巻頭特集|施策活用 経営に公的サポートを活かす!Vol.2|今、中小企業・小規模事業者には、生産性を向上させて収益を上げる「稼ぐ力」が求められています。それを実現するためには、補助金や専門家派遣などさまざまな公的支援を活用することが有効です。公的支援を活かして「稼ぐ力」をアップさせようとする中小企業の取り組みを紹介します。

Vol.2 平成28年度第2次補正予算小規模事業者持続化補助金<一般型>

補助金で新設備を導入し、100%天然の
「本藍染」で新商品開発と販路開拓を実現
【蛙印染色工芸】

伝統技法でも求めやすい価格の商品を提供する製法を開発した大澤一雄専務

伝統技法でも求めやすい価格の商品を提供する製法を開発した大澤一雄専務

【公的サポートの効果】
(1)

生産コスト低減を図れたことで新商品開発の可能性が広がった

(2)

生産コスト低減に伴う販売単価の適正化により、手拭いやスカーフなど身近な商品への展開で販路拡大につながった

(3)

アパレル関係など異業種との人脈構築により、さらなる新商品発想のきっかけを得た

1962年に設立の蛙印染色工芸(かえるじるしせんしょくこうげい)株式会社は、江戸時代から続く伝統の「天然藍染め技法」にこだわり、呉服やスカーフ、シャツなどの染色加工業を営んでいる。

呉服業界が年々縮小を続ける近年は、売上減少に歯止めをかけるため、手拭いやスカーフなどの日用品の開発が不可欠となっていた。そこで活用したのが「平成28年度第2次補正予算 小規模事業者持続化補助金<一般型>」だった。補助金による設備の導入で新商品の開発を押し進め、それにより販路拡大へとつなげることができた。

事業の内容と特徴

100%天然の「本藍染」にこだわる染色加工

藍染には、「すくも」(藍の葉を乾燥・発酵させたもの)をはじめとする天然素材を発酵させた液を使用して染める方法と、合成インディゴという化学染料を使用して染める方法がある。日本では、合成インディゴがドイツから輸入されるようになり、素人でも簡単に染められる手軽さから、明治時代以降に普及した。

一般にすくもを使用すれば「本藍染」と称することができる。ただ、すくもは高価であるため、合成インディゴなどにすくもを少量加えることで、本藍染と称する商品が市場に出回っているのが現状である。

しかし、同社ではすくも100%の本藍染にこだわっている。江戸時代からの技法――天然灰汁発酵は、美しい藍が表現できるだけでなく、防虫、消臭、殺菌にも効用があるのが特徴だ。天然灰汁発酵の藍染は、化学薬品を一切使わず、自然からとれる原料を用いるため環境にも人にも優しい染色方法といえる。

伝統工芸ということもあり、地元の埼玉県八潮市も応援してくれる。外国人留学生ツアーの企画、婚活ツアーの提案など同市の協力は多岐に渡る。それらのツアーでは、実際に参加者に藍染を体験してもらいながら、こだわりの本藍染について理解を深めてもらう。それにより、その場での商品購入につながったり、同社の知名度向上につながったりして売上の向上に寄与している。

伝統の藍染技法。生産に要するコストから商品の価格が高価になりがち

伝統の藍染技法。生産に要するコストから商品の価格が高価になりがち

公的支援活用の背景

売上減少に歯止めをかけるため、新商品開発の設備が必要だった

同社が使用する染料は、高価な100%天然の染料のため、あまり安価な製品の染色に用いるとコストが合わなくなる。また、染色における柄付けは、同社が防染糊を用いて型染めし、その後工程で専門業者が防染糊を落とすことで柄を表現する。この専門業者への外注費もあり、呉服などの高価な商品の染色加工が事業の中心になっていた。

一方、日本人の着物離れによって呉服業界の小売市場規模は年々縮小している。実際、2005年の6,100億円に対して2015年は2,805億円と10年間で50%以上もダウンしている(矢野経済研究所(2016)『呉服市場に関する調査2016年』)。

そうした厳しい状況下で同社は、2014年頃から経営改善計画策定支援を受け始めた。同支援では計画策定後も「モニタリング」という形で計画の進捗管理を求められるが、その支援を通して中小企業診断士など専門家との打ち合わせの機会が増えた。その打ち合わせの中でヒントを得て、同社では手拭いやスカーフなど身近な商品のラインアップを増やすことを考えた。ただし、従来の方法で柄付けすると、専門業者に外注する作業が必要となり、手ぬぐいでも1枚5,000円程で販売しないと利益が確保できないような高コスト生産になってしまう。

そこで同社は従来とは異なる柄付け方法を検討し、試行錯誤を重ねた結果、新しい柄付け方法を開発した。この方法は従来法に比べて繊細な柄を再現できないものの、専門業者に外注する作業を必要とせず、かつ自社内に新たな職人を雇用しなくとも柄付けができる。つまり従来に比べて生産コストを抑えることができるのだ。ただ、この方法を用いるためには新しいボイラーが必要だった。

そこで、顧問である中小企業診断士や埼玉県よろず支援拠点に相談すると、小規模事業者持続化補助金を教えてもらえた。同補助金は小規模事業者を対象とした、経営計画にもとづいて実施する販路開拓などの取り組みに対する上限50万円の補助金(補助率2/3)だ。同社では、同補助金への申請、採択によりボイラーを導入でき、手拭いやスカーフなど新商品の柄付けに係るコストの低減につなげられた。

補助金の申請にあたっては、自社の技術などの強みを訴えるだけでなく、市場性や競合先との関係性についても言及する必要がある。その上で、ボイラーの導入が新商品開発につながり、売上向上に寄与することを明文化する必要があった。それらは感覚ではわかっているものの、文章化するのは容易なことではなかった。

本補助金は商工会の支援を受けながら事業計画を作成することができ、八潮市商工会からは申請書の構造や記入時のポイントを明確にするための支援を受けるとともに、顧問の中小企業診断士からは文章のロジックを整え、さらにそこに「100%本藍染の伝統技術の魅力を伝えたい」という同社の思いを込めた。それが採択のポイントではないかと同社は考えている。

同社は補助金によって導入したボイラーを活用することで、藍染から柄付けまでの各工程を専門業者を用いずに自社内で完遂させられるようになった。その結果、従来方法では1枚5,000円くらいの販売単価の商品が半分の2,500円程で販売できるようになった。

一方、呉服など繊細な柄が求められる商品は新たな方法では柄付けできないため、専門業者に外注する従来の方法で柄付けしている。

補助金により新製法を開発するためのボイラーを導入

補助金により新製法を開発するためのボイラーを導入

新技法により100%天然の本藍染で生産した手拭い

新技法により100%天然の本藍染で生産した手拭い

活用の効果

販路開拓と異業種との人脈構築によるさらなる新商品展開

補助金を活用し、100%天然素材を用いる伝統の「天然藍染め技法」でも生産コストを抑制する新しい製法を開発したことにより、商品の販売単価を適正化でき、手拭いやスカーフなど身近な商品のラインアップを増やすことができた。それにより引き合いも増え、販路開拓につなげることができた。実際、新たに民芸品の取扱店との商機を得ることができた。今年設備を導入したばかりなので具体的な売上数字はまだ明確ではないが、民芸品取扱店からは年間300点程の発注が見込まれるなど確実な手応えを感じている。

また、アパレル関係など異業種との人脈構築もでき、そこでの会話から藍染の新たな用途の発想へとつながっている。現在、天然藍染の防虫、消臭、殺菌効果を活かして下着への応用に取り組んでいる。さらに、皮製品など新たな素材への応用も検討している。

同社の大澤一雄専務は、「古来より伝わる天然灰汁発酵の技術をなんとかして後世に残すため、極端に裕福でない方であってもこれなら買ってみたいと思えるようなものを今後もつくっていきたい」と語る。

こだわりの藍染技術をベースにした新製法を武器に同社の挑戦はさらに続いていく。

会社データ

企業名 蛙印染色工芸株式会社
設立年 1962年(昭和37年)
所在地 埼玉県八潮市
資本金 1,000万円
事業内容 天然藍染めによる呉服、スカーフ、シャツ等の染色加工

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