公的機関の歩き方

中小企業のバトンタッチを支援

Vol.18
事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センター

第18回は「事業引継ぎ支援センター」の歩き方をお届けします。
事業引継ぎ支援センターは全国に48カ所設置され、事業を譲渡したい中小企業者や、事業を譲受したい企業の皆さまなどが相談できる機関です。
その事業引継ぎ支援センターの歩き方を、事業引継ぎ支援全国本部を担う独立行政法人中小企業基盤整備機構に伺いました。

事業引継ぎ支援センターの概要について

事業引継ぎ支援センター一覧

事業引継ぎ支援センター一覧
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事業引継ぎ支援センター(以下「センター」という。)は、国(中小企業庁)によって2011年度から設置され、2016年度までに全ての都道府県に整備されました。各都道府県に1つずつありますが、東京都にのみ、「東京都事業引継ぎ支援センター」と、「東京都多摩地域事業引継ぎ支援センター」の2つがあります。全国48カ所のセンターの一覧は、図「事業引継ぎ支援センター一覧」をご覧ください。

経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(2017年10月)によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人で、うち約半数の127万社で後継者未定の状態にあるとされています。現状のままだと、中小企業の廃業は増え、2025年頃までに約650万人の雇用および約22兆円のGDPが失われる恐れがあります。そのため、事業承継の集中的な支援や取組が求められているのです。

中小企業の事業承継のトレンドに目を向けると、図「事業の承継先の変化」にあるとおり、30年以上前までは親族以外への承継が全体で1割程度でしたが、直近(0~5年未満)では「親族以外の役員・従業員」「社外の第三者」への承継が合わせて6割を超えている状況で、親族以外への承継が主流になってきています。

事業の承継先の変化

事業の承継先の変化
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センターは、M&A(企業の合併と買収)をはじめとする、第三者に対する事業承継を主な支援の対象としていますが、それ以外にも事業承継に関するあらゆる相談に原則として無料で応じています。上述のような外部環境の中、センターが関わった相談や成約の実績も年々、増えてきています。相談者数は2017年度の1年間に8,526件、成約数は同687件。そして開設から2017年度までの累計で1,478件が成約に至っています。後述する事例のケースのように、長年培ってきた貴重な技術力の伝承や、地域における雇用の場の維持など、センターによる支援は、社会的意義のある成果を上げています。

センターでは、後継者のいない中小企業・小規模事業者と、事業を引き継ぎたい事業者や個人を主な対象として、事業引継ぎに関する情報提供や助言、相手先企業の探索やマッチングの支援などを行っています。その他にも、「事業承継を考え始めたが、何から着手したらいいか」「自分の経営している会社を誰かが買ってくれるような可能性はあるのか」といったような、漠然とした事業承継・事業引継ぎに関するさまざまな相談にも対応しています。

各センターには、1名の統括責任者および数名の統括責任者補佐が配置されていて、彼らが相談に応対します。統括責任者には地銀の出身者や公認会計士、中小企業診断士など、M&A業務に精通した人物が任命されています。

全国本部が拠点をサポート

独立行政法人中小企業基盤整備機構は「中小企業事業引継ぎ支援全国本部」として、各センターの案件成約に向けたさまざまなサポートをしています。具体的には、業務運営に関するセンターへの助言や研修、統一的な規約およびマニュアルの整備、マッチングを支援するデータベースの開発および管理運用、センターの認知度向上のための広報活動(事業引継ぎポータルサイトの運営やインターネット広告、フリーペーパーの制作、ダイレクトメール)などを実施しています。

この他に、M&A業界では一般的である匿名情報を使ったマッチング促進を図るため、事業引継ぎ支援全国本部では「ノンネーム(匿名)データベース」を開発・運用しています。これは、売りたい・買いたい事業者の相手探しの際に、社名や業種、従業員数、売上高、資本金、所在地などのうち、企業を特定される恐れのある情報の一部を秘匿した匿名情報を作成し、データベースを通じてより多くの方に情報を開示することによって、相手探しの効率を高める仕組みです。相談者の希望に応じて登録します。このデータベースはセンターの他、登録民間支援機関およびマッチングコーディネーター(センターに登録する金融機関や士業法人など)が閲覧することができ、マッチングの加速化が期待できます。

事業引継ぎポータルサイトはこちら

センターを活用して事業承継を果たした事例

全国本部が収集する支援事例の中から、地域のセンターによる支援を受けて事業承継を果たした事例の一部を紹介します。

事例1 県境を越えてニーズをマッチング、同業者を探索

(左から)ヤマト食品(株) 岩見社長、埼玉県事業引継ぎ支援センター 石川さん、さいたま給食(株) 中里さん

(左から)ヤマト食品(株) 岩見社長、埼玉県事業引継ぎ支援センター 石川さん、さいたま給食(株) 中里さん

さいたま給食(株)は、大手給食事業会社に勤務していた中里さんが60歳で立ち上げました。人情味あふれる経営で顧客や取引先を広げ、黒字決算を続けていました。

しかし、70歳を迎え中里さんに「引退」の二文字がよぎったとき、「従業員への事業承継を考えたが、経営者になるリスクを負わせられる従業員はいなかった」と語ります。

中里さんから事業承継の相談を受けた、埼玉県事業引継ぎ支援センターの高嶋さんは、「中里さんは、以前からM&Aを選択肢に入れて事業承継を検討していた」と当時を振り返ります。

同センターが県域にとらわれないマッチングを図ったところ、 2016年6月、東京都事業引継ぎ支援センターの登録企業に、給食事業の買収ニーズを持つ(株)CSSホールディングスがありました。同社の傘下で、神奈川県本社の給食事業会社、ヤマト食品(株)から買収の意向があったのです。

中里さんは、顧客第一の姿勢から同業者への譲渡を望んでいて条件に合致。埼玉県事業引継ぎ支援センターが取り持ち、両者の調整に入りました。ヤマト食品(株)の岩見社長は調整時の印象を「中里さんは顧客、従業員への想いが第一にあった」と語ります。

最終的に「事業譲渡」という形で事業承継を完了したことで、さいたま食品(株)の社員は退職金を受け取ることができました。また、中里さんが1年間、会社に顧問として残ることで、その後もスムーズに移行できたのです。

規模の違う企業同士が遠隔地でも縁を結ぶことができたのは、さいたま給食(株)が健全経営を長く続けてきたことにあります。

事例2 椅子張りのプロフェッショナルが、技術と雇用を次の世代へ

高和製作所 高橋さん(左)、北日本ボード工業 半田社長

高和製作所 高橋さん(左)、北日本ボード工業 半田社長

秋田県で50年以上にわたり椅子張りを手がけ、県の優良技能者にも数えられる高和製作所の高橋さん。手がけた椅子は大手百貨店や銀行、公共施設、海外にも納められ、その腕前には定評があります。

しかし75歳に差しかかった頃から、7名の社員を抱えていた高橋さんは経営者としての引退時期を模索していました。

同社に訪れた秋田県事業引継ぎ支援センターの河田さんは、高橋さんから「事業を引き継ぐとなったらどのように進めたらいいか」と相談を受けました。

一方で高橋さんは、40年来の取引先である北日本ボード工業の工場長に「自分が辞めることになったら社員を頼む」と打診していました。その反応も良好で、社員にも引き継ぎたいという人はいなかったことから、北日本ボード工業に会社を譲渡することを決意したのです。

これを受け、同センターは弁護士を派遣し、事業譲渡契約に向けた実務のサポートを行うとともに、高和製作所のメインバンクである秋田銀行が調整役として契約を進めました。

北日本ボード工業の半田社長は、「地域の産業を維持するためにも、優れた腕を持つ職人の雇用を維持したいという想いがあった」と語ります。高橋さんは、社員を全員雇用すること、また、社員たちの待遇は社会保険や退職金の積み立てを継続してもらうことを念押ししたのです。

事業を譲渡した高橋さんは、北日本ボード工業秋田営業所の窓口として、現在も仕事依頼を受けています。また、培った技術で地域の若手の育成に精を出しています。

一方、北日本ボード工業では張り部門の拡充を図るなど相乗効果を生む体制作りに取り組んでいます。事業の譲り手と引継ぎ手、それぞれのさらなる挑戦が始まっています。

他の機関と連携した支援を実施

事業引継ぎ支援事業の支援スキーム

事業引継ぎ支援事業の支援スキーム
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センターによる具体的な支援内容を説明します。譲渡企業と譲受企業とのマッチングに関する支援では、大きく分けて以下の3つの対応を行います。

(1) 1次対応:センターによる相談対応

事業引継ぎに関するご相談は、お気軽に最寄りのセンターをご利用ください。

センターへの相談内容、売りたい事業者の情報および買いたい事業者の情報など、センターが保有する情報は全て「事業引継ぎ支援データベース」とよばれるシステムに集約されます。秘匿性の高い情報であるため、同データベースは全国のセンターのみが閲覧できます。

センターでは、このデータベースの情報をもとに、それぞれの相談者ごとの課題解決に向けて、支援の方向性を検討していきます。

また、センターでは、必要に応じて他の支援機関を紹介するなど、他機関と連携した取組を行っています。事業者から相談を受けた段階で、金融債務の整理が必要であったり、赤字体質であったりと、すぐM&Aの手続きに移行することが難しいケースでは、経営状態の改善を先に行う必要があります。その際は、よろず支援拠点や中小企業再生支援協議など、それぞれの状況に応じて適切な機関を紹介しています。

公的機関の歩き方Vol.8「よろず支援拠点」はこちら

公的機関の歩き方Vol.12「中小企業再生支援協議会」はこちら

(2)2次対応:登録民間支援機関に橋渡し

相談者の希望に応じ、相手探しから成約までを担うことができる登録民間支援機関に橋渡しし、事業引継ぎをスピーディに進めます。以降は民間機関が業務を担うため、それぞれの機関が設定する仲介手数料などがかかります。

(3)3次対応:センターが自ら引継ぎを実施

センターの役割は、上述の「2次対応」による橋渡しを基本としますが、相談する事業者が仲介手数料の支払いが難しい場合など、何らかの理由で相談者本人が2次対応を希望されない場合、センターが自ら引継ぎ支援を行います。ただし、この場合でも事業引継ぎの過程で外部の専門家(弁護士、公認会計士など)に、契約書作成やデューデリジェンス(企業の価値査定)などの実務を依頼する場合には、それらの実費を専門家にお支払いいただきます。

事業承継ネットワークが全国に整備

2017年度から全国に「事業承継ネットワーク」とよばれる、事業承継に関する中小企業支援機関によるネットワークが整備され始めました。現在は、県独自で取り組むものも含めると全ての都道府県で組成されていて、そのほとんどに構成員として地域のセンターが加わっています。

事業承継ネットワークの大きな役割は、全国の中小企業に対する「事業承継診断」の実施です。ネットワークに加盟する金融機関や商工会、商工会議所などの担当者が、事業承継支援ニーズなどのヒアリングを実施します。事業承継診断は全国で年間5万社に対し実施する目標で、センターはその出口支援として、後継者が不在の企業の事業引継ぎを促進する役割を担います。

事業承継ネットワークの2017年度の取組はこちら

全国の中小企業の皆さまへのメッセージ

中小企業事業引継ぎ支援全国本部の千葉さん(左)と白川さん

中小企業事業引継ぎ支援全国本部の千葉さん(左)と白川さん

近年の事業承継先のトレンドとして第三者への承継が6割を超えているというデータがあるように、事業を引き継ぎたい方が親族にいないから、といって諦めて廃業することなく、ぜひ事業を残すための取組をしていただきたいと思います。センターでは、売り手、買い手の双方がウィン―ウィンの関係となるお手伝いができることを願っています。

経営者の皆さまには、売上増加や資金繰りなどの他に、段々と少し先のこと、会社の5年後、10年後のことを考えていただきたいと思います。

事業承継の悩みは、社内や取引先、家族などにも相談できない、というケースが多々ありますが、1人で思い悩むことはありません。将来の事業承継について、何から始めたらよいか、などの漠然とした不安や疑問でも、お気軽にセンターに相談してもらえたらと思います。例えば従業員や親族に引き継ぐ場合でも、後継者を決めてから育成して承継を果たすまで、平均して5年程度はかかるといわれています。センターに相談して第三者に引き継ぐ場合でも、1年~2年はかかるケースが多くあります。ぎりぎりまで悩まずに、困りごとがあれば、お早めにご相談ください。

支援機関や士業などの支援者の皆さまには、自らの組織の会員企業や取引先の企業に対して、事業承継や事業引継ぎ問題に関する情報提供を積極的に行っていただき、早めの事業承継への取組の重要性について気づきを促していただけたらと思います。

その上で、自らの組織のみでは後継者が不在の企業の後継者や譲受先を見つけられない、という場合には、センターをご紹介いただきますようお願いいたします。

インタビューをした人

事業承継・引継ぎ支援センター 副参事
白川 雅義さん

白川 雅義さん

事業承継・引継ぎ支援センター 主任
千葉 龍之介さん

千葉 龍之介さん

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