地域のリーダー企業がITを活用し「観光まちづくり」をけん引

兵庫県豊岡市の城崎温泉に地域や行政、教育機関と連携を図り、ITを活用して「観光まちづくり」に取り組む企業がいらっしゃいます。
取り組みの内容はもちろん、どのような課題意識からこのような取り組みを始めたのか、そして今後の展開まで、株式会社西村屋 常務取締役 池上 桂一郎さまにお聞きしました。
※本記事は、2019年6月21日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

クラウド環境を開発し、城崎温泉の魅力を多面的に伝える

ミラサポ事務局:「デジタルサービスの開発」になぜ取り組むこととなったのでしょうか。また、サービス内容をお知らせください。

西村屋 池上氏:城崎温泉には「ひとつの旅館」という発想があります。「駅が城崎温泉の玄関、道路が廊下、それぞれの宿が客室、お土産物屋さんが売店、外湯が大浴場」と捉え、まち全体で繁栄していく「共存共栄の精神」のもと、みんなが活動しています。
そのような環境において、私たち西村屋も「旅館の一員」として、まちに貢献していく責任があります。

城崎温泉にお越しになられる日本人のお客様は、温泉や会席料理、旅館の魅力などをご存知ですが、海外の方にはまだまだ魅力そのものが伝わっていない状況です。
2007年に海外の旅行ガイドブック「ロンリープラネット(Lonely Planet)」で城崎温泉が「ベスト温泉街」に選出・掲載され、海外でも認知されお越しいただくことができました。しかしながら、一過性でお越しいただくだけではなく、一度お越しいただいた方にリピートしていただくことや、数多ある温泉街と差別化を図っていくことが今後においては必要だと考えています。

そこで、国内や海外などとターゲットを分けることなく、また言語の隔てもなく、なるべくリアルタイムに城崎温泉の魅力を発信していくために「城崎温泉プラットフォーム(サービス名:Onsen Cloud)」ともいえるクラウド環境を開発しています。
プラットフォームに各種情報を格納し、その情報をPCやスマートフォンで利用できるウェブアプリケーション(以下ウェブアプリ)として2019年2月から国内で、4月から海外に向けてベータ版の提供を始めました。現在15言語に対応しています。

国内・海外を分けずに考えている理由には、オペレーション的な負荷も考慮しています。一緒の情報を提供する方が、運用側の負荷は軽減します。

ウェブアプリでは、私たち旅館の情報はもちろん、土産物店や飲食店、城崎温泉でのナイトライフの楽しみ方、さらに周辺の観光地の情報をご覧いただけます。
土産物では城崎温泉にしかないものを伝え、同じ豊岡市の観光地である出石や竹野浜海水浴場の情報を一緒に伝えることで、宿泊数も延びると考え、現在準備を進めています。

ひとつの旅館の情報となりますと、お部屋の魅力でしか他の観光地と差別化できないことがほとんどです。それでは城崎温泉の魅力が伝わり切れず衰退の一途だと感じ、様々な情報を提供していく予定です。

なお本事業は中小企業庁の補助金「平成30年度予算 商業・サービス競争力強化連携支援事業(新連携支援事業)」を活用しているのですが、豊岡市の環境経済部 大交流課と、初年度においては京都造形芸術大学の渡辺広之情報デザイン学科長とゼミ生のみなさんと連携させていただきました。
企画にあたっては城崎温泉と豊岡のフィールドワークを行っていただき、観光客の地域回遊を促す企画立案を、3チームに分かれ行っていただきました。

Onsen Cloudウェブアプリ

いつでもどこでも何度でも情報にアクセスできる 「ウェブアプリ」を提供

ウェブアプリ

ウェブアプリ
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ミラサポ事務局:なぜウェブアプリでの提供となったのでしょうか。

西村屋 池上氏:旅館、会席料理ももちろんですが、七つある外湯めぐりを楽しめる城崎温泉は、いわば「日本の温泉テーマパーク」と言っても過言ではありません。そんな温泉だけでも旅館だけでもない城崎温泉の魅力を、旅行の計画を立てるときも、城崎温泉に到着された後も、すぐに手元でいつでもどこでも何度でも情報にアクセスできる「ウェブアプリ」を通じて、城崎温泉の魅力を国内、海外のみなさまにお届けしたいと考えています。

逆に私どもとしましても、城崎温泉の新たな顧客層である海外のお客様のニーズを把握し、今後のまちの運営に生かしていくことができるのではないかと期待している次第です。

3つの組合を中心にまち全体で連携を図る

ミラサポ事務局:プラットフォームに格納される情報は、どのように各店から集めているのでしょうか。

西村屋 池上氏:城崎温泉には旅館組合と物産組合、飲食店組合があり、各組合から「Onsen Cloud」への協力の基本的な合意をいただいています。各店舗の皆様には、組合を通じて協力依頼を行った次第です。
組合に入っていない方へは順次お伺い・ご説明し、情報提供をお願いしています。

随時増減はありますが、旅館70施設、飲食店(テイクアウト含む)50施設、物販(土産物店含む)30施設、観光施設30地点、その他20施設の約200施設が掲載されています。

ウェブアプリの中にはマップが掲載され、各店の基本情報まではセットが完了しています。 しかしながら、本来リアルタイムの情報は、それぞれの店主・店舗に入力いただかなければなりません。 城崎温泉はまちを盛り上げる意識の高い人がたくさんおられますので、日々の更新に関してご協力を促しているところです。

ウェブアプリは、お客様とお店をつなげるツールです。各店にうまく活用していただければ、まち全体が盛り上がっていくものと信じています。

外部データ・企業と連携し、城崎温泉の魅力を増幅

ミラサポ事務局:今後、この事業はどのような拡張を計画しているのでしょうか。

西村屋 池上氏:機能的な拡張においては、ウェブアプリによって城崎温泉のお店や周辺観光地を知り、そこへ「行きたい」と思っていただいたお客様を、その場所まで連れていく取り組みを進めていく予定です。
具体的には「Onsen Cloud」と、交通サービスを提供する企業様のMaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス)とを連携し、ウェブアプリを介してお客様にシームレスな移動を提供したいと思っています。

また、各旅館がそれぞれ個別のPMS(宿泊予約や販売価格、残室数、料金清算といった客室に関する情報を一元管理できる仕組み)やインターネット上でプランや客室の販売を行う旅行会社のサービスを活用していますが、 その情報を「Onsen Cloud」上でデータ連携したいと考えています。

<ミラサポメモ>

MaaS は、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、 シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念である。利用者はスマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃等の決済を行う例が多い。
(出典:国土交通政策研究所)
「Onsen Cloud」に、いつ・どの国から・何人・素泊まりなのか食事付きプランなのか・ファミリーなのか友人同士なのかなどの顧客情報を集約し、町全体で分析できるようになると、ターゲットを考慮した上での宿泊販売が行えますし、飲食店では素泊まりの宿泊予約状況に応じて仕入れの共同購入なども検討でき、原価を下げることにもつながります。 また、イベントなどもお客さまの属性に合わせて企画できるようになれば、クチコミを誘発することができお客さまを介した認知にもつながっていきます。特にインバウンドを狙う場合には、お客さまの言の葉に乗らなければ、新たな顧客の獲得にはつながっていきません。

データ連携が実装されると、この「Onsen Cloud」に参加するメリットを、各店により還元できるようになります。
分析などマーケティングに係る領域を地元のDMOが引き取り、各旅館や店舗の経営者はそのデータを活用したサービス・商品開発などに取り組んでもらう事が、更なるまちの魅力アップや他観光地との差別化に繋がると考えています。

温泉をメインとした観光地の競合もたくさんあります。
そのような状況において、複数の側面から魅力を伝えられれば、初回の来訪を促すことができます。ただ2回目、さらに3回目とリピートでお越しいただくためには、期待を超える体験を提供しなくてはなりません。

そのキーワードは「人」だと考えています。旅館では女将さんや客室係さんが魅力的であると、またお越しいただける比率が飛躍的に高まります。土産物店においてもご主人の接客に魅力があれば、また会いに来てくださいます。商品やサービスも然ることながら、それらを提供する「人の魅力」が何より大切だと感じています。

ウェブアプリをはじめとしたツールで、まちの魅力を伝えつつ、顧客ニーズを把握していく。そして、そのデータを活用して商品の開発やイベントを企画し、「魅力ある人々」がそれらを提供する。
今後も機能拡張とまちの皆さんのご協力を仰ぐことで、城崎温泉の魅力増幅に努めていきたいと思います。




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