共存共栄の精神で共に成長を続ける、城崎温泉「二世会」

兵庫県豊岡市の城崎温泉には昭和29年に設立された「城崎温泉旅館経営研究会」、通称「二世会」という旅館組合の45歳までの若手が集まる、旅館組合の青年部のような組織があります。
今回のミラサポ総研では、二世会の会長でいらっしゃる泉都観光株式会社 代表取締役社長 藤原 範之様に、城崎温泉に脈々と受け継がれる「共存共栄」の精神、その精神に基づく二世会の活動、メンバー同士が切磋琢磨しつつ連携して経営者として育つ環境について、そして二世会メンバーに支えられて乗り越えたご自身の事業承継についてもお話をおうかがいしました。
※本記事は、2019年6月21日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。

共存共栄精神のもと、人もまちも育つ。城崎温泉二世会

ミラサポ事務局:「二世会」とはどのような組織なのでしょうか。

藤原会長:城崎温泉は共存共栄をモットーとしています。まち全体で繁栄していきましょうという精神が根付いており、「駅が城崎温泉の玄関、道路が廊下、それぞれの宿が客室、お土産物屋さんが売店、外湯が大浴場」と捉え、旅館、飲食店、土産物屋等が活動しています。
幼いころから共存共栄の精神が刷り込まれているので、当然二世会もその精神を受け継ぐ者が集まり、互いに助け合い、刺激しあい、高めあう関係性が自然と築かれています。

二世会は「先輩の話を聞く」学びの場であり、みんなで一緒に育つ環境でもあります。旅館組合よりも二世会はフットワークが軽い組織であるので、チャレンジできる場と認識しています。

ひとつの旅館でやってもできないことが、集まることで解決できることも多々あります。経営している旅館の規模により課題は異なりますが、人手不足の問題をはじめ、「うちはこうやっている」「こんなことを始めてみた」と、近況を報告しながら、相談しあって乗り越えています。

改装をするなどの工事や、新しいことにチャレンジしようとする場合にも、先に取り組んでいる方が、自社の反省含めてアドバイスをしてくれます。みんなで良くしていこうという共存共栄の精神が生きています。

重視する取り組みを代ごとに検討。その時々の課題と向き合う

ミラサポ事務局:「二世会」の取り組みを教えてください。

藤原会長:主な事業として、毎月例会を開き、OB交流会、勉強会、他の観光地への親睦旅行や施設見学、外部から講師を呼んでの講演会などを行っています。
城崎温泉は来年が1300年の節目の年となるので、観光協会・旅館組合とも連携し、二世会でも何かしようかと話し合っています。

下駄奉納板

城崎温泉駅前には「下駄奉納板」があり、各旅館の下駄が奉納されています。4月に「下駄奉納の入れ替え」を二世会が行っています。奉納されていた役目を終えた下駄を、7月に行われる温泉寺薬師堂の薬師まつりで、住職にお焚き上げしていただいています。


本と温泉

取り組み内容は会長が代わるごとに毎年検討をするのですが、今年は勉強会に重きを置こうと思い運営をしています。
2013年に二世会が「本と温泉」を扱う会社を立ち上げました。立ち上げから数年たち、現在の会員全員が深く「本と温泉」を理解している状況ではないので、改めて「本と温泉」を理解する年にしたいと思っています。
※「本と温泉」は、2013年の志賀直哉来湯100年を機に、次なる100年の温泉地文学を送り出すべく、二世会が立ち上げた出版レーベルです。

城崎温泉では豊岡市と共同で、インターンシップの受け入れをしています。学生に城崎温泉に来てもらい、まちの魅力を知ってもらい、就職体験をしてもらう企画です。
通常のインターンシップですと、どこか1つの企業・職場で学んでもらうことが多いと思うのですが、城崎温泉では職場ごとの魅力を知ってもらうのではなく、まち全体の魅力を学生たちに伝えたいと考えています。

そこで、2017年には学生たちが企画を行った「城崎温泉怪談祭」を二世会がサポートし、開催しました。夜に木屋町小路というまちの中心地を100人で大行列する「百鬼夜行」のイベントです。
そのタイミングで各旅館には怪談祭プランを作ってもらい、飲食店にもスイーツクーポンを発行してもらい、赤いジュースに目のような白玉が浮かんだメニューなど、お化けに関連するお菓子を作ってもらうなど、学生たちと共に、まちが一体となりイベントを作り上げました。

また、毎年行われている夏祭り「城崎温泉夏物語」のフィナーレ「灯篭流し」でも、インターンの学生たちに手伝いをしてもらい、まちのイベントを体験してもらっています。

学生インターンを受け入れる狙いは、学生に旅館や城崎温泉というまちで私たちが楽しく働いている姿を見てもらい、興味を持ってもらえればと考えているからです。旅館の仲居さんの仕事はしゃがんだり、立ったりの繰り返しで体力的にもきつく、求人を出しても集まりづらい職業の一つです。しかし、やりがいのある職業であるので、その姿を近くで見てもらい、将来の選択肢の一つとして考えてもらえればと思います。

人生想定外の事業承継。廃業覚悟から決算書を徹底的に勉強し、社長就任

ミラサポ事務局:藤原さんご自身は、ずっと家業の旅館でお仕事されていたのでしょうか。

藤原会長:学校卒業後、大阪の携帯電話販売会社に就職し、営業マンをしていました。その会社が地方に拠点を移すことをきっかけに退社し、城崎温泉に戻りました。
営業マン時代は外回りが多く、日々飛び込みで営業をかけていました。契約が取れないと会社に戻れないような厳しい環境で鍛えられ、その経験が今の旅館業にも活きています。

城崎温泉に戻った頃、家業である旅館「泉都」は祖父が会長を、父が社長を務めていました。父とはなかなか関係性を築くこと難しいのですが、祖父とは気が合い、祖父から家業を手伝うように言われ、「泉都」での生活が始まりました。

最初は役職もなく「フロント」として仕事を始め、同時に二世会の会員にもなりました。また、商工会や地域の消防団にも所属し、様々な団体での活動をスタートさせました。
学生時代も家でアルバイトをしていたので、業務内容はわかっていましたし、当然生まれ育ったまちですから、お客さまに外湯のことなどまちの魅力を伝えることは自然とできました。
ただ、その頃は後継者になるなど、全く自覚もせずにいました。

当然ながらお金や旅館業の専門的な深いことまでは、その頃理解をしていませんでした。
少しして、税理士さんと一緒に決算書を見たのですが、借金がいくらあり、月々いくら返済し、修繕にいくらかかり、給与をいくら払っている、数字ひとつひとつを説明してもらい、売上げよりも借金が大きい事実を知り、衝撃を受けました。

そこで、フロントとしてお客さまを待つばかりでは状況を改善できないと思い、大阪での経験を活かして、営業に転身しました。大阪・岡山・広島・四国・名古屋・東京の観光案内所に行き、個人の旅行会社へもルートセールスをかけるなど活動しました。

専務となったタイミングで、改めて税理士さんと一緒に決算書を見たのですが、前より数字がわかるようになったこともあり、「あかん、まっかっか!」「旅館なんて潰してしまえ!!」とまで、その時は思いました。
億の借金がどうしたら減るかと、税理士さんに詰め寄りもしました。そして、そこから決算書を徹底的に勉強しました。

勉強の成果もあり、2年ほどで経営状況が好転し始め、3年目で借金が減る目途もたち、営業活動によりお客さまが増えていることもあり、30歳で社長に就任しました。

決算書は「成績書」。成績を上げるために仲間と共に前進

ミラサポ事務局:経営についても、二世会のメンバーたちへ相談なさったのでしょうか。

藤原会長:二世会のメンバーはもちろん、旅館組合、商工会、税理士さん、みんなに相談しました。出し惜しみなく、教えあう仲間がいることが城崎温泉の魅力です。
祖父の薦めもあり社長に就任し、「父を追い越すぞ!」と経営者としての覚悟が芽生えましたが、父とは関係性は好転しておらず、業務や経営に関して、一切引き継ぎや教えはありませんでした。その分、二世会のメンバーをはじめとする仲間が、支えてくれました。

社長に就任して2年くらいは、専務として行っていた業務に、社長としての業務が増えた状況で、苦痛の時間が続きました。やっと業績が好転し、決算書の数字が黒字となり、社長就任から続いていた苦痛から抜け出せました。私にとっては、決算書は「成績書」であり、やりがいを数字で確認ができます。

経営者としてはお金を見ることが、一番大切な業務であり、一番難しい業務であると思っています。他社の状況などはわかりませんので、「良いのか、悪いのか」判断できないことも難しさの一因です。また、土地の特徴、調達できる環境などにより原価も変わるので、外の数字はあまり参考になりません。

しかし、同じ環境で商売をする城崎温泉の仲間の状況はとても参考になります。まだ社長に就任する前でしたが、旅館組合の仲間たちと料理の原価率や光熱費などの数字を出し合い、確認する機会に恵まれました。普段知りえない情報を開示しあうことで、改善すべき項目を把握することでき、大変勉強になりました。

また、借金の金利についても、言いづらい内容だとは思いますが、仲間たちに質問をしまくりました。自社の状況を伝えたところ、明確な数値を示してのアドバイスをもらい、税理士さんにアドバイスいただいた水準まで下げる術を相談し、銀行に見積もりを取り、メインバンクを変える決断もしました。

今は、旅館に帰ってきて9年間、節約ばかり考えていた状態から利益が出始めて、経費をどう使うべきなのか、二世会のメンバーたちへ相談をしているところです。
ありがたい状況です。

何もしなくては、何も変わらない

ミラサポ事務局:事業承継の難しさを乗り越えた藤原さんから、これから事業承継を行う方へ、メッセージをいただけますか。

藤原会長:「若いうちになんでもしたらよい」と思います。 振り返ると私も、大赤字を出して、今のような状況はなかったかもしれません。たまたま、うまくいっただけだと感じています。
しかし、何もしなくては何も変わりません。どうなるかわからないけど、やれることから何でもやってみたらよいと思います。




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