少子高齢化のもとで生産年齢人口の減少がさらに進む状況下において、社員のみなさんが働き続けながら育児や介護を行うための雇用環境を整備していくことが重要です。女性についての現状をみると、国立社会保障・人口問題研究所が2015年に行った調査では、第一子出産前後の女性の継続就業率は53.1%(政府目標は2020年までに55%)、介護についても総務省が2017年に行った調査によると、家族の介護・看護を理由とする離職者(就業者)は1年間で約10万人にのぼります。今は対象社員がいないからまだ大丈夫と思っていても、明日にでも状況が変わる可能性はあります。特に介護を理由に会社を辞める人の多くは、スキルやノウハウを持った幹部・中堅社員であり、会社にとっては大きな損失となります。そのような事態を防ぐために、育児・介護と仕事の両立を支援する環境を整えることが必要です。
そのための支援施策などについて、2019年度厚生労働省委託事業「中小企業のための育児・介護支援プラン導入支援事業」を受託している育児・介護支援プロジェクト事務局の山本雅史マネージャー、野崎麻衣さん、中央育児・介護プランナーとして全国の育児・介護プランナーの教育や支援を行っていらっしゃる「仕事と育児・介護の両立支援の専門家」の伊井伸夫さんにお話をお伺いしました。
※本記事は、2019年9月13日時点の取材をもとに執筆・掲載しています。
ミラサポ事務局:「中小企業のための育児・介護支援プラン導入支援事業」の概要を教えてください。
育児・介護支援プロジェクト事務局:「育児」は、申し出た期間をしっかり休んでもらえるように。「介護」については、直接介護をするためだけではなく、一日も早く復帰し働き続けられるように。そのための体制づくりや環境整備などの仕事と育児・介護の両立を目指す企業様をサポートしています。
ミラサポ事務局:具体的にどのような支援を行っているのでしょうか?
育児・介護支援プロジェクト事務局:大きく分けて、「セミナー開催」と「訪問支援」を行っています。
![]() 「育児プランナー」による支援の流れ |
![]() 支援のお申し込みと「介護支援プラン」の流れ |
ミラサポ事務局:よくある相談と具体的な支援内容を教えてください。
育児・介護支援プロジェクト事務局:「訪問支援」では、ほとんどが具体的な何かではなく「初めて対象者が出た、何をしたらいいかわからない」という相談です。
【支援策】
① 就業規則や育児休業規定の整備【支援を受けた感想】
全てがわからないことばかりの中で、本事業を知り支援の申し込みをしました。厚労省の「育休復帰支援マニュアル」に沿った支援は非常にわかりやすく、プランナーさんの経験談に基づく親身な支援とお人柄の良さで気さくにご相談ができ、働き方改革のきっかけになりました。ミラサポ事務局:介護支援については、どのような企業様が多いですか?
育児・介護支援プロジェクト事務局:2025年問題*など、介護は社会的な課題であり、対策が必要だろうということはわかっているが、何を相談したら良いかわからないという企業様が多いようです。
セミナーに参加いただいたご担当者が「対象者が出てからでは遅い、介護支援に我が社も取り組まなくては!」と感じても、育児支援と違ってなかなか進められないことが多いようです。
育休の場合は、おめでたい話で比較的報告しやすく、目に見えても分かるため周囲もサポートできます。また、ある程度早く休みに入る前に報告があるため準備もできます。しかし、介護の場合は、介護をしている対象社員がいても顕在化していないことが多いです。社員は報告や相談が出来ずに一人で抱え込み、仕事との両立に限界を感じて急に辞めてしまうのです。冒頭の総務省の調査によると、介護を行う従業員の数は約300万人に上ります。年齢も40歳から60歳代が中心となっています。まずは社内で調査をしてみると、対象者はすでにいる可能性が高いと思います。
介護での事例も一つお伝えします。
セミナーを聞いて重要性を感じたあるご担当者が、熱意をもって上司の部長に介護制度の説明をしたところ、実はその部長自身が介護をしていた、という事例があります。ご担当者はその部長にロールモデルになっていただくようお願いしその後、部長が社長と掛け合い、制度を整え全社的に取り組みを進められました。
親が倒れたというと「今すぐ行ってこい!」と送り出しますよね。その後少しして戻ってきますが、この後のフォローも大切です。まずは「地域包括支援センター」に相談することをお勧めします。
介護休業は対象家族1人につき通算93日間(3回まで分割可)ですが、公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2018年)」によると介護は平均で4年11か月にわたります。その93日間は実質的な介護をするためだけではなく、役所に行ったりケアマネージャーに相談したりと、介護できる環境・システムを整えて仕事に戻るための期間でもあると捉えていただきたいです。
調査によると、介護離職してしまっては、経済面はもちろん精神面も楽にはなりません。介護が終わった後は貯金もなくなっているかもしれません。従業員が介護離職することなく、仕事と介護を両立できる環境を会社が整えなければならないのです。
*2025年問題とは、約800万人いると言われる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上の人)になって超高齢化社会へ突入する問題です。2025年には2200万人までふくれあがる(全人口の4分の1)と予測されています。
ミラサポ事務局:重要性はわかっていて長期的にみると人材定着にもなりますが、中小企業にとっては短期的には負担も大きくなかなか取り組みにくいかと思います。相談以外に活用できる支援はありますか?
育児・介護支援プロジェクト事務局:制度等の支援体制を整え周知し、実際に制度を利用した対象者が出た際、ある一定の要件を満たした場合に「両立支援等助成金」を受給できます。
(主なコースや支給額については、図をご覧ください。)
両立支援等助成金は都道府県労働局において審査・支給するもので、プランナーからの支援(2回目以降のフォローアップ支援も含む)を受けても両立支援等助成金の支給はお約束できるものではございません。必ず都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にご確認ください。
なお、「両立支援等助成金」の他にも地方自治体等で支援を行っている場合もあります。併用可能なものもありますので、自治体等にお尋ねください。
▶両立支援等助成金のご案内(リーフレット)はこちら
▶両立支援等助成金支給申請の手引き(パンフレット)こちら
事例にもありましたが、仕事と育児・介護の両立支援に取り組んだ結果、育児・介護による離職を防いで社員が長く働き続けられる会社になるだけでなく、
・経営のトップが積極的に両立支援に取り組むことで、企業文化が構築され、自社に対する信頼感・ロイヤリティが高まる。
・管理者層と社員間のコミュニケーションが促進されることにより、働き甲斐、向上意欲が促進され、結果として働き方の改革につながり、生産性が高まり、業績が向上する。
・休業中の時間の過ごし方から"生活者視点""育児経験""新たな視点"を得て「ものの見方」が変わり、新たな提案、業務に対する姿勢の変化により会社の発展にさらに貢献することができる。
このような企業価値を高めることにもつながります。