巻頭特集|施策活用 経営に公的サポートを活かす!Vol.3|今、中小企業・小規模事業者には、生産性を向上させて収益を上げる「稼ぐ力」が求められています。それを実現するためには、補助金や専門家派遣などさまざまな公的支援を活用することが有効です。公的支援を活かして「稼ぐ力」をアップさせようとする中小企業の取り組みを紹介します。

Vol.3 「生活サポート産業成長支援事業」「経営革新計画承認制度」による専門家派遣

専門家派遣により新商品開発と管理会計の導入 【OECマルシェ】

地産地消型のカフェ・レストランを営む渋谷正則社長

地産地消型のカフェ・レストランを営む渋谷正則社長

【公的サポートの効果】
(1)

子ども連れママさんが公園内で楽しめる、新商品の開発に成功

(2)

単価の高い新商品投入でドリンク類の売上が20%アップ

(3)

コストや利益の結果を共有することで従業員の意識を改革

2012年に設立のOECマルシェ株式会社は、地産地消カフェ・レストランの企画・運営を行っている。

かつてフランス料理店を構えていた同社社長は、「地域の人に、地元の安心・安全な食材をもっとたくさん提供したい」との思いから、カジュアルなカフェやレストランに転向。近隣の多くの方々に親しんでもらいたいことから、2度の専門家派遣を活用し、新商品開発や経理の管理手法について支援を受け、規模を拡大させ続けている。

事業の内容と特徴

消費者の声を生産者に届けることで、「安全な食」が循環を始める

広大な緑地を擁する「所沢航空記念公園」は、東京都のベッドタウン、埼玉県所沢市に立地する市民憩いの場である。OECマルシェ株式会社は、2013年、その園内に「エコトコファーマーズカフェ」を開店、2015年には隣接する文化施設内で「ミューズレストラン響」および「ミューズカフェ彩」の運営を開始した。

同社社長の渋谷氏は、市内で10年ほどフランス料理の店を構えていたが、所沢産野菜を使った料理を提供した時、来店客が喜び、そしてその美味しさに驚くことを実感していた。さらにその反応を生産者に伝えることで、生産者も喜び、消費者を意識した生産が行われる、そんな循環が生まれた。それに気づいたとき、「日常の中にあるカフェやカジュアルなレストランで、地元の安心・安全な食材をもっとたくさん提供したい」と考えるようになった。

渋谷氏は市内の生産者との連携を強化しながら、「生産者から消費者」のみならず「地域の消費者から生産者への循環」を意識した経営を続けている。

公的支援活用の背景

専門家派遣の活用で、利益の出る商品を新規開発

同社では2度の専門家派遣を利用している。

1度目は、女性フードコーディネーターによる新メニュー開発のサポートであった。エコトコファーマーズカフェは開店から1年ほど経っていたものの、それまで渋谷氏にカフェ事業の経験が無かったこともあり、カジュアルなメニューの開発に苦心していた。そこで地元商工会議所から埼玉県及び公益財団法人埼玉県産業振興公社が実施する「生活サポート産業成長支援事業」の紹介を受け、専門家のアドバイスのもと来店客のニーズを汲んだメニューを開発することとした。

女性向けで健康的、そして地域の農作物を活かすという観点から最初に考えたのはスムージーだった。試作品なども作りながら検討を続けたが、「公園」という憩いの場で提供するというより、健康志向がより高いフィットネスクラブなどで提供されるようなイメージが強く感じられた。もっと気軽に、子どもでも楽しめるものをと専門家とともに意見交換を重ねた結果、野菜ではなく果物に着目することにした。市内には無農薬でイチゴやブルーベリーなど、果物を生産する農家がある。それらを仕入れ、季節のソーダを作れば、子どもにも安心して飲ませられる気軽なドリンクとして提供できる。

2度目は、「ピクニックバスケット」の商品開発および販促計画の策定だ。ピクニックバスケットとは、県内産の杉材を使ったバスケットに、カフェの商品を詰め合わせて来店客に提供、公園内の好きな場所へ持っていけるようにした製品である。

公園内にカフェを開くと決めた時から、渋谷氏の中には「ピクニック」というコンセプトがあったが、構想は膨らむもののなかなか具体化できなかった。特にバスケットの単価が高いため、割高感を感じさせないような商品構成にすることが難しかった。そこで埼玉県の「経営革新計画承認制度」による専門家派遣を活用し、中小企業診断士の支援を受けることとした。経営革新計画承認制度とは中小企業等経営強化法に基づき、中小企業者が作成するビジネスプランを各都道府県が承認する制度のことで、承認を受けると、政府系金融機関による低利融資制度や中小企業基盤整備機構による販路開拓コーディネート事業などの支援が受けられるものである。埼玉県ではこれらに加えて様々な経営課題に対応できる専門家派遣制度を設けており、これを活用することにしたのである。

専門家と商品の付加価値を再検証する中で、バスケットが公園内で広告塔代わりになること、口コミなどでの波及効果が見込めることに気付くことができた。これにより、バスケット自体からは直接収益を得ない方針が生まれ、利用後のバスケットを500円と引き換えに返却してもらうデポジット制の導入につながった。また、これまではすべて社長の頭の中だけで行ってきた、原価管理や販売目標などの売上管理を数値化し、モニター販売やシミュレーションを重ね、2016年3月から販売を開始、好評を博している。

開発商品の「ピクニックバスケット」と季節のソーダ

開発商品の「ピクニックバスケット」と季節のソーダ

当社オリジナルドリンクのメニュー表

当社オリジナルドリンクのメニュー表

活用の効果

ドリンク部門売上を20%伸長、従業員の意識改革も

ドリンク新メニューの開発ができたことは、売上拡大に直結した。立地柄、入り口付近も含め店の近くには公園が設置した自動販売機が多くあるため、ドリンクの売り上げには元々あまり期待をしていなかったという。同店のコーヒーやお茶などは300円前後の単価だが、季節の果物ソーダは500円強と単価が高い。これが人気商品となったことで、ドリンク部門の売り上げを商品開発前と比較して20%以上増加させることができた。また、このソーダは果物をピューレ状にして材料として利用するため、長期的なストックが可能となり、季節感を演出しつつも、生果と比べて欠品リスクが少なくなることも大きなメリットとなった。

ピクニックバスケットの製品開発と販促計画策定に際し、専門家指導のもと、その経過や数値を細かく記録したことは従業員の意識改革にもつながったという。事前に販促計画を立て、それに基づく収支予測を計算しながら販売。それを結果と照らし合わせ、計画通りにいかないところは修正のための方策を実行する。いわゆる、PDCAである。口で言うのは簡単だし、その必要性は理解できていても、具体化する方法がわからず困っている経営者も多いのではないだろうか。同社の2度目の専門家派遣では、専門家とともに1冊のファイルを作り、いつどんな販促を行ったか、その結果売り上げがどのくらいあったのか、それに係るコストや利益がどのくらいあったのか、などすべての記録をその中におさめた。それを従業員にも共有することで、組織としての振り返りや課題の抽出を簡単に行えるようになり、次の行動への道筋が明確になったという。

店内を見まわして渋谷氏はささやく。

「向こうの席で、年配の男性がお孫さんと一緒にソフトクリームを食べているでしょう? あれが理想のお客様なんです。年配の方にも小さなお子さんにも、いつでも気軽に安心して来てもらえる、そんな店づくりをこれからも目指していきます」

会社データ

企業名 OECマルシェ株式会社
設立年 2012年(2003年開業)
所在地 埼玉県所沢市
資本金 500万円
事業内容 地産地消カフェ・レストランの企画・運営

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