巻頭特集|施策活用 経営に公的サポートを活かす!Vol.5|今、中小企業・小規模事業者には、生産性を向上させて収益を上げる「稼ぐ力」が求められています。それを実現するためには、補助金や専門家派遣などさまざまな公的支援を活用することが有効です。公的支援を活かして「稼ぐ力」をアップさせようとする中小企業の取り組みを紹介します。

Vol.5 平成27・28年度中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業による専門家派遣

Webでの情報発信で売上向上へ。さらに全社的視点で事業承継に取り組む 【ヤマトパン】

積極的に経営改善を進める次期社長の久世太司氏

積極的に経営改善を進める次期社長の久世太司氏

【公的サポートの効果】
(1)

Webサイトを開設して売上5%アップ、新規に従業員を採用できた

(2)

事業承継にあたって経営全般を俯瞰する視点を得られた

(3)

SNSの活用で商品と会社のPRについて広範囲にコミュニケーションできるようになった

ヤマトパン株式会社の久世太司氏は、老舗パン店の次期社長。取引先の金融機関から専門家支援の活用を勧められたこともあったが、そうした活用を経験したことがなく二の足を踏んでいた。ところが、年齢が近く相性も良い中小企業診断士と出会い、会社経営への取り組みがより積極的になっていった。そして来年の事業承継を目指し、さらに経営改善を強めている。

事業の内容と特徴

「幻のパン」で人気の町のパン屋さん

ヤマトパン株式会社は、1951年5月に創業した、愛知県豊川市に工場・店舗を構える老舗のパン屋さん。同社は学校給食の卸および一般消費者向けにパンを製造し、販売は直営店と豊川市、豊橋市のスーパーマーケット、駅売店で行い、さらに週1回は移動販売も行っている。

同社の人気商品は、地元で古くから愛されている「たけの子パン」。デニッシュ風味の生地の中に程よい甘さのホイップクリームが入ったパンだ。創業者とその息子が苦労を重ねて創作したオリジナル商品。夏場は気温でホイップクリームが溶けてしまうため、販売は休止する。また、店頭に並べてもあっという間に売り切れてしまうことから、顧客からは「幻のパン」とも呼ばれている。

現在、同社は2018年に次期社長として就任予定の久世太司氏が中心となり、現社長で母の愛子氏とともに経営している。工場長の太司氏は「すべてのパンを美味しく製造する」というこだわりを持ちながらパン作りを続けてきた。また、元来は他の多くの同業者と同じく、学校給食や小売業者への卸販売が主体だった。しかし、県内の同業者が直営店を運営して成功したことを聞くと、「こだわりのオリジナルパンを直接お客様に販売してみたい、お客様の喜ぶ顔が見たい」という思いが募っていき、2005年には直営店をオープンさせた。

公的支援活用の背景

広範囲の商品PRと事業承継を目的に

ヤマトパンが公的支援を受けることになったのは、どういった経緯があったのだろう。

研究熱心な工場長の太司氏は、毎月のように新商品を生み出していたが、店舗での販売だけでは広範囲にわたってPRできなかった。また、太司氏は工場で生産管理に携わっているため直営店で顧客に接する時間的余裕がなく、さらに、販売担当者も製造知識がないため、新商品に対する顧客の評価を適切に得て太司氏に伝えることができなかった。

そんな状況を見聞きしていた取引先の金融機関から、専門家による経営支援を勧められた。この金融機関は、中小企業診断士などの専門家と協力して地元企業を支援することに熱心であり、同社も事業発展の手段として専門家を活用することを強く勧められた。

当初、太司氏は若手経営者仲間からも経営支援で成功した話を聞いたことがなく、さらに「会社の事情に詳しくない人のアドバイスはあまり有効ではない」という考えで興味を示さなかったが、金融機関の担当者の強い勧めから、中小企業庁の平成27年度中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業による専門家派遣を受けることにした。

これは、中小企業・小規模事業者が抱える売上拡大や経営改善などの経営課題に対して支援する事業である。

専門家派遣ではWebマーケティングに詳しい中小企業診断士を希望し、まず相談したのが広範囲にわたる商品のPRだった。そして太司氏が中小企業診断士と意見のやり取りをした結果、商品PRのツールとしてWebサイトを開設することにした。

商品PRのほかにもう1つ経営課題があった。現社長である愛子氏からの事業承継だ。工場長として製造の中心にありパン作りに自信を持っていた太司氏だが、経営にはこれまで携わってこなかったことから不安が大きかった。また、パン製造という事業は朝が早くてなかなか他の経営者やその後継者たちと交流を持てる機会がなく、事業を進めるうえでの情報交換ができなかった。

そうした状況の中で近い将来に会社を受け継ぐことへの不安を感じ始め、どこから手をつければいいのかわからなかったため、再び公的サポートとして平成28年度中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業による専門家派遣を活用することにした。

この事業承継に向けての支援では、派遣申請する取引金融機関が、限られた支援回数で効果的に成果を上げるため同じ専門家に依頼することが効率的と判断し、同じ中小企業診断士の支援を受けることになった。

デニッシュ生地にホイップクリームを挿入した人気商品「たけの子パン」

デニッシュ生地にホイップクリームを挿入した人気商品「たけの子パン」

ヤマトパンの工場。歴史ある建物から新しいパンが生み出される

ヤマトパンの工場から新しいパンが生み出される

活用の効果

Webサイトの開設で売上アップ、新規に従業員を獲得

新規に開設したWebサイトは、軽やかな色調で親しみやすいサイトにできた。同社の商品写真を掲載するだけではなく、人気商品の「たけの子パン」の製造方法を分かりやすく紹介し、なぜ「幻のパン」と呼ばれるようになったのかなど、顧客が興味を引きそうな情報も伝えることができた。また、広範な商品ラインアップや作り手のこだわりなども掲載したことから、Webサイトの開設によって売上高が5%上昇し、近隣の大手スーパーの店舗などから4件の新規取引の申し入れもあった。

残念ながら生産能力に限界があるため、新規取引は断らざるを得なかったが、今後、生産能力を拡大した際の取引先の確保に向けての自信が持てた。また、Webサイトの開設は新規従業員の獲得にも有効であり、正社員1名、パート従業員3名を採用することができた。

このWebサイト開設時に中小企業診断士からアドバイスされたのが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での情報発信である。実際、SNSで定期的に情報発信を始めると、個別に顧客とつながることができ、また、個別に通信販売の申し出を受けた相手に試作品を送って評価してもらうなど、SNSを介してさまざまな人たちと1対1のコミュニケーションが取れるようになっていった。

事業承継については、承継を前提として業務の棚卸を行い、会社全体の業務の見直しを行った。工場長である太司氏がそのまま社長になると負担だけが大きくなってしまうため、社長としての業務と工場長としての業務について会社全体で見直すことにより、組織・人事に渡る効率的な事業承継計画を作ることができた。その計画では、太司氏の代わりとなる工場長を育成することも視野に入れている。

太司氏は、年齢が近く話がしやすい中小企業診断士から2年にわたり支援を受けたことから、現在ではその中小企業診断士とはさまざまな相談ができる良い関係を築けている。

事業承継へ向けて太司氏は、経営全般を考えながらも事業の柱であるバン作りにも余念がない。製造現場での経験を活かし、「たけの子パン」を夏季も販売できる商品とするため、ホイップクリームの成分調整を繰り返している。さらに、流通にも配慮することで通年商品へと育て上げたいとも考えている。

太司氏は、会社経営と美味しいパン作りの双方に真正面から取り組んでいる。

会社データ

企業名 ヤマトパン株式会社
設立年 1951年
所在地 愛知県豊川市
資本金 2,500万円
事業内容 パン製造業

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