件として、「住民に必要とされる存在であり続けること」が挙げられます。経営改善というと、どうしてもコンサルティングの先生に頼ってしまいがちですが、一番の先生は、周囲の住民だということを忘れてはいけません。今後5年後、10年後にも必要とされる存在であり続けるために、場合によっては自ら新しいことに挑戦していくことが必要です。

まちゼミの良いところは、マーケティングの実証実験ができる場でもあるということです。例えば、ピアノ教室が空き時間を利用して健康増進に向けた「歌の教室」を始めたり、理髪店が女性向けの顔そりを始めたりなど、各地で新規事業に結びつける活動が実際に見られています。
特に小規模店舗では、次にやりたいビジョンがあっても、行動しないまま終わることが多くあります。まちゼミは無料なので、次の経営革新につながることを始めやすく、すぐ行動に移せるのです。

まちゼミに留まらない活動を

メッセージを語る松井さん

メッセージを語る松井さん

当然ですが講座のテーマ設定は、より多くの人が「行ってみたい」と思うような内容のほうが良いです。ただ、まちゼミの参加店の9割くらいは個人事業主で、なかなか大衆の目線を持っていない場合があります。
そのテーマの設定を、外部の人、例えば支援機関などが関わってくれることは望ましいと思います。外部のアドバイスを得るには、ミラサポ専門家派遣事業 を活用することなども1つの方法です。また、外部に適切なアドバイスをくれるような人がいない場合でも、グループの内部でリーダーになるような人を作って行うのもよいでしょう。それはテーマの設定や広報の仕方について、「気づき」を与えられるような人のことです。

まちゼミに興味を持った場合は、岡崎まちゼミの会のホームページからお問い合わせいただければ、資料などをお送りします。タイミングによっては、活用できる支援制度を案内できるかもしれません。
ただし、地域や商店街活性化の方法はまちゼミだけに留まりません。店舗活性化のための取組として、まちゼミの基本である「店主や店舗のファンを作る」「また訪れたいと思えるような接客、店作り」を心がけた活動を検討していただければと思います。




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