「中小企業強靱化法(中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律)」が2019年7月12日に公布、7月16日に施行されます。本法律の趣旨や、
近年頻発する大規模災害に備えて中小企業・小規模事業者のみなさまに取り組んでいただきたいこと、そのための支援施策などについて、中小企業庁 事業環境部 経営安定対策室 佐藤 二三男室長にお話を伺いました。
※本記事は、2019年7月8日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。
ミラサポ事務局:まずは、「中小企業強靱化法」とは、どのような法律なのか、概要をお聞かせください。
佐藤室長:本法律は、近年、頻発している大規模災害や経営者の高齢化・事業承継の停滞といった、事業活動の継続が危ぶまれている状況においても、中小企業・小規模事業者のみなさまが事業活動を継続できるよう、人的サポートや税制優遇など様々な角度から事業継続力の強化を応援するための法律です。
本日は、自然災害に対する防災・減災対策を中心にお話をさせていただきます。
なお、経営者の高齢化、事業承継問題につきましては、個人事業者の事業承継(生前贈与)を円滑に進めるために、遺留分(民法上、最低限保障されている相続人の取り分)に関する民法特例を個人事業者へ対象を拡大するなど、対策を進めていきます。
参考資料:中小企業強靱化法案の概要
ミラサポ事務局:本法律が成立した背景についてお聞かせください。
佐藤室長:近年、「100年に一度の災害」と言われるような大規模災害が、毎年のように全国各地で発生しています。例えば、昔は北海道には台風が来ないと言われていましたが、平成28年には4回も上陸するなど、近年、風水害に関しては多頻度化、大規模化が顕著になってきています。
こうした中、災害に対する十分な備えがないまま、毎年、多くの中小企業が被災しており、深刻なダメージを受けています。被災により資金繰りが悪化し、その結果、事業が滞り、最悪の場合には廃業に至ってしまうようなことも生じています。
中小企業庁では、10年ほど前から「事業継続計画(BCP)」(企業が自然災害などに遭遇した際、被害を最小限にとどめつつ、早期復旧を可能とするための計画のこと)の普及活動を行っていますが、BCPの策定は未だ事業者の一部にとどまっている状況です。
ミラサポ事務局:BCPが浸透しない状況を受け、本法律ではどのように変わっていくのでしょうか。
佐藤室長:中小企業庁では、昨年の秋口から、中小企業のみなさま方に防災・減災対策に取り組んでいただくために必要な環境や施策について、有識者にご参加いただき、検討を行ってきました。
その中で、中小企業の経営者は、日々様々な経営課題に直面しており、災害対応の大切さを感じてはいるものの優先順位が低くなってしまいがちであることや、BCPは災害復旧に係る体系的、網羅的な知識等が必要なことから、人手の足りない中小企業にとってハードルが高い取り組みになっていることがアンケート結果等を通じて明らかになってきました。
一方で、BCPという形をとっていなくても災害に対して実効性のある取り組みを行っている事業者もいらっしゃることが分かってきました。例えば、昨年の西日本豪雨で被災された生花店の事例ですが、当社は過去にも水害によって電源系統が全損し、大変な出費に迫られたという経験をお持ちです。そのときの経験を活かし、電源を高所に移し替えた後に、昨年、再び床上浸水に見舞われましたが、電源は無傷であったため、早期に営業再開ができたという事例です。
こうした事例のようにBCPという形ではなくでも、災害に対して有効な対策は数多く存在します。本法律では、自社が取り組みやすい防災・減災対策を、1つでも2つでも考えていただき、それを計画にまとめていただく仕組みを取り入れました。いきなりBCPに取り組むことが難しい事業者の方でも、防災・減災対策の一歩を踏み出すことができるものと考えています。
ミラサポ事務局:「事業継続力強化計画」について、どのようなものか教えてください。
佐藤室長:計画は、事業者が単独で取り組む「事業継続力強化計画」と、複数の事業者が連携して取り組む「連携事業継続力強化計画」の2種類を用意しました。連携の態様は、組合間で取り組む水平連携やサプライチェーンにおける垂直連携、工業団地や商店街等が地域で取り組む面的連携等が考えられます。
計画の認定は最寄りの経済産業局で行います。審査を経て、災害の事前対策を計画する事業者として、経済産業大臣が認定を行います。
認定された事業者のみなさまは、①政府系金融機関の低利融資や、②信用保証枠の拡大、③防災・減災設備に係る税制支援措置(20%の特別償却)を活用することが可能となります。他にも中小企業庁の補助金(ものづくり補助金や持続化補助金等)において優先採択(加点措置)がなされます。
また、認定事業者のみなさま方は、経済産業省が公認したロゴマークを使用することができます。
次に計画に記載していただく主な内容についてご説明します。
(1)目的:取り組みの目的を記載していただきます。例えば、従業員を守る、家族を守る、地域の安全を確保する、会社を継続させる等が考えられます。
(2)想定される災害と被害想定:ハザードマップ等を活用して自社が見舞われる可能性がある自然災害と被害想定を記載していただきます。
(3)災害発生時の初動対応:災害発生時の安否確認や被害の確認、取引先への連絡等を記載していただきます。
ミラサポ事務局:取り組みやすい具体的な対策には、どのようなものがあるのでしょうか。
佐藤室長:事例を2つご紹介します。
事例①
A社は、酒の販売会社を営んでおり、災害発生時の初動として、安否確認を中心に対策を行っています。会社が稼働していない休日や深夜などは社員の確認がとりづらい状況になりますが、この会社ではルールに従い確認が取れる体制を整備しています。これにより災害が発生した場合であっても混乱することはありません。
災害発生時には、停電も同時に起きることがあります。その場合、固定電話が使えなくなることから、安否確認の連絡先は固定電話とともに、携帯電話も登録しておくことが有効となります。
事例②
B社は、生花店を営んでおり、過去に豪雨災害に被災し、電気設備が全損し、生花用の保存冷蔵庫も故障し、復旧費用がかかり、営業再開までかなりの日数を要しました。その時の教訓を活かし、受電設備等を高所に設置しました。昨年再び豪雨災害に見舞われ、床上浸水となりましたが、電気設備は被害を受けず、1階の泥を掻き出した後、2~3日後には営業が再開できました。
水害については、全国の自治体がハザードマップを作成しており、自社が立地している場所の浸水の程度を事前に確認することができます。併せて、水害については、重要な物品を高いところに移動するだけで、被害額を小さくすることができます。お金をかけなくても一手間かけるだけで被害額を大幅に軽減することができます。今日からでも取り組める対応策が多々あると思います。
ミラサポ事務局:計画を策定するための支援施策をお知らせください。
佐藤室長:中小企業強靱化法の計画認定が円滑に進むよう、平成30年度補正予算を活用して強靱化事業を行います。事業は3つに分かれており、「普及啓発事業」と「計画策定支援事業」、「指導人材の育成事業」から構成されています。
まず「普及啓発事業」ですが、強靱化法の認定制度の周知や、中小企業の防災・減災への取り組みを促すシンポジウムを全国9カ所で開催します。内容は、防災・減災対策の専門家による基調講演、中小企業とサプライチェーンの親会社や金融機関等によるパネルディスカッションなどを予定しています。7月31日の東京開催(品川インターシティ)を皮切りに、全国9カ所で行いますので、お近くの会場へ、ぜひご参加ください。
▶中小企業強靱化対策シンポジウム
続いて「計画策定支援事業」ですが、2つの方法でご支援します。
1つ目は、全国47都道府県において「事業継続力強化計画」の策定を模擬体験できるワークショップを開催します。2,000~3,000社の参加を予定しています。
約2時間のプログラムで、いかに計画を立てればよいのか、事例を交えてお伝えし、実際に計画の一部をその場で作っていただきます。
2つ目は、計画作成を予定している中小企業へ、無料で専門家を派遣し、個別に作成支援を行う事業です。
単独事業者の支援を600社、複数企業による連携計画の支援を50グループ程度予定しています。
すでに事業の募集が始まっていますが、ぜひご応募いただくようお願いいたします。
▶事業継続力の強化に向けた『事業継続力強化計画』策定支援