公的機関の歩き方

中小企業者研修のオーソリティー

Vol.10 中小企業大学校

中小企業大学校

第10回は「中小企業大学校」の歩き方をお届けします。
中小企業大学校は独立行政法人中小企業基盤整備機構の所管で、中小企業と企業支援者の人材育成を目的に全国で9校を展開し、さまざまな研修を実施しています。
そんな中小企業大学校の歩き方を伺いました。

それぞれの企業課題を解決するための研修を提供

中小企業大学校での受講風景(東京校)

中小企業大学校での受講風景(東京校)

中小企業大学校の人材育成研修は長い歴史を持っています。1962年には財団法人日本中小企業指導センターとして中小企業診断員(現在の中小企業診断士)養成課程などの研修を開始し、研修コースや研修体制を充実させながら、1980年に中小企業研修所を「中小企業大学校」に改組するとともに、東京校に続く関西校を開設しました。

現在は中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」という。)の所管となり、東京校、旭川校、仙台校、三条校、瀬戸校、関西校、広島校、直方校、人吉校の9校を全国に展開、年間1万4千人の受講者を対象に研修が実施されており、受講者数は延べ約63万人に上ります。

そのうち最大規模の東京校では年間110コースの研修が行われ、企業者研修が60コース、支援者研修が50コースという規模で行われています。

東京校以外の8校でも、それぞれ年間40~50コースほどの研修が行われています。地方校ではその地方の特色を反映した研修も実施されており、例えば旭川校では建設業や観光に関する研修が、東京校では医療機器に関する研修などがあります。

中小企業大学校の研修の特徴の1つは、3日・4日・5日間などの短期の研修から長期にわたる研修が受講できる点です。

民間でも多くのセミナーが開催されていますが、期間は半日から1日、また、聴くだけというセミナーも多く、知識の収集に偏りがちです。一方、中小企業大学校の研修の中には10カ月の全日制で行われる「経営後継者研修」や、毎月1週間ずつ12カ月に渡たって実施する「経営管理者研修」のような長期のものがあります。

また、講師の話を聞くだけの知識型の研修ではなく、「わかる・できる・やってみる」をポリシーにして、特に長期の研修では、知識を自分の会社の場合に置き換え、自社分析し問題を把握して持ち帰るためのゼミナールを実施、実際に自社の財務データなどを分析した発表を最後に行います。同じ研修を受講した自社の幹部同士が共通の言葉と体験をもとに仕事の会話をできるようになる点も重要なアドバンテージで、「経営管理者研修」に毎年度社員を派遣する企業が多いそうです。

3日程度の短期コースでも、グループワークは必ず設定されており、個人のスキルアップにとどまらず、中小企業経営の課題解決につながる成果を持ち帰れます。

また、「経営後継者研修」であれば、受講者は10カ月に渡って共に学びあうため、受講期間を通して全国規模の異業種のヒューマンネットワークも構築され、後のビジネス上の財産となります。

中小企業大学校の各研修はテーマが明確化されていることも特徴です。財務や生産管理などの一般的なテーマでは広すぎて受講者の現場での経験活用が困難なため、「キャッシュフロー重視による利益・資金計画の作り方」や「生産計画改善とリードタイム短縮の進め方」など、絞り込んだテーマの研修を提供しています。

国の施策の一環として実施しているため受講料も抑えられており、「人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)」などの交付金や自治体や商工会議所の助成金も利用できるため、企業の負担を軽減した研修受講が可能です。

研修の利用方法

設備が充実している研修施設(東京校講堂)

設備が充実している研修施設(東京校講堂)

中小企業大学校では、研修情報を網羅した「研修ガイド」を各校が毎年度作成し、受講企業や未受講企業に発送しています。また、個別の研修のチラシも作成し発送しています。これらには申込書が付属しているので、必要事項を記入して各校にファックスまたは郵送することで受講申し込みができます。

また、中小企業大学校のホームページから申込書のダウンロードやオンラインでの申し込みも可能です。中小企業が対象であるため、業種によって従業員数や資本金で制限がある点に注意してください。

研修施設は、例えば東京校の場合、5階建ての建物に200人収容可能な講堂、70人教室2室、50人教室が12室など全23教室に加え、ゼミ室7室やパソコン作業室、図書館、研修生交流室、食堂など、充実した設備が備えられています。

また、東京校には300室以上の宿泊設備を持つ東大和寮(東京・東大和市)が併設されており、短期から長期まで宿泊研修が可能になっています。このため日常から切り離された形で研修に集中可能です。

各地方校においても同様に、食堂や宿泊施設など充実した設備が備えられています。

研修の本当の価値がわかるのは将来

中小企業大学校の研修を活用する企業のなかには、長年利用を続けて人材育成に熱心に取り組んでいる企業も多く見られます。その一部を紹介します。

(1)社内ではできない教育を受けられる

クア・アンド・ホテルの三森中社長(左)と川上淳一本社管理本部長

クア・アンド・ホテルの三森中社長(左)と川上淳一本社管理本部長

1979年に甲府市でビジネスホテルを開業し、その後、笛吹市、塩尻市、静岡市で健康ランドとホテルを併合した総合レジャー施設を相次いで開業してきた株式会社クア・アンド・ホテル(山梨県甲府市)では、健康ランドの繁忙時間である昼間と宿泊施設のピークタイムの夜間で、従業員は持ち場をシフトし、細やかなサービスを提供しています。

高い生産性と顧客満足度は、現場を受け持つリーダーたちの接客と管理スキルに左右されるため、その人材育成に中小企業大学校東京校が実施する研修を利用しています。

研修派遣を開始した2002年より、以降、「経営後継者研修」、「経営管理者研修」を20人が利用、幹部社員はほぼ経営管理者研修の受講経験者です。同ホテル代表取締役社長の三森中氏は研修の効果として、「経営ノウハウを学びひと回り大きくなって帰ってくる」「多様な問題意識の醸成と異業種交流による人としての深みが備わる」の2点を挙げ、これは社内では教育できないと述べています。同ホテルではそのほかにも、毎年短期研修の「リーダー養成研修」など数コースへ20人規模の派遣を継続しています。

こうした継続的な人材育成の取り組みが、ニッポンおふろ元気プロジェクトが主催する「おふろ甲子園」での同ホテルの2年連続の優勝につながっていると言えるでしょう。

(2)意識改革とリーダーシップに効果を発揮

高保製薬工業の高橋美帆社長

高保製薬工業の高橋美帆社長

福島市で業務用食品と食品添加物製剤の開発、製造、販売、品質管理を一貫して行う高保製薬工業(福島県福島市)では、5代目社長の高橋美帆氏が2014年に就任して以来、中小企業大学校仙台校の利用を開始しました。就任時に、母である先代の時代に参加した取締役が定年を迎える時期と重なったこともあり経営陣を一新しました。自ら経営方針を示し、製造や営業など5つの部門の課長と意見交換しながら事業を進める形を採りました。このとき、5人の課長には担当部門に応じて中小企業大学校仙台校の、「経営管理者養成コース」と「工場管理者養成コース」を受講させました。

当初、多忙な中で業務以外に時間を割くことに反発もありましたが、新体制開始3年目の2017年9月の経営計画発表会では、各課長とコスト意識を持って部門別に事業目標を語れるようになってきたそうです。「受講で得た経験をもとに仕事を進めることで作業効率と業績が向上し、部下への指示も的確になってきた」と、高橋氏は課長たちの意識改革とリーダーシップを評価しています。と同時に、課長を支えるべき係長の育成にも着手し、将来は係長候補についても「経営管理者養成コース」を受講させる予定だそうです。

高橋氏自身もかつて「経営管理者養成コース」の受講経験があり、取締役時代に財務関係知識不足を補うため自身で受講を決めたそうです。「数字の見方を学んだことで損益計算書だけでなく、貸借対照表、キャッシュフローもしっかりできるようになった」と、当時を振り返ります。現在では同社の粉体と液体の2つの工場はフル稼働しています。

さらなる受講機会の拡大に取り組みます

1980年度から行われている「経営後継者研修」は東京校のみで実施されており、毎年定員20名の募集ですが、北海道から沖縄まで広い地域から受講者が集まっています。ここ6年間は過去に同研修を修了された経営の後継者が参加しており、ロングスパンでのリピートのニーズがあります。後継者が自社に戻るタイミングや自社に戻って間もない後継者の経営の基礎知識の習得や第二創業の役に立っているとのことです。ただ、10カ月間(10月から翌年7月まで)自社から離れて東京校で研修を受けるため、すでに社内で戦力となっている後継者には受講派遣が難しいという面もあり、今後はより多くの経営後継者が受講機会を逃さぬよう、より一層認知度を高めていきたいといいます。

各大学校では、経営環境にあわせ、受講者からのアンケートも参考に毎年研修の見直しを行っており、例えば、東京校では、2017年度にはIoTをテーマにした研修が追加になり、2018年度にはAIをテーマにしたコースの追加が予定されています。

一方、多忙な企業人材がよりアクセスし易い場所で受講したいというニーズに応えるため、地域の身近な場所で大学校と同質な研修が受講可能な「中小企業大学校サテライト・ゼミ」も2017年度より試験的に開始され、2018年度からは全国的に本格展開される予定で、現在、地元開催希望で連携できる組織を募集しています。

インタビューをした人

独立行政法人中小企業基盤整備機構
経営支援部 人材支援グループ審議役
熊川康弘さん

熊川康弘さん

独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業大学校 東京校
校長
今野高さん

今野高さん

独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業大学校 東京校
企業研修課審議役
山田恵一さん

山田恵一さん

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