公的機関の歩き方

中小企業・小規模事業者の"技術の悩み"を解決に導くコンシェルジュ

Vol.7 国立研究開発法人 産業技術総合研究所

第7回は「国立研究開発法人 産業技術総合研究所」(略称:産総研)の歩き方をお届けします。
産総研は、約9,000名の研究者を擁する日本最大規模の研究機関であり、多岐にわたる領域の研究はもちろんのこと、その研究は学術的なものだけでなく、産業界の技術的サポートも使命としています。特に中小企業・小規模事業者の技術支援には大きく力を注いでいます。
その一環として北海道から九州まで全国に7つの拠点を設けています。
技術開発や技術の事業化などで悩まれた場合は、電話や電子メールでいつでも相談できます。
そんな産総研の中小企業・小規模事業者支援の内容をご紹介します。

日本最大規模の研究機関

1882年に開所した地質調査所を始め、旧通商産業省工業技術院の15研究所と計量教習所を母体とする「国立研究開発法人 産業技術総合研究所」(産総研)は、約9,000名の研究者を擁する日本最大規模の研究機関です。
その研究領域は、材料・化学からエネルギー・環境、情報・人間工学、エレクトロニクス・製造、生命工学など計7領域と多岐にわたります。
産総研は、それらの学術的研究以外に「民間企業に対する技術の橋渡し」や「地域との連携による企業の課題解決」といった産業界を技術的にサポートする大きな役割も務めます。そのために北海道から九州まで全国に7つの地域拠点を設けています。産総研は7拠点をネットワークでつなぎ、地元の産業構造や技術ニーズ・シーズにマッチした研究開発を実施しています。
また、先端技術を事業化するためにベンチャー企業の創出・支援も行います。さらに、産業界で活躍できるよう技術系学生(修士以上)や若手博士人材(ポスドク)の育成に注力し、産業界に研究者・技術者を送り出しています。

全国7拠点で地域産業をサポート
産総研では、地域の中小企業が必要とする技術に対し、全国7つの地域拠点が窓口になって開発を支援してくれます。これら地域拠点は、地域に密着して技術開発を支援してくれる中小企業の強い味方です。

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中小企業の技術支援に力を入れる

産総研は産業界の技術サポートとして中小企業の技術支援にも大きく力を注いでいます。産総研では、事業のステージに応じて「技術コンサルティング」を実施し、そこにはさまざまなコンサルティング・メニューを用意しています。
では、産総研の技術支援を受けるにはどうすればよいのでしょう?まず、中小企業が技術開発や技術の事業化で悩んだ場合、全国7つの地域センターかつくば本部が相談を受け付けます。どんなことでも電話か電子メールで相談すれば、その内容に応じて適切な研究者を仲介してくれます。
しかし、産総研は企業からの相談を待っているだけではありません。産総研から外に赴き、企業の相談事を足で探し出してくる部隊がいます。それが、イノベーションコーディネータ(IC)と、中小企業連携コーディネータ(SCET)です。彼らは、企業の技術の悩みとその解決に導く研究者とをつなぐ"コンシェルジュ"という役割を担っています。
どちらも日本中で活躍していますが、特に、産総研で唯一、地域拠点の無い関東地域で活躍しているのが、中小企業への支援を主眼におくSCETです。
ICやSCETの活動は、日々の企業訪問から、イベントでの産総研の技術紹介役、契約締結時のアドバイザーなど多岐にわたります。ICの中でも公設試等の職員や元職員を委嘱・雇用する「産総研IC」と呼ばれる方々が42道府県におり、より地元に密着した活動でもって企業の技術相談に対応しています。
また、彼らコーディネータ達の活動に加えて、産総研では、全国でセミナーやフェアを開催することで、産総研の技術の紹介と中小企業支援の内容の訴求を図っています。
能動的に企業と産総研の技術とのマッチングを図り、また、単なる技術支援のみならず、資金獲得を目指した技術支援や応募時の提案支援もする。それが産総研の中小企業支援なのです。

電話、メールでいつでも相談できる
中小企業の技術開発支援を大きな使命とする産総研は、技術開発の相談ならどんなことでもいつでも電話やメールで受け付けてくれます。また、その技術相談でコンシェルジュ(案内人)を務めるのがイノベーションコーディネータです。産総研の7地域拠点だけでなく、全国各地のセミナー、フェアでもイノベーションコーディネータに相談できます。

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「総合力」を発揮するイノベーションコーディネータ

産業技術総合研究所には、地域の中堅、中小企業の支援のためにイノベーションコーディネータが170人以上います。その顔ぶれは、大企業の元役員や公設試験研究機関(公設試)の元所長、産総研の元研究者など多彩です。
中小企業と研究機関の産学連携は行き詰まりかけた時の対処が重要です。それについてコーディネータが企業と研究者をつなぎ連携の成功率を高めます。
産学連携には国や地方自治体から助成金などを受けるプロジェクトが多く、中小企業は負担する投資を簡単に損失計上できません。プロジェクトが行き詰まりかけた時、進むべき軌道に戻す"総合力"(異分野も俯瞰できる知見)が必要になります。
この場面で力を発揮するのが連携を仲介するイノベーションコーディネータです。研究開発で当初のもくろみが外れても次に必要な技術を探し、新しい研究者と引き合わせて技術を補完するのです。
大学や研究機関が地域の企業と組んで地方創生につなげるために、コーディネータの役割が増しています。そこで産総研は公設試との連携を進めました。公設試の元所長や元副所長など地域に顔の広い技術者をコーディネータとして迎えたのです。現在、イノベーションコーディネータの3分の2は公設試などの出身者が占めています。産総研と全国の公設試が連携するため、応えられる技術の幅も広がりました。産総研・前理事兼イノベーション推進本部長の瀬戸政宏フェローは「日本全国規模のネットワークと技術領域をカバーした。応えられない技術はない」と断言します。総合力を公設試との連携で担保したのです。
ただ、連携上の総合力はコーディネータが動かなければ具体化しません。瀬戸フェローはコーディネータ会議で「マメに行き、よく聞き、すぐやる」と繰り返し唱えてきました。企業を訪ねて課題を聞き、応えられる技術を探します。「橋渡しに細かなテクニックはない。信頼に応える行動原理があるのみ」と強調します。この姿勢は外資系のコンサルタントにも通じるものがあります。
それは、新米コーディネータや研究者出身のコーディネータにとってはカルチャーショックです。前職の常識は通用しません。瀬戸フェローは「会議は侃々諤々の議論になる。理性的な大人同士のケンカに近い」と表現します。こうした忌憚のない意見交換がコーディネータのレベルを高めるのです。

イノベーションコーディネータは頼りになる存在
産総研のイノベーションコーディネータは、「応えられない技術はない」というほど、どんな技術の悩みにも対応してもらえる頼りになる存在です。相談すれば、足繫く中小企業を訪ね、課題の解決に尽力してくれます。42道府県とほぼ全国の公設試でイノベーションコーディネータが対応してくれます。

産総研の中小企業支援事例

ICの仲介による中小企業の技術開発事例を紹介します。

① 魚介類の鮮度保持用のオリジナル製氷機を開発
北海道の機械メーカー、ニッコー(北海道釧路市)は、漁船に設置する高性能な小型製氷機を産総研と共同開発しました。漁船には、魚介類の鮮度を保持するために大量の氷が出港前に搭載されます。しかし、漁業現場ではこれまでの大量の氷の搭載ではなく、鮮度保持効果の高い氷を船上で海水から製氷する装置が求められていました。それに対してこれまで大型装置はあったのですが、小型漁船に搭載できる国産のコンパクトな製氷装置がなかったのです。
そこでニッコーは2009年、漁船設置型の小型製氷機を開発したいと産総研北海道センターに相談しました。それを受けた産総研のICは、省エネルギー研究部門熱利用グループ長の稲田孝明さんを仲介しました。そして魚の鮮度評価に詳しい北海道立工業技術センターを含めた3者により、魚介類の鮮度保持に効果的なシャーベット状氷(極微細な氷)を製造できる装置の共同開発が始まりました。
産総研では稲田さんを中心に氷の生成メカニズムなど基礎的研究を担い、かつICが研究資金の調達としてサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業,2010~2012年)の採択をサポートしました。
産総研と北海道立工業技術センターの支援により、ニッコーは2013年に小型製氷装置を製品化しました。同社にとって小型船上設置型製氷機では初めてのオリジナル製品となったのです。

② 医薬品技術を食品開発に展開
沖縄の食品メーカー、金秀バイオ(沖縄県糸満市)は2003年、タブレット型サプリメントの開発に薬物送達システム(DDS:ドラッグ・デリバリー・システム)の技術を活用できないかと考え、つくば本部に相談の電話をしました。それを受けたつくば本部では機能化学研究部門長の北本大さんを仲介し、共同研究を始めました。ただ、相談を受けた当初は「これは無理」と北本さんは感じましたが、本格的な共同研究の前段階である技術研修(予備試験)を実施してみると、「これはできる」と見通しがつきました。
DDSとは、医薬の有効成分を患部に適切に届けるため、ナノサイズの膜に薬を包んで患部に送達する技術です。そのため共同研究では、サプリメントの有効成分をナノサイズの膜に包む技術の開発や食品機能の検証などを実施し、産総研は北本さんを中心に物性評価の研究を担いました。
また、その過程で産総研は2004年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金(地域新規産業創造技術開発費補助金)採択をサポートし、製造や製品に関する特許の申請・取得など知的財産戦略もサポートしました。
2年間の共同開発の結果、2005年にナノカプセル化したタブレット型サプリメントの製品化に至りました。DDS技術を利用した国内初の食品でした。

相談から技術課題を打開し、新製品開発へ
産総研ではさまざまな中小企業の技術開発支援をしています。ご紹介した2つの事例のように、悩んでいる技術開発について気軽に産総研に相談すれば、その解決に向けた研究者を紹介し、共にゴールに向かって進んでくれます。技術について悩んでいるなら、まずは気軽に相談をしてみましょう。

どんなことでも気軽に相談を!

産総研では、中小・小規模事業者の技術支援に大きな力を注いでいます。
そのために全国7つの拠点および42道府県の公設試に技術相談のコンシェルジュ(案内人)であるイノベーションコーディネータを配置しています。どんな技術の悩みでも電話やメールで相談すれば、イノベーションコーディネータを介して共同開発の伴走者となる研究者を斡旋してくれます。また、技術面だけでなく、資金や知財など含めた総合的な支援してくれるのが産総研の技術支援です。
冒頭にも記したよう、技術についての悩みは電話やメールでいつでも相談できます。気軽に連絡してみましょう。

インタビューをした人

エネルギー・環境領域
省エネルギー研究部門
熱利用グループ 研究グループ長
稲田 孝明さん

材料・化学領域 機能化学研究部門
研究部門長
北本 大さん

産業技術総合研究所フェロー(工学博士)
瀬戸 政宏さん

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